フーゴとリヤ(9)アンナとニコラ
アンナは嫁に行き、最初は心配もしたが上手くやっているようだ。子や孫も出来て自分のすべきことにやり甲斐を感じている。彼女は自分で人生を良きものに出来たのだ。
アンナとは今でも時々話をする。彼女が呼べば応えてやるくらいなんてことはない。
人間界ではこういうの「神寄せ」とか「夢枕に立つ」とか言われているらしいのだけどなんか一緒にされたくない。私はアンナと友達のつもりなのだから。
ある日、アンナから家族や自分の家の配下にある騎士団の面々が山で猛吹雪に遭っているようだけど、無事だろうか教えて欲しいと呼ばれた。
様子は教えてやれるけど、助けてやることは出来ないと言うとそれでいいと言う。
そこであの少年を見つけた。
ニコラという少年は背格好も何もかも違うのだけど、真っ直ぐな目がフーゴに似ていた。
フーゴの面影のある少年をとても見殺しに出来ず、前言を撤回して助けることにした。ニコラはフーゴと違うけど、話をしていて気持ちの良い少年だった。
それにしてもこの子の霊体はピュア過ぎる。
どうやら彼の母はこの世界とは違う異界から来ていて、混じったことのない血と血が合わさりホペアネンの特性が体質に強く出る先祖返りを起こしたようだ。
しかし精神の性質は母の方から強く影響を受けていた。
偶然見つけた面白いホペアネンの血統。
すぐ間近にきた氷の乙女の誕生もその同じ腹から出すことにした。
彼らで終わりにさせてもらう。ホペアネンとホペアシアの再生産を止める。そう決めた。
ホペアネンとして駆除するのではなく、完全に人間に同化させて終わらせるのだ。
駆除と言っても何千年も前に宮殿の噂を流しただけなんだけど。そもそも精霊は人間を喰らわないし。
ニコラはあの骨の山を見てススィが襲ったと勘違いしていたようだけど、あれはススィがクレバスで命を落とした者達の霊を鎮め祭ってやっていたのだ。
恐怖より氷の宮殿が見つかった喜びのなかで天に召されるよう幻覚を見せる特典付きで。
それでもホペアネンに何かしようとするなとフーゴはまた私を心配するだろうか。無茶をして私が消滅させられるのではないかと。
大丈夫、私はここのところ静かにしていたし最近は精霊王とも水の大精霊とも仲良くやってる。
それもフーゴが彼等に名を付けてくれたお陰だ。
夏のある日、ニコラの妹リリアンに名を貰った精霊ラポムはニコラやエクレールを連れて自分の宿る器である湧き出る泉トゥリアイネンに戻って来ていた。
宿る器からこんなに長い間遠くに離れていたのは初めてだけれど、ラポムも精霊としての力が付いて姿を難なく維持できるようになった。それでもトゥリアイネンの泉に戻ると力が漲ってくる。
それからあの頃フーゴが暮らしていた家のあった場所にある温泉宿にニコラは泊まり、翌日早くに宿を出た。ラポムは何も教えなかったけれど、ニコラはフーゴのポエム板のある所に寄って行こうかと言い出した。
(うれしいな、ニコラがフーゴのポエム板や氷の女神様の植えた百合を見てくれるなんて!)
橋を渡ったところで、ラポムは信じられないものを見た。
「おはようございます」
「おはよう」そう応えた羊飼いはラポムをチラリと見て、にっこり笑った。
(フーゴ!)
(フーゴじゃないか!!)
(ニコラが挨拶をしたのはフーゴ!間違いないフーゴだ!)
せっかく精霊王や水、火、風の大精霊、それから諸々の精霊たちが必死で隠蔽していたフーゴの気配だったのに、ラポムの心の声が氷の女神達に届き、ニコラの背後はその後大騒ぎになった。
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