悲恋芸術発生装置
博士「助手よ。この発明を見たまえ」
助手「また何を無駄な代物を作ったんですか? なんですか、それ?」
博士「うむ、コレはな? 『悲恋芸術発生装置』じゃ!」
助手「悲恋芸術発生装置」
博士「うむ」
助手「意味わかんないんですけど、何ですか、ソレ」
博士「名称の通りじゃ。例えばな、仲睦まじいカップルが居るとするじゃろ?」
助手「はぁ、それで?」
博士「だがたまには仲違いすることもあるじゃろ?」
助手「人間ですし、そういう時もありますよね」
博士「そして仲直りしようとするわけじゃ」
助手「まぁ、そうでしょうね」
博士「そのタイミングで、カップルの片割れを事故死させる装置じゃ」
助手「えぇ……」
博士「仲違いの原因になった方が生き残るように調整するのには苦労したぞい」
助手「頭おかしいのか、アンタ」
博士「いやまて、残された者が抱く絶望と涙、決して覆らない後悔に罪悪感とか芸術点高いじゃろ?」
助手「まぁ、言いたいことは判りますけど」
博士「『あんなこと言わなければよかった、あの人が最後に見たのは醜く罵る私の顔だなんて』とか、遺された者に背負われる十字架として最高だとは思わんかね?」
助手「コイツは今ここで殺すべきなのでは?」
博士「他にも、本当は気がある相手に噓の告白をして誤解を解こうとした瞬間に嘘告相手が死ぬとかじゃな」
助手「やめろよ、悲惨過ぎるだろ」
博士「古今悲劇は人気じゃからの、需要はあるぞい」
助手「あ~、まぁ確かにそうかもしれませんけどね」
博士「先の例からの痴情のもつれから『ざまぁ』される作品は数あれど、そもそもそうやって後の展開が有るだけ救いと言う面もあるのじゃよ……」
助手「物語だとよりを戻したり、誤解を解くあたりで救いになりますけど、その機会すらなくなる装置を生み出しておいてどの口がほざく」
博士「何、ここからループや転生物につなげるのもありじゃからな」
助手「転生トラックの付属品になるぞ」
博士「『ずっと冷たくしていた相手に暴漢から庇われて、相手がそのまま帰らぬ人となる』、というのも定番じゃな。罪悪感感じている場合にだけ有効じゃ」
助手「完全無自覚だと発動しないって事か……」
博士「いんや、その場合は罪悪感を強制的に自覚させるぞい」
助手「鬼畜の所業か?」
博士「まぁとにかく悲恋としての美しさ特化の装置と言う事じゃ」
助手「今ここで、コレを壊せば、多くの悲劇を未然に防げるな……」
博士「ネックは瞬間芸術点は高いが大概出オチになるところじゃな」
助手「駄目じゃねぇか」