オカンと竜と青嵐(春の嵐)~閑話~
昨日は投稿出来ず、ごめんなさい。キャスパー編はエルフの親善後が話の流れ的に都合が良いと投稿寸前に気付き、急遽変更しました。急いで書いた閑話なため、ちょっち短いです。
( ̄▽ ̄;)
「いやさ、理由は分かったけどさ」
幼女の目の前にはプラチナブロンドを膝まで靡かせた絶世の美女。真っ青な瞳に薄い唇が印象的な女性である。
金色は神ありき。
神々に片足突っ込んでいるのが一目で分かる姿形。
幼女も何時の頃からか魔力が白銀色にかわり、金色の粉末と靄を纏うようになっていた。
御互いに神々と懇意な二人は、凍りつく周囲を余所に無言の攻防を繰り広げていた。
先に口火を切ったのは幼女。いくぶん剣呑とした眼差しを隠しもせず、やや上目遣いで件の女性を睨めつける。
「近くに海底火山もあり、周辺を海に囲まれ、多くの魔力に満ちた秋津国が、あんたの棲みかに最適なのは理解したよ。でもだからといって、受け入れるかは別問題だよ、ラプトゥール」
ラプトゥールと呼ばれた女性は、薄く真っ赤な唇を蠱惑気に歪めた。緩やかな弧を描く唇は扇情的で艶かしい。
凍りついていた人々の男性陣が、ゴクリと固唾を呑んだ。
「ただでとは申しませんよ? この国の守護を担いましょう。鉄壁の守りを約束いたします」
睫毛バッサバサな眼を伏眼がちにすがめ、やや傾げた小首。計算されつくした、あざとい仕草は、周囲の視線を独占する。
男性のみならず、女性陣からも感嘆の吐息がもれた。
こいつ自分の容姿を十二分に利用してやがるな。
細く儚い美女は人々の庇護欲をこれでもかと刺激しているようだ。皆気付けよ。鉄壁の守護を引き受けるって霊獣が弱い訳ないって事に。
「だけどなぁ。この先に揉め事しか持ち込まんだろう、おまえ」
「あらやだ。かかる火の粉は振り払うモノでしょう? 妹様」
おまいが妹様呼ぶなし。
如何にも楽しそうに笑うラプトゥールを憮然と見据える幼女の足元に小さな子供が駆け寄ってきた。
「まぁま、お魚ー」
エメラルドグリーンの髪にスカイブルーの瞳。ラプトゥールの子供らである。
彼、彼女らは、何故か千早をママと呼んでいた。
無邪気な真ん丸目玉に見つめられ、幼女は苦笑いする。
魔力の高い霊獣は人化出来るらしく、ラプトゥールは絶世の美女に。子供らも海から上がると人化した。
美醜は魔力に依存しているらしく、魔力が高いほど外観が美しくなる。魔法世界ならではの価値観だ。
びちびち跳ねる魚を差し出している子供らを困ったような笑顔で見渡し、幼女はその柔らかい髪を撫でる。
「おまえらの母ちゃんはラプトゥールだろ。間違えんな」
子供達はきょとんと顔を見合せ、ラプトゥールを指差すと母上と言い、千早を指差してママと呼ぶ。
うん、意味が分からん。
うーんと呻きながら空を仰ぐ幼女に、ラプトゥールがクスクスと笑いながら答えた。
「魔力ですよ。短期間とはいえ、貴女の魔力で育った子らです。今も貴女の魔力が子らに注がれています。この子らはきっと強く育ちますねぇ」
ころころと笑うラプトゥール。
なんだ、その法則。って事は何か? 魔獣は注がれた魔力で親を決めるのか? 血縁とか関係ないんかい。
しかし実のところ回避する術もないのだ。
彼等は海の覇者。どの海域であろうと自由に棲まう権利を持っている。秋津国周辺を棲みかとするもラプトゥールの自由なのだ。
彼女はたんに事後承諾を得るだけでも構わない。むしろ承諾を得る必要すらない。
それをこうして許可を求めに来ているのは、シメジな女神様への礼儀に過ぎず、神々が棲まう秋津国に敬意を払っているだけである。
理解はすれども納得がいかない千早は、ぐぎきぎっと苦虫を噛み潰した。
どっちにしたって結果は変わらない。岩に落とした卵が割れるのと同じくらい確固たる確信がある。こいつらは秋津国に棲みつくだろうと。
そして千早の気持ちをヤジロベエのようにユラユラさせる存在.......が、しぱたたたっと幼女の周りを走り回っていた。
彼女の足元には貢物のごとく魚や貝、海老やカニなどの海の幸が積まれ、なお増え続けている。
「まぉま、これ美味しい。ね?」
「たくさん。嬉しい? まぁま、嬉しい?」
にぱーっと笑いながら、海と幼女を往復する子竜達。
なんなんだよ、もーっっ、めっちゃ可愛いやんかーっ!!
ふるふると緩む口の端を震わせ、によによする千早をタバスらは溜め息混じりに見つめていた。
幼女の子供好きは筋金入りである。あんな可愛らしい子竜らになつかれたら、ひとたまりもあるまい。
陥落秒読みな千早を見つめる人々の眼差しは、何時もより数段生暖かった。
当然、幼女の完敗。
ラプトゥールらは悠々と秋津国の周囲を回り、棲みかにする場所を探している。うろちょろする子竜らが愛らしい。
ラプトゥールのサイズは変幻自在らしく、今は大きめな家サイズ。あれならまあ目立つまい。....無理か。
エメラルドグリーンの家サイズな金色を纏う竜。
どう足掻いても目立つ事この上ないですね。はい。
千早は乾いた笑いをもらしつつ、がっくりと肩を落とした。どうして、こう、大事になるんだろう?
遺憾ともしがたい現状に理不尽を感じながら、訝しげに頭を捻るオカンである。
伝説の霊獣が棲まう秋津国には多くの海獣が集まり、ラプトゥールに従うモンスターらは人々と良好な関係を築いていった。
こうして女神様の世界初の、人とモンスターが共存する楽園が生まれた。文字通り楽園の名を欲しいままにしていた秋津国は、さらに異名を轟かせる事となる。
はい、ラプトゥールと子供らも加わり、秋津国は絶好調ですww




