表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
87/119

オカンとエルフと悪役令嬢 ~1~

切りの良いとこまで書こうとして長くなってしまいました。前回がみじかかったので、その分いっかなと。投稿が遅れて、ごめんなさいでし:::


「ここか」


 紆余曲折をへて、結局ラプトゥール達は橋のかかった人工内海を棲みかにする事にしたらしい。理由は好きにリフォーム出来るからだそうだ。 

 岩や砂利を敷き詰め好みな海底にするとかで、ウキウキとアイテムボックスから集めてきた資材を出していた。

 まあ、楽しそうで何よりである。


 人生なるようにしかならないよな、うん。


 何かを悟ったかのような遠い眼をして、千早は山積みな仕事を片付けるべく探索者ギルドへ向かう。

 遠い眼をしている場合ではないのだ。もうじきエルフらの正式な親善特使も来るし、畑の蕎麦も花盛り。他も短期収穫可能な秋植え春植えの物がゴロゴロ収穫されている。

 さらには雑草の生え揃った畑に放った豚や牛が、思ったよりも開墾を促し、このまま行けば一年休めずとも新しい畑が使えそうな勢いだった。

 畑に蒔いた栄養満点なポリマーや、中央に設置した廃棄物処理の分解システムが凄まじい相乗効果を起こしたのかもしれない。

 幼女の予定より何倍も早く広大な農地が形になりつつある。


 秋津国の農業や牧畜は全て国が運営していた。仕事に携わる人々は国から給料をもらい作業に従事している。

 ある意味、共産主義の国営と同じなのだが、この形が理想なのだと幼女は思っていた。

 収穫量に左右されない給料。自動天引きや加算の税金や扶養控除。育児手当や子供手当。

 全てを明瞭、かつ平等に支払え、特に役職手当など眼に見える功績や収入が人々のやる気を煽る。


 資本主義にも共産主義にも悪い所もあれば良い所もあるのだ。どうせなら良いとこ取りすべ。


 人の努力を尊とび自由競争を謳い個人の利益を守る民主主義。国民の安寧と平等を謳い全ての収益を国で分配する共産主義。ならば、国の根幹たる食の部分のみを国営とし、あとは自由に競いあってもらおう。


 幼女の打ち出した国政は単純極まりない物だった。


 食に関しては譲らない。誰も餓えてはならない。これは平等であるべきだ。国が管理し、決して独占も占有もさせない。


 しかし、他は自由であって然るべきだと思う。先見性や優れた発想などは評価を受けるべきだ。

 誰もがやりたい事をやれる。安定した収入の農夫をやりつつ夢を叶えるため学ぶも良し、職人に弟子入りして技術のスキルあげや発展に邁進するも良し。

 

 人の可能性は無限大である。それをサポートし推進するのが国の役割だと千早は思っていた。

 

 情けは人のためならず。巡りめぐって秋津国のためになる。


 幼女の理想も無限大。


 山積みな仕事に辟易しながらも、その瞳に輝くワクテカな希望は隠しきれていなかった。

 

 オカンは進むよ、何処までも。ゴールポストは未だ形にならないが、オカンが歩みを止める事はない。




「臭いです、妹様.....」


真っ白に少しの紫を含んだ花々は、周囲に凄まじい異臭を放っている。糞尿のようなふわりと暖かい匂い。

 タバスと敦はあからさまに顔をしかめていた。


「まあ、花の匂いはな。でも、実は栄養があって美味いし殻は良いクッション素材になるんだよ」


 目の前には広大な蕎麦畑。一面をおおう花々を見つめて千早は満面の笑みを見せる。

 痩せた土地でも比較的容易く育つうえ、大した世話も掛からない。一昔前の日本では非常に重宝された穀物である。

 しかもそば殻は枕や座布団、クッションなど、多くの緩衝材に使え、使い終ったら畑に撒けば良いという捨てるとこのない植物だ。

 発展途上の秋津国にとって、こんな有り難い植物はない。


 ついでに言うなら、あたしの大好物でもある。夏の終わりにはソバ祭りだな♪


「はーちゃん、お蕎麦が大好きだものねぇ♪」

「水車...あるしな。...ソバは美味い」


 慣れた手つきで雑草車を動かし、お母ちゃんと親父様はササッと作業を終えていた。

 蕎麦は雑草抜きくらいしかやる事がないため、世話は手の空いてる者が気まぐれに行っている。今日は親父様だったらしい。

 木で出来た広告板のような物にはカレンダーがあり、そこに親父様が石のついたピンを刺す。

 今日の日付に刺されたピン。これを見て他の人は次の作業日を判断していた。

 専属が必要ない畑には同じ物が設置されており、手が空いてる者はそれぞれを回り、仕事がないか確認する。そして他へと手伝いに回るのだ。

 そのうち、これらも管理する人をつけなくてはならないが、今はまだ試行錯誤中。

 今の子供らが成人する頃には農地も完成し、作付けのローテーションも決まるだろう。

 それまではこのやり方で間に合わせるしかない。


 千早は生育中の畑も見て回る。

 秋から冬にかけて植え付けた果樹らも順調だ。各々数個の実をつけて、グングン成長している。


 ぶっちゃけ、成長度合いがおかしい。


 植えた時は高さ一メートル前後だったはずの苗木が、春を過ぎたあたりで既に親父様の背を越えていた。

 どうやら女神様の土地は植物の育成を著しく促進するようだ。この様子なら年内にも立派な成木になりそうである。


 嬉しい誤算だが、反面、老化が早い可能性もあり、手離しで喜ぶ訳にもいかない。経過観察だな。


 木の育成を優先して今回の実りは半数以上間引いてある。来年からは、真っ当な収穫が得られるかもしれない。こちらで育った果樹は、どんな味になるだろう。今から楽しみだった。


 ひゃっほいする幼女が踊る秋津国へ、エルフの早馬がやってくる。明後日に親善特使が着くらしい。


 


「マジで迎賓館使うん?」


 うんざりした眼差しを職人らに向け、幼女は憮然と呟いた。


「勿論ですともっ、家具や調度品は小物に至るまで完璧に揃えましたっ、職人街の自信作です!!」


 湖を挟んでディアードの対岸に作られた職人街。そこには大きな御殿と迎賓館。御寝所と呼ばれる宿屋に親父様の家。さらに御殿から続く石畳の大きな通りには数々の職人らの店や工房が処狭しとならんでいた。

 絢爛豪華な和風建築の御殿を中心に、大通りを軸に交差した通りが放射状に展開しており、中央の広場には大きな時計塔がたっている。

 朝、昼、夕、夜。たった四つしか時の概念がなかったディアードに、千早は二十四時間の観念を取り入れた。

 地球世界と同じ時間軸を持つ事を利用し、最初の半年は教会の鐘で偶数の時間帯を取り入れる。

 朝六時から夕方六時まで。二時間おきに鐘を鳴らし、人々にタイムテーブルの概念を植え付け、子どもらにも時間割を教え込んだ。

 そして職人街が出来たのを機に時計塔を作り、二十四時間の時間帯をディアードに定着させたのだ。

 教会や各主要施設にも柱時計や壁掛け時計を導入して、秋津国には時間の理念が既に定着している。

 

 今までリアルタイムでしか動いていなかった人々が、予定や約束などに時間を利用するようになり、全てにおいて素晴らしく効率的になった。

 今までなら約束一つにも、朝イチでとか、日が暮れる頃とか非常に曖昧で抽象的であった物が、時間単位分単位に変わったのだ。一日にこなせる仕事量がめざましく増え、交流や流通が驚くほどスムーズになる。


 この半年で、ディアードな街は有り得ないほど発展した。


 そんなこんなで感慨無量に眼をすがめる幼女に、エルフの先触れが来たとの報告が入る。明日には着くらしい。


「お出迎えせねばね」


 千早は、にかっと無邪気に笑った。




「..............」


 そして翌日。午後を回ったあたりでエルフらの親善特使がやってくる。

 きらびやかな四頭だての馬車を筆頭に、ずらっと馬車が並び、降りてきた特使の面々を見て幼女は頭を抱えた。


 そこに立つのは国王陛下。豊かな青い髪を堂々と靡かせて、悪戯気に口角を上げている。

 その後ろには皇太子殿下。こちらは申し訳なさげに眉をへにょりと下げていた。

 当然、付き従う人々も多く当初に聞いていた人数の倍はいるようだ。これは流石に有り得ない。

 幼女は軽く眼をすがめ、歓迎のために並んでいたディアードの人々の列から前に進み出ると、見上げるようにエルフの国王を睨めつけた。


「これは一体どういう事でしょうか?」


 不機嫌を隠さず、にっこり笑って首を傾げる千早に、今度はエルフ側が狼狽する。

 国王陛下の来訪は秋津国をあげて喜ばれるものだとばかり思っていたからだ。

 国王本人もそう思っていた。だから何も報せずに秘密裏にやってきた。

 しかし、どうやら思惑は外れたらしい。


「前回は御互いに名乗る暇もなく袂を分かったゆえ、あらためて顔合わせに参った。エスガリュヒア・デ・ラ・ヒアーバルトだ。此度の親善、快く受け入れて頂き、有り難く存じる」

「秋津国代表を務めるチハヤ・スメラギです。遠路はるばる、ようこそお越しくださいました」


 穏やかに言葉を交わす二人。だが次の瞬間、幼女の眉が跳ねあがる。


「こちらは有り得ない状況に困惑しております。確か先触れでは大樹の国要人六名と従者三十名。護衛騎士百名ほどと聞き及んでいましたが.....ゆうに倍はおられますよね?」


 ずらりと並ぶ馬車に騎馬。国王は少し申し訳なさげに眼を泳がせた。


「うむ。余が来訪するとなり些か大所帯になった。受け入れは可能であろうか?」

「それは事前に先触れで問うべきではないですか? こちらは知らされた人数に合わせてしか用意が出来ておりません。総勢百五十とうかがっていたので、余剰分はございませんが如何なさいますか?」

 

 にっこりと笑って一刀両断。倍の人数は些かとは言わんわ。

 あからさまな幼女の慇懃無礼な態度に腹をたてたのか、国王の傍に立っていた貴族らしき人物が、二人の間に割り込んでくる。


「貴様、無礼であろうがっ! たかが平民の分際で陛下に意見するなど言語道断、陛下の御来訪を心より感謝し、全力でもてなすべきであろうっ!!」


 あっ、と周囲が思うより早く、千早の顔からするりと表情が抜け落ちる。


 ヤバい。


 幼女の変貌に気づいた秋津国の面々が、慌てて取り成そうとした時には既に遅く、割り込んできた貴族の顔面に千早は指を食い込ませていた。


「大した忠義だな。しかし些か思慮に欠けるようだ。秋津国に住まう者に身分などという下らない物はない。身分をかざすのであれば、まずは義務と責務を真っ当せよ。貴殿らは秋津国に何の貢献もしてはおらず、何の権利もありはしないのだ。発言権があると思うてか?」


 顔面に食い込んだ幼女の指が貴族の頭骨をミシミシと軋ませ、貴殿の口から情けない悲鳴があがる。

 いきなりの事態に固まっていたエルフの騎士達だが、その悲鳴で正気づき、鋭い眼差しで各々武器を構えた。

 しかし、それを国王陛下が軽く腕をあげて止める。


「申し訳ない。配慮が足りておらぬようだった。こちらに悪意はない。贅沢は言わぬので余剰分の滞在も許可してもらえぬだろうか? 無論、対価は惜しまぬ。このような愚か者も混ざってはおるが、大半は秋津国への来訪を楽しみにして来た者ばかりなのだよ」


 すまなさげに薄く微笑む国王に、幼女は致し方なさげな溜め息をつく。


「準備万端なつもりだったんですがねぇ。木っ端微塵にしてくださり、有り難うございます。貴殿方を迎えようと頑張った国民の努力を、よくもまあ見事に踏みにじってくださいましたね」


 そこでようやくエスガリュヒア王は幼女の怒りの理由を理解し、眼を見開く。


 正直なところ、何が幼女の逆鱗に触れたのか彼は理解していなかったのだ。

 一国の王族を迎えるなど誉れであり、喜ばれるものだとばかりおもっていた。それゆえに先触れも出さず、幼女を驚かそうと、ワクワクしながらやってきたのだが。

 結果は幼女を怒らせ、さらにはバカな貴族が彼女の逆鱗に触れた。


 その理由は秋津国の人々だった。


 きっと彼らは我々をもてなそうと頑張ってくれたに違いない。そんな純粋な歓迎ムードを、些細な思惑で我々が踏みにじった。

 エスガリュヒア王は、自分の浅慮さを後悔する。幼女の怒りは正しい。

 自分だって国民の努力を踏みにじられれば怒りもするだろう。


 心持ちしょぼんとする国王を見て、千早は彼が現状を正しく理解した事を察する。

 幼女は貴族に食い込ませていた指を離し、インベントリから出したポーションを投げつけて治癒すると、呆れたなのような眼差しをエスガリュヒア王に向けた。


「やっちまった事は仕方ないし、来ちまったもんもしょーがない。有り合わせになるが何とか滞在場所を用意しよう。贅沢は言わさんぞ。御貴族様仕様な国ではないからね。知らされてた分は完璧に用意してたけど、余剰分は用意出来ん。平民仕様でも文句は言うなや?」

「ああ、それで良い。....すまなかった」


 頭を下げるエスガリュヒア王にエルフ側が大きくざわめく。それを無視して、ようやく幼女は邪気のない笑顔で微笑んだ。


「ようこそ秋津国へ。大したもてなしも出来ないが、ゆっくり寛いでくれ」


 国王は幼女から差し出された右手を取り握手をすると、並んでい秋津国へと足を踏み入れる。


 和やかになった雰囲気に周囲の人々は胸を撫で下ろしたが、唯一、愚か者扱いされた貴族のみが剣呑な眼差しを幼女に向けていた。


 かくして不穏な種を一粒はらみながら、エルフと人間の交流が始まったのである。オカンは如何なる時でもオカンであるww


またも不穏な嵐の予感。まあ、オカンですしねww

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ