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第二十八話


 リュウたちの圧倒的な戦いぶりによって、魔物たちの死体が焼け焦げ、斬りつけられ、ずたずたになり散乱している戦場。

 立っているのは、リュウ、ガト、ハルカ、老人。――そして、魔族一人だけだった。


「さて、あいつはまだやるつもりがあるのか?」

 のんびりとした様子で立つリュウは、驚き慌てている魔族を見ながらガトに話を振る。

「うーん、物量で蹂躙しようと思ったところが全て倒されてしまっては逃げるというのも手だと思うにゃ」

 腕を組んで考えるガトは魔族が逃げる可能性も考慮にいれていた。


「……くそっ、舐めるな! 私は誇り高き魔族だぞ! 貴様らごときに逃げるわけがないだろう!」

 どうやらリュウたちの声は魔族の耳に届いていたらしく、馬鹿にされていると感じた魔族は激高していた。


「おー、あいつはやる気みたいだぞ」

「あれだけ部下がやられたというのに、すごいにゃあ」

 わざとらしいまでにほのぼのとした口調でやり取りをしている二人は明らかに魔族のことを挑発していた。


「……お、お主らは本気で魔族とやるつもりなのかの?」

 武器を構えたまま緊張した表情で固まっている老人は元騎士団長という実力者ではあったが、それでも魔族と戦うとなると尻込みしているようであった。


「そ、そうですよ! あんなにおっかない相手に……」

 困惑の表情で杖を握るハルカも同じ意見のようだった。

 しかし、リュウとガトは目を細めてじっとハルカのことを見る。


「な、なんですか……? 私はか弱い魔法使いですよ……?」

 なにか問い詰められているように感じたハルカは彼らの視線に戸惑いながら身を小さくする。

 先ほどのあれだけの戦いぶりをしておいて、それでもか弱いと言ってのけるハルカにリュウとガトは揃ってため息をついた。


「はぁ……まあそういうことにしておこう。それよりもあいつ……なかなかやるみたいだな」

「だにゃ」

 リュウとガトは肩を竦めて冗談めかしていたが、魔族の実力を把握しその力を認めていた。


「う、うむ、ここにいてもあの魔族の覇気を感じるのう……」

 じっとりと額に汗をにじませる老人は既に気圧されているようだった。


「ガト、とりあえず二人でやってみるぞ。ハルカとじいさんは下がっていてくれ」

「はいにゃ」

 リュウとガトは一歩を踏み出し、二歩目には足に気を流し、素早く走り出していた。


「なかなか速いな。どれ、こちらも」

 戦いを楽しんでいるような雰囲気の魔族はリュウとガトの動きに笑うと、二人に向かって走り始める。


 衝突する――その瞬間にリュウが小太刀で斬りかかる。

 不敵に微笑んだ魔族はそれをあっさりと皮膚で受け止めると、左手の鋭い爪でリュウの胴に向かって強力な攻撃を繰り出した。

「隙だらけだ!」


 魔族の言葉のとおり、リュウの胴体はがら空きだった。だがリュウはなにもしない。

「させにゃいのにゃ」

 それはガトの次の動きを予想していたためだった。


 勇ましく飛び出してきたガトは魔族の左手を蹴りあげて、リュウへの攻撃を中断させる。

「火遁火炎息吹!」

 追撃するようにリュウは以前も使った火遁の術を魔族へと向かって放つ。


「ちょこざいな!」

 すると、舌打ち交じりに魔族は口から氷の息吹を発し、その二つはぶつかり合って相殺される。


「分身の術!」

 ガトはその間に五体に分身し、それぞれが苦無で斬りかかっていく。


「ちょこまかと!」

 分身はあくまで分身であり、能力は元々のガトよりも低い。そのため、めんどくさそうに顔を歪めた魔族が右手に持った剣を横なぎにすると分身は吹き飛ばされてあっという間に消えてしまう。


「ガト、こいつには小手先の技は通用しない。俺の戦いを見ていろ!」

 リュウは魔族の実力が正確にわかり始めたところで、ガトにも下がるよう指示した。

「し、しかし!」

 頭領を一人で戦わせるわけには! ガトは食い下がるようにそう言いたかった。だがリュウとまともに打ち合い続ける魔族を見てはっきりと実力差を感じ、悔しげにしながらも指示のとおり下がることにした。


「邪魔者がいなくなったな。これで戦いに集中できるというものだ、そもそもあんな雑魚が我々の戦いに加わろうというのが間違っている」

 下がっていくガトを見て、魔族はあしざまに蔑んでいた。


「……そうか? 確かに今はまだ実力不足だが、猫人族としての生はまだ数日程度だからな……経験を積んだらと思うと末恐ろしいと思うぞ」

 二人は軽く話をしながらも、激しく剣を切り結んでいる。時折火花が巻き起こるほどに熱戦を繰り広げていた。


「さてさて、このまま小太刀で戦っていても倒せる見込みはなさそうだ。ならば忍者らしく戦うとしよう」

 リュウは距離をとると印を結ぶ。

「――水遁水刃破!」

 使ったのは氷の刃を打ち出す忍術。強力な水圧のカッターのようなものが魔族へとむかっていく。


「《フレイムウォール》!」

 魔族が使った魔法は燃え盛る炎の壁を生み出した。リュウが使った技は魔族にとって初めて見る忍術だったが、水属性のものであることは相手にもわかり、とっさの判断でそれを炎の壁によって遮断することにする。


「そんなもので防げると?」

 自分の技はそんなに軽いものではないというようにリュウはにやりとわらった。


 水刃破は炎の壁に衝突したが、その勢いが弱まることはなくみるみるうちに壁を突き破っていく。

「……ぐっ! なんだと!?」

 自身の魔法が打ち破られるとは思っていなかった魔族は驚いたが、持っていた剣で水の刃を斬りなんとか防ぐことに成功する。


「まだ、次の攻撃があるぞ」

 飄々としたリュウの声は魔族の後ろから聞こえてきた。

「――なっ!」

 声の方向に振り向こうとした時には、既にリュウが懐に入り込み、雷を流した小太刀を魔族の腹部に深く差し込んでいた。


「……ぐはっ!」

 襲い来る衝撃に声をあげる魔族。リュウは追撃を叩きこむべく、拳で何度も魔族の身体を殴りつけていく。

「ぐあああああッ!」

 その攻撃もただの拳ではなく、雷に覆われている。魔族の鍛え上げられた身体も傷を負ってしまっては攻撃を甘んじて受けるしかない。


「っな、なんなんだ貴様のその姿は!?」

 ダメージを受けながらも驚愕の表情で魔族はリュウへと質問する。魔族自身、こんなに追い詰められたのは初めてだったからだ。

「雷遁雷人」

 使用している忍術の名前だけ口にすると、リュウは容赦なく再び攻撃を続けていく。


 この忍術は身体に雷を流して、神経の伝達速度を上げて常人では考えられないほどの素早い動きを可能にさせる。目で追うことすら難解なその攻撃に魔族は成すすべがない。


「とどめだ。相手がわるかったな」

 リュウはいまだ腹に刺さっている小太刀を握ると、そこにさらに強力な雷の忍術を放つ。

「雷遁トールハンマー!」

 横文字で神の名を冠した忍術――これはリュウが使える忍術の中でも強力な威力を誇るものだった。


お読み頂きありがとうございます。


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