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0と1の世界  作者: 龍太
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終章 再起動

 シャングリラを攻略したんだなぁ、というぼーっとした頭で考える。

 一部じゃ俺が他の奴らを利用したやら踏み台にしたやら女ったらしやらの噂が駆け巡ってるけどあえて無視した。というか最後は何の根拠もない情報だ。

 実際間違っては居ないのも事実だしな。それでも他の奴らが居ないと攻略はできなかったし全員の名簿を作って情報屋に渡しておいたけど。


「おめでとうと言わせて頂くよハルモニア君。それで、君の愛しい千日手君の所へは向かわないのかい?」

「まだ朝の六時だぞ。面会時間まで待つだろ、常識で考えて」


 ハッカーの集まる掲示板で参加したほぼ全ての面子が騒いでるのを横目に俺は情報屋と話す。暇つぶしって面が強いけど。


「成程。それでいつまでもこうして話しているのも何だし、君は私に聞きたい事があるんじゃないか?」


 ……あると言えばあるし、ないと言えばないんだが。

 どうせだから聞いておくか。


「何でシャングリラの場所が特定できてたんだ?」


 常に場所が変わるあそこを。

 社員か何かでなきゃわからねぇだろ。


「君の好みそうな答えを言わせて貰うと、私が実は初の人工知能だから。なんて言うのはどうだい?」

「丸っきりの嘘だろそれ」


 数年前から居る奴が最新鋭のわけがない。というかあの時点で完成してたら今みたいな状況にはなってなかったはずだ。


「少しぐらい驚いて騙されたふりでもしてくれれば楽しいのだけれどね。簡単に言うと、私が情報屋だからだよ。情報を集める事で私に敵う者は居ないんじゃないかな。ただ、真実には代償が付き物だけれどね」


 ……ニヒルな笑みを浮かべて、情報屋は俺を見る。……情報屋に真実を聞きたいなら金を払えね。

 別にどうでもいい。そこまで聞きたい事でもねぇし。

 今話してるのだって暇つぶしだ。病院に行けるようになるまでの、時間潰し。

 トランペットは活躍してもらったから無理やり寝かしたし、キングはさっさと帰った。兎さんと法一さんに関しては俺が入れる雰囲気じゃなかった。

 あれに割り込む勇気はない。


「どうでもいい。そういや今回で幾ら儲けたんだ?」

「随分と」


 確定的なことは言わないのな。……まぁ、こいつとは友人でもないしなぁ。


「ところでいいか?」

「なんだい」

「お前、友達居るの?」

「その情報は最重要機密となっているよ」


 痛い所を突いてやったと思う。随分と前に、情報屋はどこの陣営にも組みしちゃいけないと聞いた気がしたからなんだが。

 ビンゴだったとしたら、かなり悪い事をしたとは思うし、反省もしようと思う。思うだけなんだけど。


「冗談はともかく軽く睡眠を取らないといけないんじゃないかい? 眠気に浮かされた頭だとろくに応答も出来ないだろうし緊張のし過ぎで倒れるかもしれない。馴染みの客へのアドバイスと思って聞いておくといい」


 それなりに楽しかったり楽しくなかったりするお喋りはここでおしまいとするか。

 世果にも仕事が来たようだし。……情報屋以外でこいつ何してんだろうなぁ。


「ああ。忠告はありがたく受け取っておく。んじゃ、また利用すると思うけどその時はよろしくな」

「またのお越しを待っているよ」


 席から立ってそのまま周りに気付かれないように掲示板の外に出る。

 そのまま寄り道せずにホームへと帰ってきて、ようやく一息吐けた。ようやく、だ。


「あー。長かった」


 五年。中学生が高校生になれる程の時間。

 よくもまぁ、俺はこんな事を続けていたもんだと、思う。いやそれよりも先に五年間も我慢してたなという気分の方が強い。

 最初の一年は絶望に落ちて。次の一年は技術を学んで。

 三年目は交友関係を広くして。四年目で、ようやく計画を立てられた。

兎さんと法一さんが居たから技術を学ぶ事が出来た。

 キングが居たから交友関係を広める事が出来た。

 認めたくはないけど、トランペットが居たから立ち直れる事も出来た。

 思い返すと誰かに助けて貰ってばかりだなぁ、俺。千さんを筆頭に、恩を返しきれるものやら。

 あー。……眠れるかなぁ。眠れるように頑張ろう。でもその前にアバター四つの調整でもしよう。全部で四つか。今度いつか普通に使えるように調整しておくのもありかな。


「……まっ。チーム同士の戦いに巻き込まれる事もあるしな」


 五年間の間で幾つかのチームと抗争になった事はある。いちゃもんだったりわけのわからない理由だったりだけれど。

 ほとんど俺が相手してたんだけどなぁ。

 っていや。そろそろ俺は寝るつもりだ。ていうか寝よう。考えてても仕方ない。

 明日っていうか起きたら千さんと会うんだし。早く寝た方がいいよなぁ。

 さっき世果に言われたみたいに緊張してぶっ倒れるなんて笑えないし。……いや、そもそも千さん本当に起きてるよな。ニュースでも倒れたままだった人間が起きたってやってたし。

 色々五月蝿い事になってないといいんだけど。

 なんてそんな事を考えていて。

 気付いたら俺は椅子の上で寝てた。寝落ちると大抵強制遮断を食らうから、まぁいいんだけど。


「……やべ! 寝過ごした!」


 学校はもうどうでもいい! やべぇ、えーとまず最初は飯か? いや着替えからか? いやシャワー浴びないといけねぇだろ。

 風呂場まで走って服を脱いで着替えを持ってきてない事に気付いた。あー。風呂上がってからでいいだろ。

 シャワーを回したら冷たい。……寒い。でもそのおかげでどうにか冷静にはなれた。


「……そんな急ぐ事ねぇよ」


 どうせ今日会える事に変わりはないんだ。最初に会いたいとか思ってないし、今の時間から行けば逆に人もあんまり居ないだろう。

 自分にそう言い聞かせてゆっくりと、実際にはかなり急いで準備する。財布は持った。服は着替えた。香水はそもそも買ってない。髪はまとめた。他は、まぁ大丈夫か。


「うし。行くか」


 手が震えてるのはきっと寒いからだ。いつもみたいに、寝てる千さんに会いに行く気軽さで行けばいい。

 ……よくよく考えると俺何してんだよ。よく会えてたな。千さんが知ったら気持ち悪いとか言うんじゃないだろうか。

 考えれば考えるほど深みにはまって行く気がする。これは、まずい。何がまずいかって、行く気が失せる事が一番まずい。


「あー。もう。男は度胸って言うし早く行かないと」


 靴紐を結んで、服を確認して気付く。


「歯、みがき忘れた!」






 ようやく、病院の前に到着した。いつになく人が多い気がする。きっと気のせいじゃないんだろうけど。


「棺桶遅かったね?」

「待ちくたびれて帰る所だったぜー。いやー。あ、俺らもう千に会って来たからー」


 病院の前に、二人見慣れた人が居た。


「何で兎さんと法一さん居るんですか? 兎さんはまだしも、法一さんまで」


 貴方確か東北在住だろう。始発で来たとしたら……。あー。それなら、いけるよなぁ。


「新幹線は早いぜ?」


 まぁそんな二人を背にして俺はちょっと急ぎ足で病室に向かう。この二人まで来てるとなると、まぁ俺はそんなに知らないけど千さんって交友関係広そうだしなぁ。

 他にも人が来てるのかもしれない。

 犬さんとか。


「……あ、良かった。人あんまいねぇや」


 もっと通路に行列でも出来てるのを想像したけどそんな事はなかった。

 ゆっくりと歩いて部屋の前まで来る。うん。ここまでは問題ないな。後はドアを叩いて「どうぞ」って呼ばれたら入る。

 子供でも出来る簡単な事だ。

 動悸が激しすぎて心臓が痛い。でも、うん。いけるいける。


「それでは春水様。また幻実でお会いしましょう」


 ドアが唐突に開けられて、俺の手は中に居た人に当たった。なんか、感触が擬音になりそうな柔らかさ。


「……夏雪様。また、後ほど幻実で」


 俺の手をゆっくりとどけて、中から出てきたキングが笑顔で俺の横を通り過ぎて行った。幻実にはもう入りたくねぇな。


「………………」


 その後ろ姿を見送っていたら、何か視線を感じたので振り返る。

 そこには女神が座ってた。


「女神だ」

「……?」


 うわ、つい口に出しちった。って、あぁ。そうか。

 何で声を出さないのかって疑問に思ったけど、長く発声器官を使ってないから出せないのか。

 何か少しだけお疲れ気味なのはよくわからないけど。


「し、失礼します。俺は、その、棺桶です。夏雪って言います。えーと」


 俺のわけのわからない言い訳じみた言葉を聞きながら、千さんは得心がいったように頷いてくれた。

 あぁ、そういや千さんは俺の事を見た事ないしな。


「えっと。幻実、つなぎますか?」


 さっきキングが幻実で、と言ったんだから入れるんだろう。俺だったら、もう一度戻れなくなるのが怖くて入る事は出来ないだろうに。

 この人、やっぱりすげぇな。

 千さんは頷いて、そのまま幻実に入る。俺もそのまま現実に入って。


「久しぶり、って言っても私からすると三日四日ぐらいの感覚なんだけどね」


 最後に聞いた声と同じ声。


「あ、はい。あの、お久しぶりです千さん。えーと。その、すみませんでした」


 謝る。

 何を話そうとか、どういう風に話題を投げようかとか。色々と、話す事があった気がするけど。

 勝手に口から出てきたのは、その言葉だった。


「いきなり謝られても、ね。私からすると確かに五年間は痛いんだろうけど。気にしなくてもいいよ。お金に関しては、棺桶にあげたプログラムの特許があったから寝てる間に入ってきてて結構な額があるし。こうなったのは私の責任だったしね」


 肩をすくめて、昔のような千手観音じゃなくて、今の千さんの姿をしたアバターで千さんは笑う。

 ……何でこのアバター?


「……ありがとうございます。あ、その。そう言っておいてなんですけど。……そのアバターどうしたんですか?」

「ん? あぁ、犬さんから貰ったのよ。スリーサイズは全部目算らしいけどね。起きたらいきなり居て、吃驚しちゃった。あの人少し老けてたけど元気なのかしらね」


 ……何がお前の方が大人だ、だよ。真っ先に来てる時点で俺を出し抜く気満々じゃねぇか。どっちが勝っても良かったんだろうけど。大人って汚ねぇ。

 しかもこんなプレゼントまで用意してたとか。……逆に気持ち悪いと思われなかったんだろうか。


「あぁ。そうだ。君に二つ言いたい事があるの。一つは、ありがとう。助けてくれた事、感謝してる。あのままあそこに居たら、後何年帰ってこれなかったのかわからないしね」


 頭を撫でられた。……この人の中だと俺は子供のままなんだろうなぁ。それでもいいけど。

 ……もう一つってなんだろうか。


「それと。私を助けるために色々と無駄にしたら駄目でしょ? 五年間もあれば君はもっと色々出来たでしょうに。ありがたいとは思っているけど、他の人を巻き込んだし礼は言っておきなさいね」


 優しくだけれど、叱られた。

 心に響く。理不尽、じゃないだろう。この人を助けようと思ったのは俺の勝手なんだから。この人が助けて欲しいと言ったわけじゃないし、助けはいらないとまで言ったらしいのに助けようとした俺の身勝手だ。


「はい。……すみません」

「ん。けど随分と幻実は変わったね。棺桶も腕上げたみたいだし。私は、これからやっていけるかなぁ」

「……まだ、続けるんですか?」


 まるで何事もないように言う千さんに、思わず問いかけてしまった。


「当たり前でしょ? 最近は意味合いが違うみたいだけど、元々は知的好奇心を満たすためだけの意味合いだったんだから」


 迂闊に言葉に出さないのは流石というべきなのか。ハッカーって今は犯罪者としての意味合いしかないしね。


「棺桶もこれからは自分がやりたい事をやってね。私も、これからやりたい事をやるから」


 どこか遠くを見つめる目で、千さんが笑う。

 それを目に出来ただけで、俺はこの人を助ける事が出来てよかったって思ってしまうのは、惚れすぎだろうか。


「はい。まずは、色々と調べたい事はありますし」


 シャングリラを作った奴の事とか。人工知能の事とか。

 急を用する事もないから高校生活の片手間にやるか。将来の事も考えなきゃいけないし。


「千さんはこれからどうするんですか?」

「高校は今から行くのも無理だし、独学で色々学んでみようかな。兎の仕事を手伝いながら、ね」


 そんな風に色々と話しながら、俺はいつ言おうか迷っている事を考える。

 簡単に言うと、告白だ。

 唐突だしそういう対象として見られてないのはわかってるけど。

 でも、言うしかないだろう。夕菜が無理だとわかって俺に告白したみたいに。俺も無理を承知でこの人に告白する。

 ……シャングリラ攻略よりもドキドキするなぁ。


「そういえば、棺桶は好きな人」


 ああ、もう今しかない。

 外は昼間だろうし。ムードもへったくれもないけど。それもまた、俺らしいといえば俺らしいんだ。


「千さんが好きです、付き合ってください!」

「……え?」


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