Error ②
「ん? おめぇ速えよ」
「色々なスピードには自信があるんだよ」
「んじゃ夜も速いってか」
「下品だなぁ」
いきなり何でキングと下ネタトークをしないといけないのか。兎だっているのに。
「ん? あぁ、私は気にしないから別にいいよ。そうそう、例のプログラムは危険な時に使ってね。改良してあるし」
そういえばいつか使うと言っていたプログラムはまだ使っていなかった。効果を聞く限りだとここぞという時に使いたいのだけれど、ここぞという時が来なかったのだから仕方がない。
だから相手に対策を取られずに済んでいるから良いのだけれど。
「お。皆来てんねー。いやぁ、でも俺そんなに必要なくねー?」
「はいはい。面倒くさいからって投げやりになるな。あぁ、犬さんは八時ぐらいになるからそれまでに色々やっておけよ?」
「こんばんは。親が来年中学校だからって五月蝿いんですけど」
おっと。棺桶がやって来た。
「あんまり幻実に行くなってか?」
「親ってそういう所うるせぇんだよなぁ」
小さい頃から幻実に慣れ親しんでいるのに、今更という気はするけれど。
「はい。最近、幻実から戻れない人が居るっていうニュースを見たらしくて。それも明日までですし、解決するんでしょうけど」
大きい事を言うね。でも、それぐらいの自信があるのは良い事だ。
「そういえば、妙な噂を聞いたわよ。海外のどこかがシャングリラに戦争を仕掛けるって。日本にサーバがあるのは確定みたいなのだけど、どこかわからないから虱潰しにやるだろうって掲示板が大盛り上がり」
「へぇ。そりゃまた。明日に被らないだろうしサーバの場所は日本に確定してるわけじゃねぇのにな」
調べてわかった事だけれど、シャングリラのサーバは変化する。割合は海外が四で日本が六と言う所か。
現実にサーバが存在する以上は各国にサーバを持っているのだろうけれど。それにしても妙な事だ。
そんな頻繁に変える必要がわからず、何より社員は大変なんじゃないだろうか。
「そこら辺も引っくるめて探し出すってのが海外の企みって奴なんじゃねー? 何か来ても俺のツールがあるから安全だろうけどよー」
こっちが入った瞬間に外からの通信を遮断する。この状態はある種シャングリラの捕まえるシステムに類似していると思う。
精神が幻実にあるのだから幻実と現実を分断させてしまえばいいという考えなのだろうけれど。
言葉で言う程、それは簡単なシステムじゃあない。だからきっと裏があるのだろう。
「……皆、揃っていたか」
時間は七時半。言っていたよりも早い帰りだなぁ。ちゃんと寝ているのかな。
「あぁ。明日は大遠足だからな。そりゃ、皆早くもなんぜ」
テンションが上がっているのはキングと、少し見ただけだとわからないけれど棺桶だけだけれど。
法一と兎はいつも通りだし。
「俺はそういうわけで早く居るわけじゃないけどな」
「はっ。クールぶってんじゃねぇって」
単純に心配性なだけなんだけれど。
ここで疎かな事があって被害を一番受けるのはアタッカーなのだし。
「何にせよ集まっているなら話しは早いな。明日の予定だ。……栞はないが、別に構わないだろう」
小学校の遠足でもないしね。
「お菓子は幾らまでとか言っておいた方がいいですか?」
棺桶も茶化す程の余裕がある。前日だからって緊張していないのはいい事だ。
明日は程よく緊張はしていてくれないと困るけれど。
「五百円までだな。……さて。役割は前に言ったのと変わらない。緊急時には兎のツールを使って逃げる。今回は、情報にあった三層へと向かう事になるが」
シャングリラの構造はわかっているだけでも最低三層。
まずはネットワークの外側が一層。普通の会社で言うのならFWが置いてある場所だ。
次にその内部が第二層。ここから逃れたという人は数人居る。そして、次が取り込む第三層。ここから帰ってきた者は、誰も居ない。
「危険だと感じたらすぐに逃げろ。何か罠があるだろうと言う事を念頭においておけ」
それだけは、絶対だ。例え棺桶が行けると判断しても無理そうだと判断すればすぐに逃げる。
今まで何度か捕まる一歩手前を経験したから、そこは棺桶の罠を見破るアバター以上に信用出来る。
「三層に入って閉じ込められるような場合は、兎さんのツールを使えばいいんですよね?」
「俺が正面からブチ壊しまくってもいいんだよな?」
棺桶が確認をして。キングがやけに自信満々に言った。
そこまで自信を持たなくても……。いや、ここはその自信を分けて欲しい所か。
「やれるものならやっても構わない。……基本的な事は以上だ。後は細かい所を詰めていくぞ。不測の事態への対処などもな」
考えつかなくても、漠然としてでも、警戒は欠かせない。何が起きるかわからないなら、何でも起きると思って身構える。
全方位に対する警戒を怠らなければ失敗はない。理論上は、だけれど。
「何にせよ明日に対しての備えはやっておけ。今日は明日のために休息を取る事だな。些細なミスが命取りになる事もある」
命までは取られない、とは言わない。その可能性だってありえるのだから。
「開始時間は……」
「昼からでいいだろ。皆も問題ないだろうしな」
皆、休みを取っていたはずだ。一世一大とも言える事が始まるのに休まないなんて事は出来ない。
それが元で疲れていては実力も発揮できないしね。
「それじゃあ私はもう寝ておくね。おやすみなさい」
「んじゃ俺もねっかな。へへ、わくわくしすぎて眠れねぇなんて事ないようにしろよ」
「おやすみ、兎。あと修学旅行前の学生じゃないんだからそうなるわけないだろう」
「僕はそうなりそうですけど、頑張って寝ます」
棺桶の場合は身体が勝手に眠りを欲するだろうから、特に問題はないと思う。問題は、法一と犬さんだけれど。
「まあ、俺もそろそろ寝るかな。シャワー浴びるだけだし」
「なら僕も早めに寝ておきます。それでは、また明日」
「ああ。よく休めよ」
「おやすみなー。遅刻すんなよー」
棺桶とほぼ一緒のタイミングで外に出る。中には法一と犬さんだけか。珍しい組み合わせだな。
あの二人が話している場面も内容も想像できないのは何故だろう。
「……法一さんと犬さんって、話している内容がわからないですよね」
棺桶も同じ事を思っていたようだ。別に仲が悪いわけでもないのに、何でそんなに想像できないのか。
「まぁ。考えても仕方ないだろう。別にいがみ合ってるわけでもないし協力はしているんだからな。……まぁ、明日は補佐、宜しくな。色々と不満に思う事はあるかもしれないけど俺の言葉には従ってくれ」
「とんちんかんな事を言わないなら問題ありませんよ。いつも通りですし、千さんの方が僕よりも腕は上ですしね」
そう言ってくれるならありがたいね。ただ、本番でこっちの意図がきちんと通じるかが問題なのだけれど。
もう少し一緒に場数をこなした方が良かったかもしれない、とは思うけれど。
過ぎた事を言っても詮ない事か。
「それじゃあ、明日は頼む。俺の背中は任せるぞ」
「はい。任されます」
互いに笑い、それぞれのホームへと帰る。とは言っても、明日だってまだ前哨戦。本番はその次だ。
次を見すぎて足元を掬われてもいけないけれど。
「しっかり、やらないと」
好奇心を満たしている間は、現実の事も忘れられるから。
「あー。眠い。おはよう」
「おう。こんな早く来るとはいい心がけじゃねぇか」
二番目か。……確かに今は八時なのだけれど。それよりも早く待っていたキングは何時起きだったのだろうか。
まぁ、八時間以上寝てしまうと頭の回転も悪くなるから良い事なのだと思うけれど。
「朝飯も食べたし、軽く肩慣らしで訓練だけしてたから起きたのはもうちょっと前だけどな。……お前は、ちゃんと寝たのか?」
「当然。朝のトレーニングもしたしな。朝風呂は気持ちいぜ?」
縁が薄いなぁ。風呂は入るとしても寝る前だし。……気持ち悪いしね、汗。
「まぁ、今度走り込みでもしておく。……案外落ち着いてるな」
「そりゃな。ここ一番で緊張してしくるとか、初心者じゃねぇんだからよ」
それもそうか。とは言っても、こっちはその初心者みたいに緊張しているのだけれど。キングに言ったら馬鹿にされそうだから黙っておこう。
「SCの位置は万全か?」
「それ所か吃驚ツールまで完備してるぐらいだぜ?」
なら問題なさそうだ。こっちも最終調整は完璧だし最終の慣らしは終わった。後はいつものようにやるだけ。
「場所は?」
「世果に聞いてあるっての。あいつも何で場所を特定できるかね」
そこは確かに不思議だ。アイツがシャングリラの社員という事も考えられるけれど、アイツはどう考えてもそんな性格でもないし。
今度にも検出方法を聞いてみたいものだなぁ。
「……さて。皆が来るまで適当にやってるか」
「賛成だ。お前と今更話し込む事もねぇしな」
コンビを組んで結構経つしお互いの動きは残念ながら知り尽くしている。
言いたくはないけれど、二人でどこかに行くのに最適な奴を聞かれたらキングの名前を上げるぐらいには、こいつは最高のパートナーだ。
友人として見られたくない奴で一番に名前を上げるぐらいには好きじゃない奴だけれど。
さて。何をしようか。……こういう時は本を作るのが一番、かなぁ。あー、そうだ。これで案外暮らしていけるかもしれない。
今の時間中に幻実での本を作成するツールを特許の申請しておこう。複数パターン使っているし製本会社が借りるか買うかしてくれるかもしれない。
さて、これから自分の世界に完全没頭だ。二時間後にタイマーをセットして、と。軽くやれば二冊くらい製本できるかな。
好きな本はある程度やってあるから、写真集でも製本してみようか。基本パターンは他の物と同じで少しだけ面倒くさいだけだし。
この作業をしている時は面白いのかと聞かれる事が多い気がする。趣味だし、面白いからやっているのだけれど皆には何でこの面白さがわからないのだろうか。
……んー。これを職業にしてもいいかもしれない。最近は翻訳ソフトも良く出ているし。
まぁ、もっとちゃんと色々な事を知ってからになるだろうけれど。一応自分も若いから未来は幾つかある。
頭も悪くないから選択肢の広さは狭くなっていないはずだ。
「……像。皆集まっているぞ」
「……え? あ、ごめん。もうそんな時間だった?」
声を掛けられて、肩も叩かれて始めて気づいた。もう二時間経っていたのだろうか。
「って、まだ九時半だぞ? 皆早いな」
それでも一時間半も作業をしていたと思うと、時間の早さを実感させられる。
「ああ。予想以上に早く集まったからな、出発は十時半に変更する事にした。二時間早いが、それでも問題ないだろう?」
「僕は特に」
「私もそんなに」
「最終調整は現時点で続行中だからなー。誤差をなくすのが面倒くさいから早めにやってくれると俺は嬉しいー」
成程。キングも調整を行っているみたいだしな。こっちは、適当に時間まで同じ事を行っておこう。
精神の調整も大事だ。
「あの、千さん。本の作り方教えてくれませんか?」
おや。珍しいというか、棺桶も本に興味を持ってくれたようで嬉しい限りだ。
「一時間暇だしな、いいぜ。調整は終わってるんだろうから、一時間で軽く教えるさ」
製本仲間が出来ればこういう時間もまた別の楽しみが湧いてくる。互いにどれだけの本を作れるかとかも出来たら楽しいものだし。
「はい、ありがとうございます」
とりあえずツールを渡して、と。……犬さんと兎と法一が何かを話しあっているけれど声がかからないって事はこっちには関係ない話しだろう。
なら気にする必要はないか。
「まずは。……俺用に作ってあるから少し弄るのが面倒くさいと思うけどこれ使ってくれ。プログラムの部分を見て少しは使い易い用に出来るとは思うけどな」
使用方法についての説明も行わないといけないけれど、面倒くさい。
説明くらいはきちんとする性格に治さないと、とは犬さんにも言われているし治す気はないわけではないのだけれど。
消極的だから、なぁ。
「えーと。これで、重さとかはどう測るんですか?」
……そうか。実物の本を持っておかないと、なぁ。
「今度俺の家に来い。何冊か貸してやるよ。それでやってみろ。まぁ、使い方はそこで重さの指定。紙の匂いはある程度は登録してあるけど自分で登録するのがいいかもしれないな。後は段落構成やら文字数やらだから勘でやってるだけでもどうにかなるだろ。文字は入力するのが面倒くさいだろうから声入力でやる方が楽だぞ。入力中は音声を外に漏らさないようにな」
使い方はこのぐらいか。後は実践、っと。
「まぁ、あと三十分で終わるかわからないけど軽くやってみるといい。わからない事があったら聞いてくれ」
「はい、わかりました」
じゃあ棺桶の製本作業でも見学して時間を潰していよう。
潜るのが終われば続きをやればいいし。……まぁ、解明の方で忙しいからそれ所じゃないかもしれないけれど。
「……まっ、帰ってきてから、だな」
色々忙しくなりそうだ。




