09
翌日、訓練場に足を踏み入れた僕は、前日の敗北の感覚を思い出していた。
英雄コースの生徒たちの動きは速く、正面から挑んだら到底勝てない。
でも、勝つ方法はあるはずだ――頭の中で、僕はその可能性を巡らせていた。
水魔法を少しだけ使えるようになったことが、唯一の希望だった。
まだ自由に操れるわけではない。
けれど、少しの水の動きでも戦局を変えることはできる。
「……よし、試してみるか」
僕は訓練場の端で、水の感覚を確かめる。
掌をかざすと、水が微かに揺れた。
僕の中で、戦い方のシナリオが少しずつ形になっていく。
今日の僕は、正々堂々ではなくてもいい。
油断、隙、混乱――そういう小さな歪みをつくる。
相手が強ければ強いほど、使える“隙”も大きくなる。
「……よし、これなら、ちょっとだけでも立ち回れそうだ」
少し狂気じみた笑みが、僕の口元に浮かぶ。
この世界で生き抜くには、強さだけでは足りない。
知恵と、ずるさと、少しの恐怖。
それらを駆使すれば、雑兵でも戦える。
僕は、自分の手元の水の感覚に集中する。
まだ完璧ではない。だが、少しずつ、戦いのための武器に変えていける。
心の奥で、静かな興奮が芽生えていた。
「次は――絶対に負けない」
そして僕は、初めて自分の小さな“勝利”を想像した。
この感覚を忘れず、少しずつ自分なりの戦い方を磨いていく――
そう心に誓ったのだった。




