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罠の底に落ちたBランク冒険者の身体が動かなくなった瞬間、僕はようやく深呼吸した。
そして――唐突に、現実が胸に刺さった。
(……はっ。
そうだ。僕、今……人を殺したんだ)
罠に落ちたのは向こうだし、殴ってきたのも向こう。
正当防衛……では、ある。
けど、人が一人死んだという事実は、さすがにズシッと来た。
「……まずいな。これはまずいぞ」
僕は罠の縁にしゃがみ込み、まだ微妙に温かい死体を見下ろした。
こいつが生きていたら、僕は逆に殺されていた可能性が高い。
それに、“Bランク vs Eランク” の証言勝負なんて、僕が勝てるはずもない。
(……隠さないと。いや、葬わないと、って言うべきか)
少しくらい、形に残る反省はしておこう。
⸻
僕は罠の中に降り、男の腕を掴んで地上まで引きずり上げた。
その後、落とし穴を崩し、槍も折り、地面を押し固めて跡を消す。
――とても“冒険者の仕事”とは思えない作業だ。
死体を見ると、腰のポーチや財布が目についた。
金目の物の匂いがぷんぷんする。
「……遺品、か」
僕は財布を手に取り、ゆっくり顔を上げた。
「この思いは……僕が責任を取って持っていく。
財布は質屋に置いていくが(売る)
中身は、ちゃんと……僕が背負っていく!!
安らかに眠りたまえ」
なぜか、めちゃくちゃ良いこと言った気がした。
⸻
僕は油瓶の残りを死体にかけた。
さらに近くのゴブリンの死体の手に松明を握らせる。
(よし……これで“ゴブリンに火を放たれた”っぽく見えるはず)
最後にマッチを投げ込むと、死体は静かに燃え始めた。
ぱちぱちと小さく木がはぜるような音を聞きながら、僕は背を向けた。
「さて……ゴブリン残りやっつけるかー」
僕は普通にゴブリン狩りを再開した。
⸻
朝。
薄暗い空が白み始めた頃、Eランク冒険者の一人が叫んだ。
「お、おい! 人が……燃えてる!!」
僕も駆けつけた。もちろん“驚いたふり”は忘れない。
「えっ……誰? まさかBランクの……?」
そう、まさか、である。
周りの冒険者たちは凍りついた。
「嘘だろ……?
あいつ、Bランクだぞ……?」
「ゴ、ゴブリンなんかに……そんな……」
半分泣きそうになっている奴もいる。
ま、そりゃそうか。
(……てか、こんな簡単に死ぬんだな、Bランクって)
僕は心の中でだけ冷静に呟いた。
こうして、討伐隊は予定よりもずっと重い空気のまま、報告と後始末に入るのだった。




