32
出発してから、四時間ほどが経った。
昼休憩に入った馬車隊は、街道脇で一度足を止める。
旅の飯といえば、固くて味気ないパンが定番だ。
……のはずだった。
「……豪華だな」
並べられた食事を見て、思わず本音が漏れる。
肉。温かいスープ。白いパン。
どう考えても、学園の食堂よりいい。
(さすが貴族様……)
しかも、奢り。
タダ飯。
(うまい。タダ飯は、正義だ)
内心でそんなことを考えながら食べている一方で、
ひとつだけ、気になることがあった。
――セシリアが、黙っている。
いつもなら、何かしら文句か雑談を飛ばしてくるはずなのに、
今日はやけに静かだった。
気まずい。
とても、気まずい。
(この空気で、あと四時間……?)
正直、きついって。
だが、逆に考える。
(……まぁ、いいか)
いつもうるさいセシリアが、珍しく無口なんだ。
だったら、この隙に寝てしまおう。
馬車に戻り、座席に身を預ける。
高そうな内装。
揺れも少ない。
(この馬車、ほんとに乗り心地いいな……)
そう思った瞬間、意識はすぐに落ちた。
――――
どれくらい寝たのか分からない。
ふと、目が覚めた。
馬車はまだ走っている。
一定のリズムで、地面を踏みしめる音が続いていた。
眠気の残るまま、何気なく横を見る。
……そこに、セシリアがいた。
「えっ、」
思わず、声が出た。
いつから隣にいたのか分からない。
さっきまで、向かい側に座っていたはずなのに。
セシリアは、こちらを見ない。
前を向いたまま、静かに口を開いた。
「もう私は、いらないの?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
(……ん?)
頭の中で、間の抜けた疑問が浮かぶ。
何の話だ。
どうして、そんなことを。
セシリアの横顔は、冗談を言っているようには見えなかった。
怒っているわけでもない。
ただ、妙に真剣で、少しだけ――不安そうだった。
馬車の中に、重たい沈黙が落ちる。
逃げ場は、ないようだ。




