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 出発してから、四時間ほどが経った。


 昼休憩に入った馬車隊は、街道脇で一度足を止める。


 旅の飯といえば、固くて味気ないパンが定番だ。

 ……のはずだった。


「……豪華だな」


 並べられた食事を見て、思わず本音が漏れる。


 肉。温かいスープ。白いパン。

 どう考えても、学園の食堂よりいい。


(さすが貴族様……)


 しかも、奢り。

 タダ飯。


(うまい。タダ飯は、正義だ)


 内心でそんなことを考えながら食べている一方で、

 ひとつだけ、気になることがあった。


 ――セシリアが、黙っている。


 いつもなら、何かしら文句か雑談を飛ばしてくるはずなのに、

 今日はやけに静かだった。


 気まずい。


 とても、気まずい。


(この空気で、あと四時間……?)


 正直、きついって。


 だが、逆に考える。


(……まぁ、いいか)


 いつもうるさいセシリアが、珍しく無口なんだ。

 だったら、この隙に寝てしまおう。


 馬車に戻り、座席に身を預ける。


 高そうな内装。

 揺れも少ない。


(この馬車、ほんとに乗り心地いいな……)


 そう思った瞬間、意識はすぐに落ちた。


 ――――


 どれくらい寝たのか分からない。


 ふと、目が覚めた。


 馬車はまだ走っている。

 一定のリズムで、地面を踏みしめる音が続いていた。


 眠気の残るまま、何気なく横を見る。


 ……そこに、セシリアがいた。


「えっ、」


 思わず、声が出た。


 いつから隣にいたのか分からない。

 さっきまで、向かい側に座っていたはずなのに。


 セシリアは、こちらを見ない。


 前を向いたまま、静かに口を開いた。


「もう私は、いらないの?」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


(……ん?)


 頭の中で、間の抜けた疑問が浮かぶ。


 何の話だ。


 どうして、そんなことを。


 セシリアの横顔は、冗談を言っているようには見えなかった。

 怒っているわけでもない。


 ただ、妙に真剣で、少しだけ――不安そうだった。


 馬車の中に、重たい沈黙が落ちる。


 逃げ場は、ないようだ。


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