20
翌朝、いつも通りの時間に学園へ向かった。
教室に入ると、朝のざわついた空気が広がっている。まだホームルーム前で、皆それぞれに雑談をしていた。
自分の席に向かおうとした、その時だ。
窓際の方から、ひらりと小さく手を振る動きが見えた。
ミレイだった。
昨日のことを思い出して、思わず足が止まりそうになる。
……ああ、これは多分、友達認定されたやつだ。
僕は苦笑いを浮かべて、軽く会釈だけ返した。
手を振り返すほどの距離感じゃない。これくらいが無難だ。
ミレイは少し嬉しそうに微笑んで、すぐ自分の席に向き直った。
(助かった……変に絡まれなくて)
そう思いながら席に着いた瞬間、教室の扉が乱暴に開いた。
ガルドだ。
取り巻きはいない。ひとりで入ってきたガルドは、教室を見渡し、僕の姿を見つけるなり、露骨に舌打ちをした。
そのまま何も言わず、自分の席に乱暴に腰を下ろす。
(……大人しくしてる、か)
殴りかかってこないだけ、昨日よりはマシだ。
逆恨みとはいえ、一度ボコられた相手に積極的に絡むほど、今のガルドは余裕がないらしい。
やがて授業が始まり、午前の講義が淡々と進んでいく。
そして、問題の時間が来た。
「次は演習準備だ。学園近郊ダンジョンでの魔物討伐、そのためのグループを組め」
教室が一気にざわつく。
こういう時、人間関係がはっきり出る。
仲のいい者同士、有力貴族同士、成績上位者同士。
声を掛け合う音があちこちで上がる中、僕は動かなかった。
動く必要がないからだ。
「レイン、ここだ」
カイルが手を上げて呼んだ。
その隣には、ミレイの姿もある。
(まあ、そうなるよな)
僕は席を立ち、二人のところへ向かった。
だが、四人一組の指定だ。
「あと一人……」
カイルが周囲を見回した、その時だった。
「……アレン、だな」
教師が淡々と名前を呼ぶ。
教室の隅にいた少年が、少しだけ肩を強張らせて顔を上げた。
短く整えた髪、真面目そうな顔立ち。
表情には、隠そうとしても隠しきれない不満が浮かんでいる。
アレン・ロウディス。
正義感が強すぎて、融通が利かない。
間違ったことを見逃せず、空気を読まずに指摘する。
――結果、誰とも組みたがられない。
いわゆる、余り物だ。
「……よろしく」
アレンはそう言って、僕たちの前に立った。
その視線が、一瞬だけ僕に向けられる。
(値踏みしてるな)
ミレイは少し緊張した様子で会釈し、カイルはいつも通り落ち着いた声で言った。
「よろしく。安全第一で行こう」
「当然だ」
アレンは即答した。
「演習だからといって油断するのは間違いだ。規則を守り、正々堂々と戦うべきだ」
……ああ、これだ。
(めんどくさいの来たな)
僕は表情を崩さず、穏やかに頷いた。
「そうですね。無理はしない方がいい」
アレンは少し意外そうな顔で僕を見たが、すぐに納得したように頷いた。
「君もそう思うか。それならいい」
(それは“無理をしない”って意味が違うんだけどね)
僕は心の中でそう呟いた。
こうして、僕たち四人のパーティーは決まった。
信頼できるカイル。
心優しいミレイ。
正義感の塊、アレン。
そしてイケメンの僕。
最強の布陣だ!!
(さて……この演習、どう転ぶかな)
静かに、そんなことを考えていた。




