17
校舎裏は、昼間でも妙に薄暗い。
石壁に囲まれたその場所は、学園の喧騒から切り離されていて、嫌な静けさがあった。
「……で?」
ガルドが腕を組み、僕を見下ろす。
その背後には、いつもの取り巻きが二人。どちらもニヤついた顔だ。
「たまたまガルドに勝っただけでさ」
取り巻きの一人が、わざとらしくそう言った。
次の瞬間、ガルドがその男を鋭く睨む。
「……黙れ」
低い声。
取り巻きは、しまったという顔で口を閉じた。
(ああ、そういう空気か)
僕は、そのやり取りを横目で見ながら、そっと一歩後ろへ下がった。
音を立てないように、ゆっくりと。
……今なら、逃げられる。
そう思った瞬間だった。
「おい、何をしてる!」
ガルドの声が、背中に突き刺さる。
僕は肩を震わせたふりをして、振り返った。
「あ、いや……僕は、ちょっとトイレに行きたくて」
できるだけ無害な理由を選んだつもりだった。
「いいわけすんな!」
怒鳴り声。
空気が、一気に張り詰める。
(あ、これ逆効果だ)
そう悟った瞬間、僕は即座に態度を切り替えた。
反射的に、腰を折る。
「申し訳ございやせん」
意識して、弱々しい声を作る。
「ごめんなさい。さすがガルドさまです」
「僕が勝てたのは、本当に運が良かっただけで……」
頭を下げたまま、視線を合わせない。
敵意は一切、見せない。
――これでいい。
これで、面倒は避けられる。
……はずだった。
「……なんだよ、その態度」
ガルドの声が、わずかに低くなる。
不機嫌そうに、眉が寄った。
「さっきまで調子に乗ってたくせに」
(は?)
次の瞬間、腹に衝撃が走った。
鈍い痛みと一緒に、息が詰まる。
「……っ」
思わず顔を歪めたのを、自分でも自覚した。
(なんでだ?)
弱腰にした。
ちゃんと、下手に出た。
(なんで、これで責められてる?)
いや――
弱腰にしたから、責められてるのか?
意味がわからない。
(僕は、ただ普通に試合をしただけだろ)
勝ったのは事実だ。
相手が弱かった、それだけの話だ。
(なのに、なんでこんな目に……)
ガルドが、僕を見下ろす。
「気に入らねぇんだよ」
吐き捨てるような声。
その瞬間、胸の奥で、冷たい感情が静かに動いた。
(……このまま、これが続くなら)
(今度は、全身にしょんべんでもかけてやるか)
もちろん、口には出さない。
僕は再び、頭を下げる。
「……申し訳ございやせん」
だが、その内側では。
腹の奥で、何かがきしむような感覚がした。




