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校舎裏は、昼間でも妙に薄暗い。

石壁に囲まれたその場所は、学園の喧騒から切り離されていて、嫌な静けさがあった。


「……で?」


ガルドが腕を組み、僕を見下ろす。

その背後には、いつもの取り巻きが二人。どちらもニヤついた顔だ。


「たまたまガルドに勝っただけでさ」


取り巻きの一人が、わざとらしくそう言った。

次の瞬間、ガルドがその男を鋭く睨む。


「……黙れ」


低い声。

取り巻きは、しまったという顔で口を閉じた。


(ああ、そういう空気か)


僕は、そのやり取りを横目で見ながら、そっと一歩後ろへ下がった。

音を立てないように、ゆっくりと。


……今なら、逃げられる。


そう思った瞬間だった。


「おい、何をしてる!」


ガルドの声が、背中に突き刺さる。

僕は肩を震わせたふりをして、振り返った。


「あ、いや……僕は、ちょっとトイレに行きたくて」


できるだけ無害な理由を選んだつもりだった。


「いいわけすんな!」


怒鳴り声。

空気が、一気に張り詰める。


(あ、これ逆効果だ)


そう悟った瞬間、僕は即座に態度を切り替えた。

反射的に、腰を折る。


「申し訳ございやせん」


意識して、弱々しい声を作る。


「ごめんなさい。さすがガルドさまです」

「僕が勝てたのは、本当に運が良かっただけで……」


頭を下げたまま、視線を合わせない。

敵意は一切、見せない。


――これでいい。

これで、面倒は避けられる。


……はずだった。


「……なんだよ、その態度」


ガルドの声が、わずかに低くなる。

不機嫌そうに、眉が寄った。


「さっきまで調子に乗ってたくせに」


(は?)


次の瞬間、腹に衝撃が走った。

鈍い痛みと一緒に、息が詰まる。


「……っ」


思わず顔を歪めたのを、自分でも自覚した。


(なんでだ?)


弱腰にした。

ちゃんと、下手に出た。


(なんで、これで責められてる?)


いや――

弱腰にしたから、責められてるのか?


意味がわからない。


(僕は、ただ普通に試合をしただけだろ)


勝ったのは事実だ。

相手が弱かった、それだけの話だ。


(なのに、なんでこんな目に……)


ガルドが、僕を見下ろす。


「気に入らねぇんだよ」


吐き捨てるような声。


その瞬間、胸の奥で、冷たい感情が静かに動いた。

(……このまま、これが続くなら)

(今度は、全身にしょんべんでもかけてやるか)


もちろん、口には出さない。

僕は再び、頭を下げる。


「……申し訳ございやせん」


だが、その内側では。

腹の奥で、何かがきしむような感覚がした。

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