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やはり僕は馬車に嫌われているらしい。


馬車の中には重たい空気が流れていた。


ティアは窓の外を見ている。


僕は自分の靴を見ている。


誰も喋らない。


気まずい。


非常に気まずい。


(どう切り抜ければいいんだ、この地獄)


僕は小さくため息を吐いた。


そして、ふと思い出す。


――レインはレインでいいから。


ティアの言葉だった。


(なんだったんだろうな、あれ)


考えてみる。


だがよく分からない。


というか考えたくない。


こういうのは深く考えると面倒なことになる。


まぁ、忘れよう。


そう結論を出した瞬間だった。


「ドンッ!」


馬車が大きく揺れた。


「えっ」


思わず顔を上げる。


どうやら止まったらしい。


嫌な予感がした。


とても嫌な予感がした。


そして。


「バン!!」


勢いよく扉が開く。


そこに立っていたのは、騎士団長アウレリア・フォン・アイゼンリートだった。


ティアは露骨に嫌そうな顔をする。


僕はもっと嫌そうな顔をした。


アウレリアはそんな僕たちを見渡しながら口を開く。


「率直に言おう」


嫌だ。


絶対に嫌な話だ。


「貴様に聞きたいことがある」


(あっ、これが処刑の時間か)


ついに来てしまった。


僕が覚悟を決めた時だった。


「私がいるの見えないんですか?」


ティアが不機嫌そうに言った。


「私たち今、大事な話してるんです。後にしてください」


おお。


珍しい。


ティアが僕を庇っている。


ありがたい。


本当にありがたい。


アウレリアは少しだけ眉をひそめた。


「ああ、見えている」


そして小さく息を吐く。


「だがすまない。私も大事な話なんだ」


ティアはムッとした顔をした。


だがそれ以上は言わない。


アウレリアは馬車へ乗り込む。


そして僕の正面へ座った。


逃げ場がなくなった。


終わった。


「まず先に言っておく」


アウレリアが静かに口を開く。


「私には神聖魔法《裁定の聖眼》がある」


「へぇ」


「この魔法の前では嘘は通じない」


嫌な予感しかしない。


「だから正直に答えろ」


僕は素直に頷いた。


どうせ嘘なんてつけないし。


「では聞こう」


アウレリアの目が鋭くなる。


「なぜネグラディアへ行った」


「連れて行かれました」


沈黙。


アウレリアの目が僅かに細くなる。


だが魔法は反応しない。


真実だからだ。


「誰にだ」


「住民です」


「なぜ連れて行かれた」


「深淵の継承者だと思われたからです」


再び沈黙。


アウレリアの眉間に皺が寄る。


「ではなぜ否定しなかった」


「ご飯が出てきたので」


沈黙。


長い沈黙。


僕は首を傾げた。


何かおかしいだろうか。


横を見る。


ティアが顔を覆っていた。


どうしたんだろう。


アウレリアがゆっくり聞く。


「……ご飯?」


「はい」


「それだけか?」


「はい」


魔法は反応しない。


真実だった。


アウレリアが額を押さえた。


少し疲れているように見える。


「では聞こう」


アウレリアは気を取り直すように言った。


「なぜ支配者を名乗った」


「あれは流れです」


「流れ?」


「皆が期待してたので」


沈黙。


真実。


「それだけか?」


「あと少し気持ちよかったです」


真実。


ティアが窓の外を向いた。


肩が震えている。


笑っているのか怒っているのか分からない。


アウレリアは天井を見上げた。


何かを堪えているようだった。


「ではなぜ逃げた」


「死にたくなかったので」


「民を守るためではないのか」


「僕が一番大事なので」


真実。


神聖魔法は反応しない。


馬車の中に重たい沈黙が落ちた。


ティアは頭を抱えていた。


アウレリアも頭を抱えていた。


なぜか二人とも疲れ切った顔をしている。


僕は何か変なことを言った覚えはない。


全部事実だ。


全部正直に答えただけである。


やがて。


アウレリアがゆっくり顔を上げた。


その目には困惑が浮かんでいた。


まるで理解不能な魔物でも見ているような顔だった。


「……貴様は本当に訳が分からん」


「よく言われます」


真実。


《裁定の聖眼》は反応しなかった。


アウレリアはしばらく黙り込む。


そして深く息を吐いた。


「もし貴様が演技なら怪物だ」


「はぁ」


「だが演技ではない」


「そうですね」


「だから余計に訳が分からん」


失礼な人である。


すると横からティアが小さく呟いた。


「私も最初はそうだった」


なぜか少し遠い目をしていた。


そして二人は顔を見合わせる。


次の瞬間。


同時に深いため息を吐いた。


なぜだろう。


とても失礼な気がした。


僕は不満そうに眉をひそめたが、誰も気にしてくれなかった。

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