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「クソッ!!」


白耀聖騎士団長、アウレリア・フォン・アイゼンリートは剣を振り抜いた。


だが、もう遅かった。


逃走用の煙玉が炸裂し、視界が白く染まる。


騎士たちが咳き込む。


「団長!」


「申し訳ありません!」


「ちっ……!」


アウレリアは舌打ちした。


本来なら、あんな連中に遅れを取ることなどあり得なかった。


だが。


床に広がった油。


あの雑兵――レインが咄嗟に撒いた油のせいで、騎士たちはまともに踏み込めなかった。


滑る。


隊列が崩れる。


結果、一瞬対応が遅れた。


その隙を突かれた。


「……最悪だ」


アウレリアの眉間に皺が寄る。


見学中の学生を拉致された。


しかも白耀聖騎士団の警備区域で。


完全に失態だった。


「本部へ伝令!」


アウレリアが怒鳴る。


「応援部隊を出せ! 周辺封鎖!副団長2人はここで指揮をとり生徒達の安全を確保しつつ壁沿いを重点的に探させろ!私は精鋭を連れてスラム街へ入る」


騎士たちが慌ただしく動き出す。


「見学者を拉致されるなど騎士団の恥だ!! 必ず連れ戻すぞ!!」


普段の見学ムードなど完全に消えていた。


その時だった。


「私も行きます」


静かな声が響く。


最初に前へ出たのはティアだった。


銀の髪が揺れる。


その瞳は真っ直ぐだった。


アウレリアが眉をひそめる。


「駄目だ。危険すぎる」


「でも、連れて行かれたのは私たちグランセル王立学園の生徒です」


ティアは一歩も引かなかった。


「見過ごせません」


迷いのない声だった。


周囲が少し静まる。


すると。


「……なら、私も行きますよ」


別の声が響いた。


準決勝でティアに敗北した英雄コースの男子生徒だった。


彼は腕を組みながら言う。


「学園の生徒が拉致されたんだ。騎士団だけに任せるなんて、我らグランセル王立学園の恥でしかない」


さらに、もう一人の上位生徒も前へ出る。


「それに」


準決勝敗退の男子が、白耀聖騎士団を見回した。


「これが外に知られれば、“華の白耀聖騎士団”も落ちたものだと言われますよ」


騎士たちの顔がピクリと動く。


「公にされたくないのなら、私たちを連れて行った方がいいと思いますけどね。」


空気が重くなる。


アウレリアはしばらく黙っていた。


やがて深く息を吐く。


「……絶対に勝手な行動はするな」


それが許可だった。


ティアは小さく頷く。


だが、その視線は壁の向こうを見ていた。


スラム街。


嫌な予感が消えない。


(……レイン)


胸の奥が、少しだけざわついていた。

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