15:遠き過去の蘇生者
休憩を終えて、しばらくした後・・・話が再開される
「棺桶のシステムのこと。見本は私と雨葉の棺桶にしよう」
能力を使って、部屋の片隅に積んでいた二つの棺桶をホワイトボードの側に持っていく
「起きる前にうっすら聞こえたけど・・・一月は違い、気がついてるんだよね?」
「ああ」
一月は棺桶の上部分。そこに設置されている液体の入った何かを指差しながら答える
「作られた順番が早い順から、その容器が増えている。理論はまだわかってはいないが、おそらく、それは液状化させたパージ鉱石なのだろう」
「正解」
「人造生霊の稼働エネルギーとしてパージ鉱石が必要不可欠なのは雨葉から聞いている。寝ている間に、その容器を経由してパージ鉱石を吸収していることもな」
銀の目配せに、お兄さんが頷きを返す
僕たちがくる前に色々と話を聞いていたと言っていたが、これも含まれているらしい
「・・・その容器の数は、必要な電池みたいなものだろう?その数から察するに、銀、理一郎、御風。君たち三人はかなりのエネルギーを代価にしているな?」
確かに、銀の棺桶にはたくさんの容器がついている
能力が強ければ、エネルギー消費も激しい?
「うん。かなり使う。古い体を持たせないといけないから」
「・・・古い体?」
銀の表情が一瞬こわばる
それに、理一郎と御風は素早く反応する
「まあ、見てもらった方が早いかな」
銀から視線を逸らさせるように、理一郎は白衣を脱ぎ、隠していた両腕を露出させる
その腕の先には・・・あるべきものがなかった
「俺は両手の欠損。死ぬ間際に白死の影響でやられた。それからズボンを脱げばわかるけど、足とかも少しかけている部分があるんだよね。それも包帯で補っているけど」
「だから君は白衣で腕を・・・正確には手を隠し、伸ばした包帯を器用に動かして生活を送っているのか」
死因を思い出した彼だからこそ、なぜそこにあるべきものが欠けているのか当時のことがわかるのだろう
それは銀や御風さんにはできないことだ
「そう言うこと。それに俺が死んだのって二十五年前ぐらいの話だからさ。腐敗もかなり酷い。他にも見せられない部分あるぞ?」
「腐敗箇所か。しかし異臭はないようだが・・・後で詳しく見させてもらおう」
「見るんかい・・・」
「それと雨葉が受けた採取。年数で異なる部分も出てくるかもだから君も取らせろよ」
「採取?おけおけ。なんでもとっちゃいな?」
「言質はとった。撤回は認めないからな・・・!」
「採取は覚悟した方がいいですよ・・・うん。本当に・・・」
「何があった雨葉ぁ!?」
悪い顔をする一月と同情という名の哀れみの視線を向けるお兄さんに絶叫する理一郎
・・・はぐらかした合流までの空白時間、二人は何をしていたんだ?
「しかし腐敗か・・・十年前に死んだはずの雨葉は見受けられなかったな。季節は冬だったし、夏場に比べて腐敗速度が遅いのは理解できる。しかし、それにしては「綺麗すぎた」」
「どういうことです?」
「雨葉、後でまた聞き取りをする。理一郎も雨葉が目覚める前のことを知るのなら後で聞かせてくれ」
「了解。で、話を元に戻すとさ。紳也から銀は三十年前の遺体。御風は二十三年前の遺体を利用していると聞いている。二人とも劣化が激しくてさ、腐敗部分もいくつかある」
「・・・」
「銀も同じ感じだからさ。深くは追求しないであげて欲しい。こんなに小さい女の子の欠損事情なんて、胸糞悪いでしょ、お嬢様?」
「そうだな。欠損事情を好き好んでききたくはない」
バインダーの中に聞き取ったことを書き込んでいく
「・・・三十年前と二十三年前。それぞれ「大規模粛清」と「第二次箱外調査」が行われた時期か。それに理一郎も流れでは外で死んでいるようだが、白死で死んだ人間を箱の中に入れるとは思えない。どう遺体を箱の中に運び込んだんだ・・・?」
小声でブツブツいうものだから、少し離れた距離にいる僕らには聞こえなかったが、何かとても考え込んでいるようだった
「まあ、とにかく。番号が若いほど体を保つために膨大なパージ鉱石が求められるということでいいんだな?」
「うん。それでいい」
「もしもの為に聞くが・・・雨葉の場合、エネルギー切れは動けなくなる程度らしいが、三人はエネルギー切れになった場合、どうなる?」
「おそらく死ぬ。体を保つことができないから」
「そうか。他にも棺桶には秘密がありそうだが・・・それは一通り調べてからまとめて疑問として持っていく」
「・・・待ってる」
既に少し調べている一月が主に喋ることになった棺桶のこと
・・・まだまだわからないことばかりだ
「三国」
「何かな」
「君は外出許可取れそうか?」
「上層部が僕を監視外の場所にいかせたいと思う?無理だよ」
「じゃあ、雨葉、理一郎、御風で銀の分も鉱石を採取する必要があるな」
「はい」
「了解」
「なんで俺さりげなく頭数に入れられてるんだ・・・?」
困惑する御風さんの反応なんて梅雨知らず。一月はゆっくりと移動を始める
「手始めに通信手段でも作るか。浩二、君は研究サボるなよ」
「わかっています。それじゃあ、今回はここまでですかね」
そろそろ話すこともないし、とりあえず全員立ち上がる
本格的に動けるのはまだまだ先のことだろうから
今は普段通りに過ごしておこう
「そうだな。浩二は帰っていいぞ。三国は残れ」
「なんで?」
「三国・・・上層部にもみくちゃにされたい願望でもあるのか?」
「ないです。籠もります」
「ならばよし。浩二、三国の執務室から資料一式運んできてくれ。それ以降は呼び出すまで自由に」
「了解です!」
一月が浩二に指示を出すと、彼は早速動きに移っていく
僕はその様子をのんびり見守りつつ、息を吐く
色々あったし、これからも色々と待ち受けているのは明白
これから進む先に何があるのかは・・・まだわからない
「・・・・」
「どうしたの、銀」
「いえ、なんでもありません」
・・・どうしたらいいんだろうな、この状況
他のコンビと比べて、ギクシャクしている僕と銀のコンビも、これからどうなっていくのかもまだわからない
ただ、僕としては上手くやっていきたいと思う
一月とお兄さんのように、旧知の間柄で生み出せる空気が欲しいとは望まない
一月と理一郎のように、ウマが合うからやっていける感覚が欲しいとは望まない
浩二と御風のように、始まったばかりの師弟関係を望むわけでもない
ただ、仲良くなりたいだけだ
最初の人造生霊であり、大きな何かを抱えている彼女と、そんな彼女に似ているらしい僕の関係はまだ始まったばかり