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博士の愛した研究  作者: 鳥路
第一章:この世界で生きる「もの」たち
14/16

14:十人の人造生霊

話し合いが進んだ後

銀が軽く探知し、残りの道具がどのあたりにいるか大まかな見当をつけてくれた

一月の部屋にあった第三白箱の地図をテーブルに広げて、僕らは反応があった部分を見る


「・・・廃棄区画にいなかっただけマシか。探すの面倒だからな、あそこにいると」

「でも、積でも東区域と西区域に分かれているね・・・」

「核にも一つ反応があります。これは・・・」


三人でそれぞれ頭を突き合わせながら知恵を絞る

最初に声を出したのは、一月だった


「核の調査は僕がしよう。浩二はまだ中心区画に入る資格はないし、三国もできれば入りたくはないだろう?」

「・・・まあ、そうだけど。一月は」

「気にするな。この中で一番最適なのが僕だからな。二人は積の方に向かってくれ」

「・・・わかった」


本当ならば、あの家や一月の父親がいる核の中心区画に一人で行かせたくない

けれど、今の彼女にはお兄さんに理一郎がいる

後者はともかく、前者は一月を絶対に守り抜いてくれるだろう・・・信じるしかない


「じゃあ、僕と浩二で積の調査だね」


確か、東は浩二の出身地域だったはず。地の利があるのはこっちだろうか・・・


「あの、三国さん」

「どうしたの?」

「俺、西区域に行きたいです」

「驚いた。君は東を選ぶと思ったから。その理由は?」

「・・・知っているから見える視点もあると思います。けれど、知っているからこそ、油断して見落とすこともあると思うんです。だから、行ったこともない場所の方が意識的にはいいのかなと思って・・・それが、俺の西へ行きたい理由です」


・・・みんな、色々と考えている。自分がどうすべきか、一つ一つ

僕には、そんな風に言える意志はない


「わかった。じゃあ、僕は東を調査するよ。西は浩二に任せた」

「はい!」


あっさりそれぞれが行く方向が決まる


「その前にさ、銀。一つ聞きたいことがあるんだ」

「何?所有者様」


一月や浩二のことは名前で呼ぶのに、僕のことは所有者と呼ぶ銀

契約関係にある存在だからか、それとも他に理由があるのかわからない

けれど、同じ期間を過ごしているのに二人に比べたらまだまだ僕と銀の間には距離がある


「銀は、所有者の詳細はわからないけれど、少なくとも人造生霊がそれぞれ対応している道具とかは把握しているんだよね?」

「はい。私は最初の人造生霊。十人いる人造生霊のリーダーも務めています」

「情報、出してくれる?」

「勿論です」


銀は姿勢を正した後、まっすぐと僕らの方を見ていく


「・・・ホワイトボード、使うか?」

「ありがとう、一月」


一月が気を利かせてくれて、普段予定を貼っているホワイトボードを貸し出す

お兄さん経由でマーカーも渡されるが、それは宙に浮いて銀の思うがままに動き出す


「改めまして、私は一番目の人造生霊。架賀銀。媒体は十字架のネックレス。所有者に私と同じ能力・・・奇跡を付与する能力を持ちます」

「・・・・」


ここで初めて聞かされた銀の能力は、彼女と同じ力を使うものらしい


「二番目は俺。七中理一郎。媒体はリボンタイ・・・だが、俺の使い勝手の関係で包帯が出てくるんだけど、それは気にしないでいてくれ。能力はこれを自由自在に操ること。長さだけじゃなくて伸縮率も、硬度も変えられる」

「へえ・・・これを一月博士の足を固定して・・・足の機能を仮に取り戻したんですよね?」


フヨフヨと舞う包帯に浩二が興味津々に触れていく

まるで、かつて核にいた時に見た猫のよう

猫じゃらしを前にした猫みたいな動きに、自然と笑いがこぼれてしまう


「ああ。お嬢様の腰まで包帯を伸ばしているんだ。それからお嬢様と俺の意識をリンクさせて、無意識で思い通りの動きをするように。それから生足のように滑らかな動きを求めてこうなった」

「・・・つまり、今の一月博士は下半身ミイラ状態と言うわけですか?」

「違う。動きやすさと機能性を重視してガーターストッキング状態にしている。トイレとか行きやすいようにな!」

「謎の気遣いありがとな・・・」


一月のスカートの下がなんとなく想像できた。まあ、隣のお兄さんも初耳だったようでかなり困惑している。若干キレているのは気のせいということにしておこう


一方、隣の浩二はなぜか首を捻っている


「三国さん・・・ガーターとか、ストッキングとかなんなんです?」

「・・・浩二にはまだ早い世界だよ」

「?」


「さて、話を戻そうか・・・次は、三番目。御風さんのことですよね?」


話を元の軌道に戻して、自分の順番を待ち構えていた御風に投げていく


「ああ」

「・・・どうしました?御風さん」

「浩二、後でしばく」

「なんで!?」


「気を取り直して、三番目は俺だ。鳩本御風。媒体は帽子。能力は風を生み出す。パッとしないが・・・風に関わることなら理一郎並みに変幻自在だ。こんな感じに」

「わー・・・冷風―気持ちいい・・・うわーあったかい熱ぷあっっっっ!?」


宣言通り、御風の能力は浩二を実験台にしてその能力を見せてくれた

風に関わることなら、なんでも・・・か


銀も理一郎も、御風も全員に共通しているのは、応用力が高めの能力を持っている

・・・かなり強力なものだが、代償とかないのだろうか


「四番目は杖。名前は木高雪きだかせつ。能力は・・・よくわからない。倒れない?らしいけどその実態は見たことがない。皆は見たことある?」

「雪さん、結構繊細な方で新参の僕には・・・その、話かけても無反応だったので・・・」

「・・・俺はないな。そもそも雪と関わりたくねえ」

「右に同じ。あいつ人格別れてんだもん。怖くて近寄りたくねえよ・・・」


銀が声をかけると、三人はそれぞれ答えていく


「・・・かなり厄介そうなやつだな」

「同感です」


そして一月と浩二がそれぞれ反応を示す

能力詳細不明の多重人格者?なのかな・・・かなり厄介そうだ


「五番目は知っての通り外套。名前は戸外杏とがいあん。能力は着用者の姿を消す」

「紳也が使っている子だね」


銀は僕の言葉に頷きを返しながら、話を続けていく


「六番目は人形。名前は糸川優結いとかわゆゆ。能力は糸で繋いだ対象を操作する力。なんだろう。人形だけど、人形使いをイメージしてもらった方が能力はわかりやすいかも」


「七番目はオルゴール。名前は奏居幸かなでいさち。能力は曲を聞いた対象を癒す。唯一他者を傷つけない使い方ができる能力の持ち主」


銀の口から淡々と述べられる情報を頭の中に刻んでいく

同時に、ホワイトボードにも同じ情報が記入されていく


「八番目は靴。名前は小倉麻緒おぐらまお。あの場にいれば、理一郎じゃなくてこの子が一月の足代わりになっていたと思う」

「それは、どういう?」

「確か、脚力向上だったよな?」

「理一郎の言うとおり。この子の能力は着用者の脚力向上。歩行能力ぐらい余裕で取り戻せるって聞く。ただ」

「ただ?」

「・・・この子、深く関わる前に棺桶のシステムを作った人に寄贈された。だから、最大出力はわからない」


棺桶のシステム・・・引っかかる単語が出てきたけれど、残り二人だ

追求するのは、また後に


「九番目は時計。名前は針栖有理はりすゆうり。能力は時間を操作する。正直、この子が人造精霊の中でも最強じゃないかなって思う。素の戦闘力も高いから」

「・・・流石に、時間操作の制限時間はあるんだろう?」

「・・・だと思う。でも、この子も深く関わる前に研究資金の援助をしてくれた人に寄贈されたから。よくわからない」


これで一通り、人造生霊たちは紹介し終わった

後は彼だけ


「では、最後に。十番目の傘。名前を黒傘雨葉といいます。能力は万物を防ぐこと。以上で人造生霊の名前と能力は大まかにわかったかと思います」

「そうだな・・・で、銀。次は棺桶のシステムに関して話してもらえるか?」

「・・・わかった。でも、少し休憩させて。こんなにたくさん話したの、久しぶりだから」


「銀さん。お茶、持ってきますね」

「ありがとう、雨葉」


銀が腰掛けたと同時に、お兄さんがお茶汲みに動く

僕らもたくさんの情報を詰め込んだ頭を休めるために、一息ついた

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