13:十人の人造生霊
話し合いが進んだ後。
銀さんが軽く探知し、残りの道具がどのあたりにいるか大まかな見当をつけてくれた。
一月さんの部屋にあった第三白箱の地図をテーブルに広げて、俺達は反応があった部分を見る。
反応は核に五。積に五。
「…もう全員目覚めているのかよ」
「言いたいことは分かるよ、理一郎。私も反応がない存在がいると思った。でも、全員反応があった」
「…まあ、危険な奴はここにいるし、後は結構気楽に挑めると思うぞ」
…思えば、今振り返っても十人の人造生霊全員と顔を合わせたのは俺一人だけだ。
三国さんも一月さんも、全員とは顔を合わせることが出来ていなかった。
他の面々と唯一会った俺からしたら、危険人物といえる危険人物は前科がある理一郎さんだけになるかもしれない。
後は皆、普通だった。生きている人と遜色がない存在だったから…。
「…廃棄区画にいなかっただけマシか。探すの面倒だからな、あそこにいると」
「でも、積でも東区域と西区域に分かれているね…」
「核にも、俺達以外の反応が一つありますね。これは…?」
三人でそれぞれ頭を突き合わせながら知恵を絞る。
最初に声を出したのは、一月さんだった、
「核の調査は僕がしよう。浩二は豚小屋…もとい、貴族が住んでいる中央区画に入る資格はないし、三国もできれば入りたくはないだろう?」
「…まあ、そうだけど。一月はいいの?」
「気にするな。この中で一番最適なのが僕だからな。任せておけ。二人は積の方を頼む」
「…わかった」
本当ならば、三国さんはあの家や一月さん父親がいる核の中心区画に一人で行かせたくない様子だった。
けれど、今の彼女には雨葉さんに理一郎さんがいる。
後者はともかく、前者は一月さんを絶対に守り抜いてくれるだろう保証が三国さんの中にも存在した。
彼は信じた。そして…これからを信じるしかない。
「じゃあ、僕と浩二で積の調査だね」
「はい!頑張りましょうね!」
「確か、東は浩二の出身地域だったはず。地の利があるのはこっちかな」
「あの、三国さん」
「どうしたの?」
「俺、西区域に行きたいです」
「驚いた。君は東を選ぶと思ったから。その理由は?」
「…知っているから見える視点もあると思います。けれど、知っているからこそ、油断して見落とすこともあると思うんです。だから、行ったこともない場所の方が意識的にはいいのかなと思って…それが、俺の西へ行きたい理由です」
…自分がどうすべきか、一つ一つ。
考えて、進んで歩み寄る。こうして自ら飛び込んだ大ごと。
何も成せずに、終わるわけにはいかない。必ず役に立ってみせる。
「わかった。じゃあ、僕は東を調査するよ。西は浩二に任せた」
「はい!」
あっさりそれぞれが行く方向が決まる。
西区域…本当に行ったことがない。何があったかな。
…舞台とか、娯楽施設が集っている印象だったけども、何も知りやしなかった。
「その前にさ、銀。一つ聞きたいことがあるんだ」
「何?所有者様」
一月さんや俺のことは名前で呼ぶのに、三国さんのことは所有者と呼ぶ銀さん。
契約関係にある存在だからか、それとも他に理由があるのかわからない。
けれど、同じ期間を過ごしているのに、二人に比べたらまだまだ三国さんと銀さんの間には距離があった。
御風と理一郎さんが距離感おかしいだけかもしれないけれど。
「銀は、所有者の詳細はわからないけれど、少なくとも人造生霊がそれぞれ対応している道具とかは把握しているんだよね?」
「はい。私は最初の人造生霊。十人いる人造生霊のリーダーも務めています」
「情報、出してくれる?」
「勿論です」
銀さんは姿勢を正した後、まっすぐと俺達に視線を向ける。
「…ホワイトボード、使うか?」
「ありがとう、一月」
一月さんが珍しく気を利かせてくれて、普段予定を貼っているホワイトボードを貸し出した。
雨葉さん経由でマーカーも渡されるが、それは宙に浮いて銀さんの思うがままに動き出す。
あれが、彼女の能力のようだ。
「改めまして、私は一番目の人造生霊。架賀銀。媒体は十字架のネックレス。所有者に私と同じ能力…奇跡を付与する能力を持ちます」
「…」
ここで初めて聞かされた銀さんの能力。
所有者が使う力も、彼女と同じ力を使うもののようだ。
「二番目は俺。七中理一郎。媒体はこのリボンタイ…だが、操るリボンは俺の使い勝手の関係で包帯が出てくる。それは気にしないでいてくれ。能力はこれを自由自在に操ること。長さだけじゃなくて伸縮率も、硬度も変えられる」
「へえ…これを一月さんの足に巻き付けて固定して…足の機能を仮に取り戻したんですよね?」
フヨフヨと舞う包帯に触れさせてもらう。
まるで、かつて散歩の時に見かけた猫のよう。
猫じゃらしを前にした猫みたいな動きに、自然と笑いがこぼれてしまう。
「ああ。お嬢さんの腰まで包帯を伸ばしているんだ。それからお嬢様と俺の意識をリンクさせて、無意識で思い通りの動きをするように。それから生足のように滑らかな動きを求めてこうなった」
「…つまり、今の一月さんは下半身ミイラ状態と言うわけですか?」
「違う。動きやすさと機能性を重視してガーターストッキング状態にしている。トイレとか行きやすいようにな!」
「謎の気遣いありがとな…」
一月さんのスカートの下がなんとなく想像できた。
しかし、雨葉さんはそれが初耳だったようでかなり困惑している。若干キレているのは気のせいということにしておこう。
一方、俺はと言うと…。
「三国さん…ガーターとか、ストッキングとかなんなんです?」
「…浩二には、まだ早い世界だったみたいだね」
「君はこのまま純粋に生きるんだよ…!こんなのになったらだめ!」
「お子様だなぁ」
「…まだ浪漫が分からねえ年頃か」
「…?皆さん、何ですかその生暖かい目は」
「おほん…さて、雑念を振り払って話を戻そう。次は、三番目。御風」
銀さんが軽く咳払いをした後、話を元の軌道に戻してくれる。
話を振られた御風は、仕方なさそうに返事をした。
「ああ」
「…どうしました?御風さん」
「浩二、後でお勉強な」
「なんで!?」
「気を取り直して、三番目は俺だ。鳩本御風。媒体は帽子。能力は風を生み出す。パッとしないが…風に関わることなら理一郎並みに変幻自在だ。こんな感じに」
「わー…冷風気持ちいい…うわーあったかい熱ぷあっっっっ!?」
宣言通り、御風の能力は俺を実験台にしてその能力を見せてくれた。
風に関わることなら、なんでも…か。
銀さんも理一郎さんも、御風も全員に共通しているのは、応用力が高めの能力を持っている。
…かなり強力なものだが、代償とかないのだろうか。
「四番目は杖。名前は木高雪。能力は…よくわからない。倒れない?らしいけどその実態は見たことがない。皆は見たことある?」
「雪さん、結構繊細な方で新参の俺には…その、話かけても無反応だったので…」
「俺もないな。そもそも雪と関わりたくねえ」
「右に同じ。あいつ人格別れてんだもん。怖くて近寄りたくねえよ…」
銀さんが声をかけると、三人はそれぞれ答えていく。
「…かなり厄介そうなやつだな」
「同感です」
能力詳細不明の多重人格者?なのだろうか。かなり厄介そうだ。
「五番目は知っての通り外套。名前は戸外杏。能力は着用者の姿を消す」
「紳也が使っている子だね」
「六番目は人形。名前は糸川優結。能力は糸で繋いだ対象を操作する力。なんだろう。人形だけど、人形使いをイメージしてもらった方が能力はわかりやすいかも」
「七番目はオルゴール。名前は奏居幸。能力は曲を聞いた対象を癒す。唯一他者を傷つけない使い方ができる能力の持ち主」
銀さんの口から淡々と述べられる情報を頭の中に刻んでいく。
同時に、ホワイトボードにも同じ情報が記入されていく。
彼女は能力の使い方が非常に上手。文字も綺麗で読みやすい。
情報も簡潔に纏めてくれている。
俺は話を聞きつつそれをメモに写して、後で見返せるようにしておいた。
「八番目は靴。名前は小倉麻緒。あの場にいれば、理一郎じゃなくてこの子が一月の足代わりになっていたと思う」
「それは、どういう?」
「確か、脚力向上だったよな?」
「理一郎の言うとおり。この子の能力は着用者の脚力向上。歩行能力ぐらい余裕で取り戻せるって聞く。ただ」
「ただ?」
「…この子、深く関わる前に棺桶のシステムを作った人に寄贈された。だから、最大出力はわからない」
棺桶のシステム…引っかかる単語が出てきたけれど、残り二人だ。
追求するのは、また後に。
「九番目は時計。名前は針栖有理。能力は時間を操作する。正直、この子が人造精霊の中でも最強じゃないかなって思う。素の戦闘力も高いから」
「…流石に、時間操作の制限時間はあるんだろう?」
「…だと思う。でも、この子も深く関わる前に研究資金の援助をしてくれた人に寄贈されたから。よくわからない」
「資金援助をしたというのは…」
「核の人間だった。だから、一月が探すことになるのは有理の所有者だろうね」
「そうか…」
これで一通り、人造生霊たちは紹介し終わった。
後は彼だけ。
「では、最後に。十番目の傘。名前を黒傘雨葉といいます。能力は万物を防ぐこと。以上で人造生霊の名前と能力は大まかにわかったかと思います」
「そうだな…で、銀。次は棺桶のシステムに関して話してもらえるか?」
「…わかった。でも、少し休憩させて。こんなにたくさん話したの、久しぶりだから」
「銀さん。お茶、持ってきますね」
「ありがとう、雨葉」
銀さんが腰掛けたと同時に、雨葉さんがお茶汲みに動く。
俺達もたくさんの情報を詰め込んだ頭を休めるために、一息ついた。




