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博士の愛した研究  作者: 鳥路
序章:人造生霊との邂逅
12/16

12:もう一度、駆ける足を

雨葉がいなくなった後

残された一月と理一郎は向かい合う


「ほら、お嬢さん。よだれ出てるぞ」


包帯を器用に操り、一月のよだれを拭き取る


「それなんだ」

「俺のリボンタイ。まあ、長さ的にもうリボンタイの領域通り越して包帯だけどさ、伸縮自在の帯が出せるって印象でいいよ」

「ふむ。では君も人造生霊の一人か」

「ご明察。改めて自己紹介をさせてもらおう」


自分自身を誇示するように、包帯・・・リボンタイを宙で踊らせる

淡い光を放つそれを纏った彼は、静かに語り出した


「俺は二番目の人造生霊として生まれた七中理一郎なななかりいちろう。見ての通り、リボンタイを媒体にして作られているよ。お嬢さん?」


理一郎自身、この名乗りはかなり練習したものなので、少しでも反応が欲しかった

しかし、一月の反応は無のまま

それに動揺している彼に目もくれず、一月は淡々と質問を投げかけ始める


「ふむ。では君の特技を教えてもらおう」

「俺の特技は見ての通りこれを操れること。」

「これとはなんだこれとは」

「包帯状の帯」

「リボンタイなのに包帯なのか?」

「生前の仕事柄使い勝手が良くて・・・」


「なるほど。では君は生前の記憶があると見受ける。生霊の条件から察するに、覚えているのはおかしいのではないか?」

「はい。私の場合、人造生霊と目覚めてから生前の記憶を思い出し、自我の崩壊が起こらず現存している唯一の存在であります」

「ほう。君のセールスポイントはそこにあると見える。では生前のことを軽く話してもらおう。話せる範囲で構わない」


そこから、一月と理一郎は面接風に質問と回答を繰り返していく


「・・・博士、なんで面接風なんです?」

「・・・面白いからじゃない?」

「しかし、さりげなく理一郎さんの本名引き出してるの怖いですね」

しちはら理一郎りいちろう・・・確か積の生まれ。町医者の息子だったはず」


「お家からお医者様なんですね」

「軍医になったのも、確か弟さんが跡取りでいたから、だったはず。家のいざこざみたい」

「大変ですねえ・・・」

「お前らどこ目線だよ・・・」


二人の様子を伺う浩二と三国

そして二人の様子を観察する銀と御風。二人の主人の行動に、少し疑問が出てきたのは言うまでもない


「ふむふむ。君のことはわかった。では、一つ聞こうじゃないか」

「なんでしょうか」

「君の求める絶望を知る者。その基準量はなんだ」

「俺の裁量」


それだけは、断言しきった

今までは若干ふざけていたけれど、これだけは、間違えてはいけないと一月は瞬時に察する


「空気変わりましたね」

「これはどう動くんだろうな」

「お前ら本当にどこ目線で語ってんだよ・・・」


そんな三人を見るのに飽きた銀は、調理器具と材料を見つけて調理をしていた雨葉に声をかける


「雨葉、私にお手伝いできることある?」

「銀さん。ありがとうございます。では、時間を測っていてくれると」

「・・・うん」

「三国君にいつ話すつもりです?その、マントの下のこと」

「機会を見計らう。頑張るから」

「何かお手伝いできることがあれば言ってくださいね」

「うん」


それから雨葉は野菜を切り、銀は鍋の様子を伺う


「・・・僕の絶望は、彼だよ、理一郎」

「雨葉か?」

「お兄さんは、僕のせいで死んだんだ。その時の僕は何もできなくてね、逃げろと言われたのに逃げずにいて、お兄さんを庇う力もないのに庇って、足に大怪我をしてしまった。今じゃこのザマだ」

「・・・そう」


「当時から僕はやるせない気持ちを抱いていたんだよ。足りない何かがあれば、お兄さんは生きていたのかもって」


体を起こし、細い足で立ち上がる


「おい、上手く歩けないんだろう?」

「ああ。この調子だということを知ってもらえたらいい。だからこそ、僕は求める」


理一郎のワイシャツを掴み、体を預ける


「見ての通り、僕は自分の足で立つことすらままならない。ついているだけの、お荷物だ」

「そうか」

「けれど、僕には叶えたい夢がある。大事なお兄さんから預かった夢がある」

「ああ」


「君が求める絶望はな、彼の死で得て彼が与えてくれた夢という希望で相殺されたんだ。だから君が求める人間に僕はなれないことを先に伝えておく」

「それなら・・・」


その先に来る言葉はわかっている

その前に、自分の言葉を述べなければならない


「でも、君の力は僕の礎に必要なものだ。大人しく力を貸せ、理一郎」

「・・・わかった。退屈させたら、雨葉に殺されるってわかってても、俺がお前を面白い人間のまま殺してやる。これは取引だ」


「いいだろう。僕は力を求める。お前は、何を求める?」

「退屈しない毎日を。常に提供してくれよ、お嬢様?」

「誰が退屈させるか?毎日実験に浸らせやる。せいぜいもう一度死なないように気張るんだな」


その瞬間、一月の足に理一郎が舞わせていた包帯が巻きついていく

彼女の足を補強するように巻かれたそれは、彼との契約の証


「これで契約はすんだ。俺はお嬢様の持ち物だ。せいぜい大事にしてくれよ?」

「言われずとも・・・わ、歩けるようになっている」

「歩行機能を俺が支えている。銀がお前と俺を引き合わせたのも、そういう都合だろうさ」

「そうか・・・ところで銀というのは」

「・・・自己紹介してないのかよ、あそこの連中」


理一郎が向けた視線の先には複雑そうに笑う御風

そして同時期にシチューの鍋を持った雨葉と食器を宙に浮かせながら運ぶ銀が戻ってきた


「博士、ご飯できましたよ。皆さんも食べましょう」

「やった。お兄さんのシチューは大好物なんだよ。いくぞ理一郎」

「・・・楽しそうで何よりで」


歩けるとはしゃぐ一月の後ろを保護者のように理一郎がついていく

その姿に笑いながら浩二と御風、三国も物陰から出てテーブルの方へ向かった


「あれ、博士。その足・・・」

「雨葉、君の後輩だ。こき使ってくれ」

「・・・あ、そっか。雨葉と所有者被ってるのか・・・」

「そうですよ。契約、無事に済んだんですね。これからもよろしくお願いしますね、理一郎」

「もちろんだ。壊れない程度にこき使ってくれ、あま・・・雨葉」


こうして、紳也が置いて行った道具たち四人は無事に主人を見つけることができた

もちろん、他の道具たちも例外ではない


・・・・・


「さて、全員に道具が行き渡った頃かな」


白箱の外で、紳也は道具たちの動向を静かに見守る


「・・・十個の道具が、九人の主人を見つけた」

「ここからが本番だよ、一月。世界を救うための戦いは、始まったばかりだ」

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