週末
「ダメだわ、全然覚えてない!」
菜々子はワイングラスを傾けて笑いながら言った。
どうやら年末ここで飲んだ事は覚えていても、
ヒラケイに何を話したかは覚えていないらしい。
私達はこのオープンテラスのバーが気に入って、
万丈一致で今日のお店を決めた。
「ひどいよ、生徒に言わなくてもいい事を、
ペラペラ、ペラペラ、話してたよ。」
クスクス嫌みに笑うと菜々子は笑いながら謝った。
ヒラケイはこの近くでバイトしているらしいが、
今日はインターンシップで式場にいる。
バイト帰り、角を曲がったところに
自転車を取りに行く事もなければ、
はたまた私たちに会う事もない。
何となく、ヒラケイの事は菜々子には言っていない。
別に何があった、わけではあるが、
何かがあったわけでもはじまったわけでもない。
あれは何だったのかなって事をわざわざ人に言うと、
どんどん話しが加速してしまう。
そういうのがどうも苦手だった。
「じゃ、また近々。」
そう言って、バーを出て少し歩いた所で別れた。
ここから自宅までは歩いて30分弱。
まだまだ22時過ぎのこんな日は歩いて帰りたい。
お酒のせいで火照る身体にはこれくらいの冷気が
ちょうど心地良く感じた。
この次のコンビニに寄って、
少しだけ高いワインを買って、
この間録画してた映画を観て、
そんなどうでもいい事を考えながら、
静まり返った夜道にヒールの音が響く。