27/38
自惚れ
ギュッと、強く目を瞑って、それから下を俯いた。
髪を撫でるヒラケイの手が止まる。
「先生、何で髪伸ばしてるの?」
「別に、伸ばしてない、切れなかっただけ。」
無愛想に答えると、そっか、と小さく呟いた。
ヒラケイの手が頬に触れ、
頬に触れた指先が唇に触れる。
肩を押す片手の力が強く込められると、
唇を割って、指先が口内へと滑らされた。
濡れた指先は、私の首筋を這い、
そのまま、長く伸ばした毛先を触った。
その瞬間にヒラケイはハッと顔を上げた。
「待って、先生、ごめん。
自惚れだったら、本当にごめん。
…でも、自惚れじゃないよね?」
答える前に、京太が寝返りを打ち、
ソファから勢いよく床へと転がった。
私達はどちらからともなく身体を離し、
それでも眠る、京太にブランケットをかけ、
足早に玄関を後にした。
自惚れなんかじゃない。
あの日、あの公園で、触れられた髪を、
どうしても切る事が出来なかった。




