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心の声
「じゃぁ、ヒラケイ、後の事は任せた。
私、電車がある内に帰るね。」
もう、大丈夫だろうとは思っていたけど、
2人きりになるのは避けたかった。
ヒラケイも同じようにグラスの中のワインを
流し込むように飲み干すと立ち上がった。
向かい合うように立つ、ヒラケイ。
「駅まで、送っていく、危ないし。」
やだ。やめて。余計なことしないで。
「大丈夫、平気、一人で大丈夫。」
「いや、でも、もう遅いし。
それに先生も結構酔ってるでしょ。」
ほっといて。近付かないで。
触らないで。それ以上こないで。
心の中でそんな言葉がひたすら飛び交う。
「大丈夫っ、だから。いい、平気。」
思ったより、大きい声だった。
しまった、と、どこかで思ったかもしれない。
そのまま肩を押されて、
ガタンっと大きな音と共に壁に押し付けられた。
壁に当たった背中がジンジンした。
「何なんだよっ、もう、わけわかんねぇ。」
ヒラケイが苛立ちで声を荒げるのははじめてだった。
「ごめん、先生。ぶっ壊したら。」
そう言うと、片手が頭を撫でる。
言葉とは裏腹、その手は優しかった。




