長い髪
「へぇ。それでいつから一緒に住むの?」
菜々子は缶ビールを片手にそう聞いた。
仕事納めの翌日から菜々子は我が家にいる。
近くに住んでた頃を懐かしく感じる程、
私たちも年齢を重ねていて、
菜々子にも結婚を意識した人がいる。
「んー。分かんないけど、まぁそろそろ?近々?
とりあえずは今年度中は無理かなぁ。
次の春の入学式を終えて、
落ち着いた夏頃が一番いいんだけど。」
缶ビールを飲み終えた菜々子は、
キッチンからグラスを取るとテーブルに並べた。
買ってきた赤ワインの栓を抜くと
なみなみに注いでいく。
菜々子の酔った時の癖だ。
「まぁ、郁が思う時でいいんじゃない。
何事も焦りは禁物。
失敗できないからね、慎重に、だよね。」
アハハっと豪快に笑う声につられて、
私も思わず笑い声をあげた。
「確かに、もう、そんな年なんだねー。」
少し前までの結婚式ブームはすっかり落ち着き、
年賀状には、子供が産まれました、が増えた。
菜々子は長い私の髪の毛先を触りながら、
ジッと私の顔を見つめた。
「何?」
「郁が髪長いの珍しいなって。
全然切ってないよね。
だってずっと肩まであるかないかの髪が、
ここ最近ずっと長いから。変な感じ。」
菜々子はクスクスと笑った。




