素直な気持ち
「郁、そろそろ一緒に暮らさないか?」
それはあまりにも突然で、
京太を見つめたまま静止したからか、
クスクスと笑い声をあげた。
「すぐにってわけじゃないよ。
俺たちもいい年齢だろ?
俺はしばらくここから動く事はないし、
郁さえ良ければ、ね。
万が一また転勤の話しが出たなら、
その時は結婚すれば良い。
結婚して一緒にここに居ればいいんじゃない?」
この人は。
こんなにも大事な事をさらっと言ってのける。
もちろん今すぐにどうのこうのって事じゃない。
だけど、素直に嬉しかった。
「うん、考えてみるね。」
ちょうど、さっき頼んだワインが注がれ、
京太とカチンとグラスを合わせた。
京太の家庭は、
京太が家を出た後に離婚したらしい。
父親は行方不明で朝山は父親の姓だと聞いた。
私も小さい頃に父を亡くし、
高校を卒業するまでは母の実家で暮らした。
母は父が亡くなったのが随分こたえたようで、
中学を卒業するまでほとんど家には帰らなかった。
私は祖父母に育てられた。
高校を卒業する頃に祖父母が立て続けに亡くなり、
母は戻ってきたけれど、
今さら親子関係がうまくいくはずもなく、
祖父母が貯めてくれていた預金をもって、
バイトをしながら専門学校に通い、
一人暮らしをはじめた。
それから母には会っていない。
菜々子も同じように複雑な家庭で、
それもあってか私たちはすぐに仲良くなった。




