先生じゃない
駄目だ、行けない。
それに1時間以上も過ぎてる。
さすがに待ってる筈がない。
でも、もし、万が一、
まだそこにいるとしたら?
まだ肌寒い中、風邪でもひいたら?
子供じゃないんだから、それくらいわかる筈。
気付いた時にはコートを羽織っていた。
駄目だ、って思いながら、
頭では理解しながら、走っている自分に驚いた。
「ヒラケイっ!」
あそこのコンビニ。
寒い時期、偶然会ったあのコンビニ。
ほんの少し先にある小さな公園。
フェンスにもたれ掛かり、俯く姿を見つけると
迷いもせずに駆け寄った。
「何考えてんの、何時だと思ってんの。
来なけりゃ帰るでしょ、まだ寒いし、
風邪引いたらどうすんの。」
ヒラケイはハハッと乾いた笑い声をあげる。
それから私の両肩をグッと掴んで、
フェンスに押し付けた。
「先生、ちゃんと応えて欲しい。
ちゃんと見て、本当の事言って。
突き放すんじゃなくて。
俺、本当に先生の事が好きなんだよね。」
落ち着いた声。優しいトーン。
真っ直ぐ向けられる視線。
肩に置かれた手を振り払おうとしたら、
両腕を掴まれて、阻止された。
全部見透かされてる、そんな気がした。
「ね、先生。俺っ…」
「もう、先生じゃない。」




