空旅の終わり
「もしかして、私の勘違い……?」
僕は頷く。フルミネに似ている人なんてなかなかいないと思う。色々な意味で。
そして、恐らく予想外の反応が返ってきたからなのか、フルミネは焦った調子で言った。
「ごめんっ、今の忘れてっ……!」
「あー、うん。勘違いさせてごめん」
僕は思った以上に慎重になり過ぎていたみたいだ。そのせいで彼女に誤解させてしまった。
「本当にごめんねっ……!?」
「気にしてない気にしてない」
質問には驚いたけれど、それだけだ。フルミネが謝ることは何もない。
「フルミネの言葉も嬉しかったし」
「――!」
僕の彼女に対する感情が一方通行になっていないことを、改めて確認できた。それは素直に嬉しい。
「シン、ズルい……」
「どこがっ!?」
今になって再び顔を赤くするフルミネに、割と理不尽な言葉を言われる。
「シンも、言って」
「何を?」
「シンが言われて嬉しかった言葉っ」
「……そう来たか」
さて、どうしよう。まさかの反撃だ。
ここでの正しい行動は、フルミネの言葉に従うこと。それは分かっている。
しかし、こうして言わされるのは結構恥ずかしいものがある。
「は、早くっ」
……求められたら、言わない訳にはいかないよな。
「僕もフルミネのことが好きだよ」
「〜〜〜〜!」
フルミネは声にならない声をあげ、僕も手で顔を仰ぐ。
顔の熱が治まらない。
落ち着け自分。何も間違ったことも恥ずかしいことも言ってない。深呼吸深呼吸。
「「すーーーー、はーーーー」」
深呼吸が被る。
「……胸焼けしそうだわ」
「アルバが見たら卒倒しそうだな」
「「――っ!?」」
声が聞こえてその方向に首を勢いよく回す。
ウリエーミャとグラスさんが少し離れた位置からこちらを見ていた。
「い、いつからそこに?」
「私もグラスも今来たばかりよ。何の話か知らないけど、少しは周りへの注意をしなさい。そのままだと、騎士団でもやっていけないわよ」
「「……はい」」
ウリエーミャの言う通り、他に誰もいない部屋の中ということで油断していたのかもしれない。
* * * *
皆が寝静まった夜。
目が冴えていた。
理由は、あのフルミネの言葉。
彼女は似ていない。
でも、同じなんだ。
大切なんだ。
だからこれは、今度は絶対に手放したくないという、僕の我儘。
……もし、僕を知ったら、彼女は僕をどんな目で見るのだろう。
* * * *
「――もうすぐ着くぞ」
三日目の朝。朝食を終え、部屋でくつろぐ僕達にグラスさんは言った。
「グラス、一昨日の魔獣のこと、アルバから連絡あった?」
「いや、まだだな。騎士団が動いてるとは思うんだが……」
二人の会話が耳に入り、気になったので少し訊ねてみる。
「それって、ガロウナムスのですか?」
「ああ……そういえば、二人に騎士団の仕事の説明はまだしてなかったな」
「魔人と戦うことじゃないの?」
フルミネも話を聞いていたのか、会話に入ってきた。グラスさんはその言葉に頷き、さらに説明を補足する。
「各地の治安維持や適度な魔獣の駆除、あとは今回あった異例な事態の調査も騎士団の仕事だ」
「適度な駆除って?」
「魔獣の討伐は守人の仕事だからよ。それを奪う訳にもいかないでしょ? 大量発生して人に被害出してくるぐらいなら、流石に騎士団も動くでしょうけど」
「へー……」
ウリエーミャの説明に納得した様子のフルミネは、なんとも緩い声を漏らす。
「まあ、小遣い稼ぎ程度に守人やってる奴も騎士団にそこそこいるけどな。シンも登録してるだろ」
「そうなの?」
「もう必要ない気がするけど、一応」
騎士団に入ることが決まり、これからは寮のような場所で生活することを聞かされている。生活する分にはお金も困らないだろう。
何か事件を起こしたりしない限り、騎士団を辞めさせられることなんてないと思うし。
そんなことを考えていると、離陸時と同じアナウンス音が船内に響く。
『ガロウナムスに到着しました』
「着いたみたいだな。降りるぞ」
グラスさんは事前にまとめてあった荷物を持って、外に向かう。僕達も荷物を持ってそれに続いた。
「シン、よかったね」
飛行船の廊下を歩いていると、フルミネが話しかけてくる。
「何が?」
「離陸の時みたいな揺れがなくて」
「……その節はお世話になりました」
* * * *
「ここがガロウナムス……」
外に出ると、目に入るのは西洋風の建物。まるで外国に来たような錯覚に襲われる。
……都市が違うのだから、外国というのもある意味合っているのかもしれない。
ガロウナムスは、王都と同じように高い壁に囲まれていた。
しかし、王都の壁は土でできていたのに対し、この都市の壁は薄暗い色の金属でできている。多分、鉄だと思う。
「――グラスさーん!」
声のする方に振り向くと、少し離れた所から小走りでコンビニさんが近づいてくる。
「確か、騎士団に行くんですよね。俺も行くので案内しますよ」
「ああ、助かる。それじゃあ頼む」
コンビニさんが前を歩き、僕達はそれに続いて歩く。
因みに、ウリエーミャとは飛行船を降りる前から別行動を取っている。元々、ガロウナムスには用事があったらしい。
それにしても、コンビニさんが騎士団の元副団長だということを聞いた時は本当に驚いた。そんな雰囲気、何も感じていなかったから。
……まあ、あの時はモヒカンに過剰反応を示してしまっていた僕にも問題はあったのだけれど。
――そして、しばらく歩いてドーム状の大きな建物が見えてくると、グラスさんが口を開く。
「あれがガロウナムス守護騎士団の本拠地で、お前達がこれから世話になる場所だ」




