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キラキラは宙を舞い

第四章開幕の前に突然ですが注意書きです。

※今回の話はリバース注意。

「寿命が、ない……?」


 つまり、ゲンブさんは生きている……?


「……だから、分からない。何でフルミネの背中を押すような真似をしたのか」

「師匠、どういうこと?」


 僕も、グラスさんの言葉の意味が分からなかった。

 その言葉を聞く限り、ゲンブさんは"フルミネのために嘘をつくことはない"ということになるから。


 そこで、戦王が口を開いた。


「四帝の制約だ」

「人と魔人のどちらかに肩入れをしてはならない……だよね……?」


 ……何故、その話が出てくるんだろう。その口振りだと、まるで――。


「フルミネの背中を押すのも、その制約に抵触する」

「ど、どうして……?」


 戦王から告げられた言葉にフルミネは狼狽える。

 僕も内心で混乱していた。たったそれだけで、肩入れに含まれるなんて思いもしなかったから。


 しかし、戦王の次の言葉によって僕達は理解する。


「フルミネは七聖だ。ゲンブもそれは知っていた」

「「――っ!」」


 七聖は、唯一魔人に対抗できると言われる人だ。その一人の背中を押す……それは、魔人との敵対を意味するということになってしまう。他意はなくとも。

 だからこそ、グラスさんは疑問に抱いていた。制約に抵触してまでフルミネの背中を押す理由が分からなかったから。


「あたしはゲンブの所に行く」

「私も行かせてっ」

「僕もお願いします」

「……そういう訳だから、アルバ……行ってくる」

「分かった」


 そして、僕達は身支度を簡単に済ませて王宮を出発した――。




 * * * *




 ――王都を出発して数時間。魔動車は森の中を突き進む。


「大丈夫か?」

「……はい……」「……うん……」


 ガタガタと揺られる車内で、僕達はグラスさんになんとか返事をする。

 当分、魔動車には乗りたくなかったのに、まさかこんなに早く乗る羽目になるなんて思ってもいなかった。

 今回は荷車ではなく魔動車本体の方に乗っているから振動も幾分かはマシだけど、やっぱり苦手だ。


「グラスさん、車の運転できたんですね……」

「他の街に行くための移動手段は大体が魔動車だ。慣れといた方がいいぞ」

「……はい……」

「……ぅ……っ……ぅぅ……」


 隣から呻き声のようなものが聞こえ始める。

 そちらに目を向けると、フルミネが真っ青になって口を抑えていた。


「……フルミネが危険域です。あとどのくらいで着きますか?」


 僕は努めて冷静に、グラスさんに現状を報告する。


「三時間……フルミネは耐えられそうか?」


 グラスさんは落ち着いた様子で僕の質問に答えた上で、問い返してきた。


「フルミ――」


 僕が口を開いた瞬間、フルミネは僕の膝に倒れ込む。そして、口を抑えて涙目でプルプル震えていた。


「駄目っぽいです」

「駄目っぽいか」

「休憩、入れてあげてください」


 このままだとフルミネの尊厳がお亡くなりになってしまう。

 ――その場合は、一緒に僕の衣服もお亡くなりになる。一応、着替えは一着持ってきてはいるけども。


「……もうすぐ開けた場所に出る。そこで休憩しよう」

「その開けた場所ってどれくらいで着きますか?」

「早く見積もって十分だな。フルミネ、どうにか耐えてくれ」


 視線を下に向けると、フルミネは涙目を越えて泣いていた。限界状態だった。


「フルミネは十分も耐えられないそうです」


 膝に冷たい何かが零れ、僕の衣服を湿らせていく。


「……速度上げるぞ。多少振動は増えるが、五分に短縮してやるから耐えてくれ」


 魔動車の進む速度が上がり、体にかかるGがぐんと増える。車の振動はより小刻みになり、フルミネの頬は心なしか膨らんでいるようにも見える。


「うぐっぷ」


 心なしかじゃなかった。これ、着いたら絶対リバースするやつだ。


「それにしても、フルミネがこんなに酔いやすくなってるとはな……」


 グラスさんが苦笑しながら呟く。その言い方だとまるで……。


「元々は酔わなかったんですか?」

「それどころか、魔動車に乗る度にはしゃいでたぞ?」


 意外だ。今のフルミネからはそんな姿は想像もできない。


「……ゲンブは、どうしてフルミネの背中を押すような真似をしたんだろうな」

「グラスさんはゲンブさんと旧友なんでしたっけ」

「……初めてできた友達、だな」


 グラスさんは懐かしむように語り始める。


「あたしは、ホムストのあの温かい雰囲気が苦手だった。あたしの世界では、愛なんて無かったから」

「……グラスさんの世界って、どんなところだったんですか?」

「戦争が当たり前で、毎日生きるか死ぬか。親は自分が生きるためなら平気で子供を売る……それはもう、最悪な世界だったよ」

「……すみません」


 僕は軽く後悔した。聞かなければよかった。


「謝らなくていい。過ぎた話だ」

「でも――」

ほふ(もう)ふひ(むり)……」

「「………………」」


 僕達はフルミネのことを完全に忘れていた。僕の膝はフルミネの涙で湿りきっている。


「ふ、フルミネ、あと一分足らずで着くっ。それまで耐えろっ」


 グラスさんはフルミネに呼びかける。


「……ぅぅ……」


 フルミネの呻き声を聞いたグラスさんは、魔動車の速度をさらに上げた。ガタガタ道をジェットコースター並の速度で突き進む。

 控えめに言って、乗り心地は最悪だ。けれど、この際乗り心地云々を言っても意味がない。


 ――フルミネがリバースする未来は確定してしまっているのだから。


「二十秒で着く。着かせる。だからもう少しっ……!」

「フルミネ、頑張れっ……!」


 既に"如何に尊厳へのダメージが抑えられるか"という問題に変わっている点は気にしてはいけない。


「――着いたぞっ」


 この時、グラスさんは焦っていたのかもしれない。彼女はここでミスを犯した。

 僕達が乗っている魔動車には屋根がない。そして、ジェットコースター並の速度である。さらに、シートベルトのようなものも存在しない。


 ……()()()()()()()()()()()()()()()


「――うわっ!?」

「――――」

「あっ」


 当然の如く、僕とフルミネは車から投げ出される。


 そして、逆さまの視界に映し出されるキラキラした液体状の何か。それは太陽の光を反射させて輝きながら――僕に襲いかかった。

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