表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/114

vs【地聖】咆哮×砂煙

 砂煙が完全に晴れる。


「……防いだか」

「『左腕:盾』っ」


 フルミネは両腕の盾を前に突き出して戦王に突進した。


「『土壁』」

「『S=D』」


 戦王は、フルミネが突進する直線上に分厚い土の壁を作る。

 ――僕はフルミネの後ろから飛び出し、その壁を蹴り飛ばした。


「っ……!?」


 今までずっと変わらなかった戦王の表情が、驚愕の色に染まっていた。きっと、僕が地中から脱け出していたとは思わなかったのだろう。


「『特避』っ、フルミネ!」

「うんっ、『右腕:盾』『左腕:魔銃』!」

「『土柱蔓(どちゅうづる)』」


 僕達の目の前の土が盛り上がり、行く手を遮るように幾本もの柱となって襲ってくる。


「任せてっ、『魔弾:散×連』!」


 フルミネはその柱を『魔弾』で全て相殺しようとした。しかし、それはまるで生きているかのように、『魔弾』を避けてフルミネを襲う。


「――『運搬』」


 フルミネに迫る土の柱から、僕はフルミネを引っ張って後ろに後退することでそれをかわす。


「足引っ張ってごめんっ……」

「いや、今のは完全に読まれてた。フルミネのせいじゃない」


 きっと、地聖は[王眼]で『魔弾』の射線を知ったんだ。だから、土の柱をあんな風に動かすことができた。


「……作戦が成功するかどうかの前に、まずは近づかなきゃ始まらない……『C極』」


 どうする。考えろ。今は触れられなくていい。一瞬でも近づければそれでいいんだ。でも、それができない。どうすれば[王眼]を掻い潜れる……?


 僕の『A極』なら、人に接近するのは容易だ。魔人にだってそれはできた。

 けれど、どんなに速度が速くとも[王眼]で読まれてしまえば、それは罠に向かって直進するようなものだ。


 逆に『C極』なら擬似的な先読みができる。[王眼]の未来視にも追いつけるかもしれない。

 ……でも、それだけだ。ろくに動けないし、フルミネへの指示だって追いつかない。


 せめて、[能力改変]の"発言"という制約が無ければ……こんなことを考えても仕方ないか。できないものはできないんだ。


「……それなら、近づかなくてもいいぐらいの声量で、()()


 できないことはないが、僕の近くにいるフルミネの方が危ない。だからこの方法は使えない。


 ――そんなことを考えていると、フルミネは僕を戦王から隠すように盾を前に突き出した。


「私なら大丈夫だから、やって」

「……何を?」

「シンの独り言、聞こえちゃった」


 ……いつの間にか口に出してしまっていたらしい。


「『地下牢獄』」


 戦王も待ってはくれないみたいだ。僕とフルミネの足が地面に沈み始める。


「耳の頑丈さに自信は?」

「音は盾で軽減するから大丈夫」


 例え軽減できたとしても、ただでは済まない筈だ。


「私はシンのことを信じてる。だから、私のことも信じて」

「……分かった、信じるよ」


 本当は不安しかない。でも、フルミネは僕を信じてくれている。なら、僕も信じない訳にはいかない。


「……それより、腕と頭……大丈夫……じゃないよね……?」


 フルミネは心配そうな目で僕を見る。誤魔化せなかったか。


「……大丈夫だから、今は集中。絶対に失敗できないから」


 頭はガンガンするし、腕も動かそうとすると痛い。でも、そんなことを気にしてる余裕も時間も残っていない。


「……無理はしないでね」

「分かってる。じゃあ、やろう。『S極』、3、2――」

「『両足:魔力回路、瞬間集中』っ」


 フルミネは強引に地面から足を抜き、僕と距離を取る。


「――1――」


 戦王は、動こうともしない僕に訝しげな様子だ。僕がこれから何をしようとしているのか、分かっていないのだろう。


 ――でも、今さら気づいても遅い。


「――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――!!!!」

「――っ!」

「ぐっ……!?」


 『S極』は力。それは、喉や腹も例外ではない。僕の全力の叫び声に、戦王は堪らず耳を塞いだ。


 そして、足を沈ませていた地面が柔らかくなる。僕はそこから足を引っこ抜き、戦王に話しかける。


「やっぱり、そうだったんですね」

「……?」


「あなたは、()()()()()()()()ですよね?」


「何が言いたい」

「僕の声だって、壁を作るなりすれば防げた筈です」


 未来視の欠陥。


「なのに、それをしなかった……否、できなかった。未来が視えても、未来は聴こえないから」


 それは、視覚に頼りすぎること。


「壁ばかり作って、攻撃をしてこない」

「……何の話だ」

「さっき、フルミネに使った魔法も手加減してましたよね。僕が防げた理由も、あなたが手加減していたから」


 あの戦闘訓練の時、フルミネが威力を加減していたように。


「逃げも隠れもしないんじゃなかったんですか」

「俺は逃げてない」

「……言い方を変えます。壁を作って、手を抜いて、まともに向き合う気はないんですか」

「『土壁』」


 今までとは比較にならないぐらい、大きな壁が目の前に立ち塞がる。


「『運搬』」


 僕はその壁を駆け上がり、乗り越え、落下する。


「『D極』、逃げるなっ!!」

「――っ」


 垂直落下は戦王に避けられる。


「黙れっ――『土砂崩れ』!」


 戦王が初めて声を荒げた。

 フルミネを襲った以上の量の土砂が、僕に向かって零距離で放たれる。これは避けられない。


「――それを待ってた」


 この避けられない距離の攻撃まで、全て作戦通り。

 全ては、戦王に『土砂崩れ』を使わせるために()()()()()


「『S極』」


 先程と同じように土砂を両腕で吹き飛ばすが、波のように押し寄せる土砂を全て吹き飛ばすには至らない。


「――まだだ」


 体を回転させて、右足で蹴り飛ばす――!


「ぐっ……!?」


 その瞬間、目を開けていられないような砂煙が巻き起こり、僕はアルバが漏らした声を聞いた。しっかりと。


「フルミネっ!」


 僕は叫ぶ。僕を信じて、息を潜めて待っていてくれた彼女の名を。


 僕はもう左足しか動かない。砂煙のせいで目は開けられないし、頭痛のせいでまともに立っていられない。

 それに対して、地聖はノーダメージ。視界を塞いでも、今の僕では触れることすら叶わない。


 ――だから、後は任せるよ?


「任せて」


 僕に答える声が、隣から聞こえたような気がする。その声を最後に、僕は意識を手放した――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ