vs【地聖】唐突×不可解
僕達が戦王の元に到着し、グラスさんは口頭で僕達にルールの確認をし始める。
「スキル、魔法の使用制限は無し。神器の使用は当たり前だが禁止だ。制限時間は三十分……他に、何か聞きたいことはあるか?」
「……じゃあ、一つだけ。フルミネの手足が戦王に触れた場合は、どう判定するんですか?」
――その僕の問いに答えたのは戦王だった。
「"触れた"と同義で構わん」
戦王は落ち着いた様子を崩さない。やはり、この程度は脅威の内にも入らなさそうだが、それでも手札が増えるに越したことはない。
「聞きたいことはそれだけか?」
「はい。フルミネは?」
「私も、一つだけ……」
フルミネはグラスさんの目の前に立って――懇願した。
「……でも、それは、私達が勝った時で、いいから……だから、その時、私の聞くことに、正直に答えて。もう、嘘、つかないでっ……」
「……フルミネは、何を聞きたいの?」
僕はフルミネに訊ねる。
六年前の真実を知らないフルミネが、どうしてもグラスさんに聞きたいこと。それが一体何か、僕も分からなかった。
「師匠が嘘をついてまで、私を遠ざけようとした理由」
「……そっか」
僕はフルミネの言葉を聞いても、不思議と驚かなかった。今思えば、僕達の会話を聞いて気づかないという方がおかしいか。
「僕からも、お願いします」
だから、僕もフルミネの隣に立ち、グラスさんに頼んだ。
フルミネには真実を知る権利がある。それに、これ以上嘘をついても意味がないことは分かっている筈だ。
しかし、グラスさんは答えづらそうに視線を逸らした。そんな彼女を見て、戦王が口を開く。
「グラス、俺に構う必要はない」
「いいのか?」
「万が一にでも俺が負ければ、どちらにせよ、全てが無駄になる」
「……確かに、そうだな」
グラスさんは諦めたように息を吐き、フルミネに言った。
「分かった。その時は全部話す」
「……信じて、いいんだよね……?」
フルミネはグラスさんの言葉を確認するように問い返す。
「ああ。今度は嘘じゃない」
「……うん、信じる」
フルミネはグラスさんの言葉を聞いて、安心したように顔を緩ませる。本当のことを言ってくれる保証など無いのにも関わらず、それを信じて疑っていないフルミネを見て、彼女らしいと僕は思った。
「――話は終わったかしら?」
話のキリが良くなったところに、ウリエーミャが痺れを切らした様子で会話に入ってくる。
グラスさんはその言葉を聞いて、再び僕達に確認する。
「他に聞きたいことはあるか?」
「ありません」「もう大丈夫」
「アルバは何かあるか?」
「ない」
「――それじゃあ、始め」
「「…………え?」」
グラスさんが確認を終えた瞬間、ウリエーミャは宣言した。
あまりにも唐突すぎる開始の合図に、僕達の疑問の声が綺麗にハモる。
こういうのって、普通、カウントあるものじゃないの……!?
「……始まってるぞ」
「――っ、フルミネ、とりあえず作戦通りに! 『特避』!」
「う、うんっ、『両足:剛脚』!」
若干もたつきながらも、僕達は動き出す。まずは、僕とフルミネは左右に分かれて挟み撃ちを試みた。
「『土壁』」
「『S=D』っ」
地面からせり上がる土の壁を、僕は迷わず殴り壊す。しかし、その壁の先には既に二枚目の壁が築き上げられていた。
「――何枚壁を造ろうが、全部壊すだけだ!」
続けざまに二枚目、三枚目の壁を粉砕する。
そして、僕が四枚目の壁を殴ろうとした時、僕が殴る前に轟音を響かせながらその壁が崩れ落ちる。
その壁の先には、両腕を槌の形に変型させたフルミネがいた。僕達は顔を見合わせて、お互いに問いかける。
「戦王は?」「アルバは?」
確かに、僕達は挟み撃ちをしていた。それなのに、戦王に辿り着く前にフルミネと鉢合わせするのはおかしい。
「『地下牢獄』」
「――っ、何だこれっ……!?」
戦王の声に振り向こうとしたが、それは叶わなかった。いつの間にか足首まで地面に埋まっていたのだ。
そして、周囲の地面も盛り上がり、僕を呑み込もうと襲ってくる。
「シン!?」
「来るな!」
しかし、フルミネは僕を助けようと飛び込んできてしまう。フルミネは僕を引っ張りあげようとするが、恐らく間に合わない。
――このままでは、フルミネも僕の巻き添えになる。
「フルミネ、舌噛まないようにね」
僕は地面に呑み込まれる前にフルミネの腕を掴んだ。
「――っ! 待って――」
フルミネも僕が何をしようとしているのか分かったのだろう。だから、僕はそんな彼女の声を無視して上空に投げ飛ばした。
――そして、襲いくる地面に呑み込まれたのだった。
▼ ▼ ▼ ▼
シンは、私を庇って地面に呑み込まれてしまった。
「――まだっ!!」
私は落下の速度も利用して、シンが呑み込まれた地面に両腕を叩きつける。けれど、その地面はびくともしない。
「シン……!」
「安心しろ。時間まで大人しくしてもらうだけだ」
そう言われても、安心なんてできる訳がない。こんなの、ただの生き埋めだ。
――そこで、私はあることに気がつく。
「……さっき、アルバなら、私にも同じことができた筈だよね……?」
シンが地面に呑み込まれた時、私には何もしてこなかった。壁を複数方向に同時展開できるのだから、私達を同時に生き埋めすることだってできる筈。
私の問いかけに、アルバは答えてくれない。だから、勝手に結論を出させてもらう。
「私に、攻撃できない理由があるの……?」
私はその結論から出た疑問を、アルバに向かって再び問いかけた――。




