二首の化け物
「はぁ、はぁ、ぐっ……」
喰い千切られた右腕を[炎魔法]で燃やし、止血させながら、全力で地面を蹴る。森の外に出るために。この森に巣食う化け物の存在を、誰かに伝えるために。
今はその目的のことしか考えられなかった。あまりに血を流しすぎたせいで、頭があまり回らなくなっていた。
「ニガサナイ」
「ワレラノ、カテトナレ」
前方から聞こえる忌々しい声。
瞬間、目の前に立ち塞がった。巨体の、人語を解する二首の狼が。
「クソがっ……!」
いつの間にか、先回りされていた。
足が止まる。体が震え上がる。恐怖を再認識する。
どうすればこの理不尽の権化から逃れることができる。
討伐はとっくのとうに諦めた。方法が無いのだから、諦めざるを得なかった。
俺達はこの化け物に五人で挑んだ。
最初に、前衛が首を切った。再生した。
次に、二つの首を両方同時に潰さないといけないと推測して、後衛の魔法で潰した。再生した。
頭を潰しても生きている。再生する。この事実に俺達は動揺したが、すぐに切り替えた。これらの条件を満たす生き物の存在を知っていたから。
それは魔物だ。魔物には核が存在する。その核を潰さない限り、再生する。
俺達は魔物を実際に見たことはない。でも、話に聞いたことは幾度もあった。だから、対応できた。
激闘の末に、俺達はこの化け物の拘束に成功した。そして、全身を燃やし尽くした。
「『火炎』! 燃えやがれ!」
目の前に立ち塞がる化け物に全力の[炎魔法]をぶつける。化け物は声一つ発さずに炭と化す。
――その灰の粉の一部から、当たり前のように化け物は再生した。もう何度目か分からない絶望が、目の前に立ち塞がった。
「キカヌ、キカヌ」
「オロカ、オロカ」
悟った。もう逃げられない。
俺の仲間は既に全員死んでいる。体力が尽きて、魔力も尽きて、一人残らずこの化け物に喰われて逝った。
「サア、カテトナレ」
「カテトナレ」
誰か、この化け物を止められる誰か――。