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怠惰な魔本使いの見聞  作者: 炬燵天秤
第3章 黒衣の探索者と転移者の迷宮水路
49/64

49話目 真実(偽)

相変わらず魔族の会話は書くのも読むのも手間が掛かる。特徴を出すためとはいえ、どうしてこんな事に……。



三章もラスボス戦、クライマックスへと入りました。見立てではあと3話程度で締められそうです。ダンジョン攻略をカットした以上、ボス戦で魅せなくては(物量でのゴリ押し)



……では、どうぞ!

__________________



「効かないから」


俺たちへと迫る軽く百を超える禍々しい触手は、ページから溢れ出す蒼の光条によってあっさりと灼き払われた。


「対象同時選択、『流星の欠片』」


当然それは俺の魔導書、そこから分離した数百を超えるページに刻まれた迎撃術式によって為されたものだ。とはいえ、光属性の分類において最も簡単な複数同時選択式マルチロックオンスキルを放っただけだが。


「追加。対象敵術師、『光帝の十字槍』」


不意打ち気味の挨拶にお返しする為、単発の魔法攻撃を放つ。十字架型の光の槍が凶相を浮かべる老人へと一直線に突き進み、その胴体を穿たんと襲い掛かる。


「流石は百合姫。このくらいは容易く退けルか」


そう呟いた老人の右腕が大きく変貌を遂げる。ドス黒い色に染まり、元よりもふた回り以上の太さへと醜く膨れ上がっる。その爪は長く伸び、露出した赤黒い血管が不気味に脈打つ異形のかいな


怪物の腕を表に出したそいつは、『光帝の十字槍』をあっさりと弾き飛ばしてしまう。威力自体はランク4の『武器射出』に匹敵し、魔性の存在には良く効く対悪魔用の光属性スキルなのだが……効果が薄いな。


「ガメスオード! 何故貴様ガココニイル!?」


俺の攻撃を防ぎ、余裕の笑みを浮かべる老人の前に一人の骸骨が躍り出る。三十メートルの距離を一歩で詰め、オリベルは大跳躍の勢いを乗せて骨手に握る細剣を振り下ろした。


「まさカとは思っていタが、やはり百合姫の腰巾着か! ニンゲンに殺されたと聞いて笑ったガ、案外しぶといな!」


「バカヲ言ウナ! 貴様コソエルフニ秘宝ヲ盗マレタト聞イタゾ? 自称悪魔最強☆様ハ、オツムガヨロシクナイヨウダナ!」


「ぬかセ!」


鋭利なレイピアと異形の腕は互いに妖光を纏い、派手に激突した。常人の動体視力では捉えきれない高速の刺突と爪撃が、血のような魔力光を周囲に撒き散らして幾度も交叉していく。


「あれはまさか、……『秘技解放』?」


「知ってるのセレーラ?」


魔族同士による罵倒混じりの戦闘に対し、俺とセレーラは際限無く湧き出る黒触手に包囲されていた。その最中、俺の背後で薄刃の剣を振るっていた彼女の呟きに、手持ち無沙汰だった俺は首を傾げて聞き返した。


正直、無限湧きの雑魚モンスター程度の相手なら魔導書に全て任せても問題ないのだ。本来ならセレーラが手を出す必要すらないから……このタイミングで体力を使い果たされても困るし、そろそろ止めるか。


「はい。お父様から聞いた話ですが、使用者の魔法適性を超えた現象を引き起こすのが『秘技解放』です。大して魔力を持たない戦士によって行使されるものが有名で、その多くが武具に何らかの属性を宿し、放出するものがそう呼ばれます」


スキルみたいなもの、か。今戦っている二人は魔族だし使ってるのは闇属性だろうか? 強化されてない動体視力では魔力の残滓が散る様を見るのが精一杯なので、どんな効果なのか確認できないのが口惜しい。


「セレーラはあそこに介入出来そう?」


「厳しいですね。良くて数合打ち合えるかどうか……。そもそも『秘技解放』を宿したまま長く戦える人族なんて、それこそ勇者様くらいしか……」


ふむ……。てか、アステリオにも使えるのか。ちょっとは見直してもいい、のか?


「まあ仕方ない。セレーラ、補助魔法は掛けておくから自衛は頑張って。……一度、邪魔してくる」


俺はセレーラに『句砦』を掛け、『透身』で姿を消してから中空へと『飛翔』する。そして十分な高さから黒一色と化した大広間を見下ろし、戦況を把握するために目を素早く走らせる。


『句砦』は味方に掛ける防御スキルであり、スキルの対象者が受けるダメージを周囲に浮かぶページが肩代わりするというもの。簡単に言えば、仲間に掛ける使い捨ての『詩篇城塞』である。


彼女の周囲に浮かぶ枚数はたったの五枚だが、強度の無い黒触手が相手ならこれで十分持ち堪えるだろう。


(あの二人は互角、セレーラも魔導書のサポートがあれば問題ない。なら、まず最初に対処すべきなのは……彼らか)


オリベルとガメスオードが戦闘中の王座正面、その更に奥、黒い柱の陰に身を隠した青年と妖精の元へと静かに降り立つ。


「ツバキだっけ? そいつ、生きてる?」


「ひえっ!? ……な、なんだ。貴女ですか……」


突然背中から声を掛けられた妖精は飛び上がって驚いたが、声を掛けたのが俺だと理解すると、ホッと安堵のため息を吐いてツバキの肩の上に降り立った。


その肩の主、ツバキは意識を失って項垂れいる。肩を叩いても反応がなく、顔も土気色で呼吸も酷く浅い。目を離した隙に死に掛けてる……。


「生きてます。けど、ちょっとヤバい状態です。魔族の瘴気に当てられて危うく精神が崩壊し掛けていたので、今はちょっと眠ってもらってます。この趣味の悪い結界を何とかしないと、風向きは良くなりませんよ」


「……つまり、あなたも結構拙い状況と」


妖精はフワリと浮かんで気丈に振る舞っているが、彼女の背から生えている薄桃色の羽には黒い斑点のシミが浮かび上がっている。どう見ても健康に良さそうなものには思えない。


「あはは……。いや、あの……その。スケルトンな見た目の魔族な人は兎も角ですね。貴女様やあちらのお姫様も、普通ならこの広間を覆ってる呪いで動けなくなると思うのですが。一体どんなカラクリをお使いに……?」


「さあ? 彼女は精霊種とのハーフだって聞いたけど」


「精霊種!? これは……不幸中の幸いですね。彼女の力を借りればこの結界の呪いも何とかなるかもしれません。

あのクソ悪魔だけで結んだ結界ならワタシだけでもぶっ壊せるんですが、あのゴミ、もといクソにダンジョンマスターとしての権限を乗っ取られて厳しい状況だったんですよ」


ふむ? この広間に入る前に襲い掛かってきた呪いのようなアレと、ここの黒い瘴気は同じ代物なのか。あの時は幻覚だと思っていたが、どうやら本当にセレーラの治癒に助けられていたみたいだ。あと口が悪いなこの妖精!


「アーデさん。つかぬ事をお聞きしますが、その、無尽蔵に魔力が湧き出る魔道具みたいな物を持ってたり……しないですかね?」


「あるけど?」


使える状況は限られてるが。


「やっぱり無いですよね……って、持ってるんですかぁ!?」


肩を落としたその勢いで俺の鼻の先まで詰め寄る妖精。見本のようなツッコミは見事だが、激突寸前まで詰め寄るのは心臓に悪いからやめて欲しい。


「ちょ、ちょっと見せてもらってもよろしいですか……?」


「…………」


震える声でそう申し出た妖精に、俺は無言で自分自身を指差した。


「……? えっと、それは何のジェスチャーで?」


「そのままの意味。適当にスキルを使用していれば、まず魔力が尽きる心配は必要ない」


仕草の意味を図りかねた妖精の問いに俺はそう答える。俺の場合はむしろ、スキルを放てば放つほど魔力は増えていく(・・・・・)


これは俺が保有するスキルではなく、装備している服やローブ、ペンダントに付与された特性である。その効果は「スキルを使用した際に魔力(MP)を割合で回復する」というもの。


装備の一つ一つで見ると微々たる効果なのだが、俺が身に付けている装備全てを揃えると、大抵のスキルは使えばむしろ魔力が回復、消費した魔力よりも多くなって還元されるというインチキじみた性能をしている。


魔力を消費すると逆に増える。間違いなく熱力学関係の法則に喧嘩売っている特性だが……まあ自分が使えてる以上、気にする必要はないな。物理苦手だし。


「……マジですか」


「嘘を言う理由がない。それで、無尽蔵の魔力で何をするつもり?」


我に返った妖精はどこからともなく取り出した二枚の紙片に青石炭チョークで素早く魔法陣を刻み、描き上げた内の一枚を俺の懐へと押し込む。


「これは魔力を移送する為の回路パスです。貴女に渡したものから、もう一方の魔法陣へと魔力を吸い上げられるよう調節しました。

片割れをあちらのお姫様に渡し、クソ結界を壊す術式を起動してもらいます。……相当な量の魔力を持っていくと思いますが、本当に大丈夫ですか?」


妖精に渡された紙きれからは、細い糸の存在が薄っすらと感じ取れる。今は栓を閉じているが、これを通せば魔力の受け渡しが可能というわけか。


試しに糸の間に手を割り込ませると、光を翳したガラスのようにすり抜け魔力が通っている。これなら多少物理的な妨害を受けたとしても、問題なく魔力を渡せるのだろう。


「余程一気に持っていかない限りは問題ない。それで、時間はどの程度掛かる?」


「ええっと。……十五分、で如何でしょう?」


……長いな。魔族同士の戦いは依然として膠着してはいるが、十分以上互角の戦闘が続くとは思えない。そして、均衡が崩れた際に有利になるのは間違いなく戦場ダンジョンの支配権を持つガメスオードの方だ。


妖精を抱え、再びセレーラの元へと戻る。周囲に群がる邪魔な黒触手の処理は残っている『句砦』に任せ、肩で息をしている彼女に妖精を手渡す。


「アーデさん?」


突然渡された妖精と俺を交互に見返して困った顔を見せるセレーラ。……うん、頑張れ。


「あの戦いに参加して時間を稼ぐ。詳しい話はそいつに聞いて。多少無理に魔力を持っていっても良いから、なるべく早く完成させてくれると助かる」


「へっ? え、あの……。えぇ……」


「状況説明ゼロって酷いと思うんですがねぇ……。ま、こっちは上手くやってみますぜ」


二人に背を見せ、身体を戦場へと向け直す。……それにしてもあの妖精、何者なんだろうか。


俺と会話してる時は口調がやけにへりくだっていたり、六十進法……この世界では使われていない筈の分表記を、俺が理解(・・・・)していることを承知(・・・・・・・・・)で平然と口にしていた。


(……考えるのは後にするか。今は目の前の敵を退けるのが先、か)


「オリベル、下がって。ーー『長剣射出』、ランク3」


「クッ……、アーデ!」


セレーラと妖精が小声で言葉を交わすのを尻目に、中空へと浮遊する。そして若干押され気味のオリベルに仕切り直させる為、周囲に撒いたページから軽く剣を放つ。


「ム? ……ヌルい狙撃でスなあ、百合姫。魔領を離れ、代わりに得たのが人間風情のチンケな魔法モドキと。随分と格が落ちたもンだ」


が、先程の光魔法と同様に異形の腕に弾かれ、大量生産品の長剣は呆気なく砕け散ってしまった。流石に道中のサソリよりも柔らかい訳がないか。ランクが高くて尚且つ悪魔に効く武器、持ってたっけ?


「忘れタか? 魔法とはそんな稚拙なモノじゃねえ。ほらよ『黒焔』!!」


お返しとばかりにガメスオードの掌から黒い炎が噴き上がる。それは蛇のように鎌首を擡げて煌々と燃え盛り、俺を呑み込もうと視界一面に広がっていく。


「『風霊の嵐斧』」


だが黒い炎は背景と同化して視認し難くはあるものの、炎の広がる速度は遅く軌道も読み易い。迫るそれに対し、真正面から風属性のスキルを叩きつける。


床を舐めるようにして広がる黒炎と、空中から叩きつけるようにして放たれた無色の鉄槌が俺とガメスオードのちょうど中間で激突、そして……あっさりと黒炎側が霧消した。


「チッ、魔力だケは魔王譲りっテか? だがな、力押しで勝とうなんザ、百年早ぇんだヨ!!」


勢いそのままに迫る脅威を前にしても、ガメスオードは余裕の笑みを崩さず怪腕を振るい、軽々と暴風を退けてみせる。


「なカなカやるジャないか百合姫。鈍ってなくテ安心したヨ」


「…………」


……何かがおかしい。手抜きとはいえカンスト(Lv.250)魔導師のスキルをノーダメージで防ぐ? 仮に同レベルだとしても、スキルを使用せずに無傷で凌ぐのは不可能だ。念のためにガメスオードを睨み、そのステータスを覗き見る。が、



ガメスオード・デービス、百二十歳。

Lv.71

職業・魔王幹部、四天王。

称号・呪魂の悪魔、ダンジョンマスター。



と、そこまで特筆すべき情報は見当たらない。強いて言うなら、ツバキから奪い取ったダンジョンマスターの称号が怪しいか。……魔王幹部? 四天王? こっちはただの死亡フラグだろう。


そして、先程からまるで俺のことを知っているような口ぶり。謎の「百合姫」という呼称に魔王が云々というセリフ。なんだ、あいつは何を知っている?


「さっきから何の話をしている。百合姫とか、魔王とか、心当たりのない話をされても意味が分からない」


「……ハ」


「お前は、何を企んでいる」


俺の知らない事は質問するに限る。目の前の悪魔の真意を糺す為にそう告げたーー次の瞬間、ガメスオードは狂ったように笑い出した。


「……ハ、ハハハハハハハ!! 何を言い出スかと思えバ、まだ猫を被るつもリか百合姫! ーーいや、まさか本当に分かってイないと? なラこの俺ガ教えてやルよ百合姫。……おっとコノ通称も使わない方ガ良いか?」


目を血走らせ、歯を剥き出して嗤うガメスオードの顔の輪郭が唐突に崩れ出す。目はギョロリと飛び出し、歯は長く鋭い牙へと伸びていく。


人の形を保っていた片腕と両脚、胴体が泥のような醜い色へと染まる。頭部には一対の禍々しい角が、背中からは蝙蝠のような黒い翼が生え出す。



「先代魔王の一人娘としテ『血統派』が担ぎ上ゲた旗頭。『好戦派』たる俺ハ貴様を殺すタメ、態々ニンゲンノ街まで出向いタノダ。ソウ、お前ハーー」



悪魔。まさに悪魔という名に相応しい姿へと変貌したガメスオードは、牙の剥き出た口元を喜悦に歪ませ、謳うようにその名を告げた。



「魔王位継承権第一位、リリアナーデ。リリアナーデ・バーンスタイン!! それこそが貴様の名前ダ! ドウダッ、思い出しタロウ!」





……………………誰、そいつ。

(●ω●)「勘違いされる系主人公だね」


アーデ「勇者にはダンジョンマスターと誤解されたし、今回は魔王の娘? まったく、困った困った」


(●ω|「似合ってるよ?」


ア「はぁ?」

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