↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怠惰な魔本使いの見聞  作者: 炬燵天秤
第3章 黒衣の探索者と転移者の迷宮水路
50/64

50話目 召喚

遅くなりましたが、何とか。今回は試験的に文頭を一マス空けています。今の今まで、スマホでは一マス空けが出来ないものとばかり……。



で、ではどうぞ……。

 __________________



「ドウダ、ようやく思い出したカ? リリアナーデ・バーンスタイン!!」


「…………」


 真実()を暴き、喜悦に歪んだ笑みを見せるガメスオード。だが、そんなドヤ顔をされても知らないものは知らん。人違いだ。


 仮にガメスオードから告げられた言葉で俺は記憶を取り戻し、魔王の一人娘としての自我を取り戻すなら……それはそれで構わないのだが。しかし、そんな記憶がフラッシュバックしたり湧いて出たりする気配は一向に無い。


 覚えているのは、元の世界にいた頃の所々黒く塗り潰された曖昧な記憶と、召喚されて花畑に降り立って以降の記憶だけだ。確かに記憶が曖昧な時期が無いわけではないが、まずリリアナーデという名の少女とは別人だろう。


「誰それ」


「………………………ハ?」


 嗤っていたガメスオードは、牙が剥き出しの口をあんぐりと開けて固まった。悪魔の如き(悪魔そのものだけど)凶相が惚けた表情を見せるのは中々新鮮で滑稽だが、宿敵とやらの容姿を見間違えないで欲しい。


「待て待テ待て! 貴様はリリアナーデ、百合姫だろウ!? まさか魔王の落胤とシテの証明たる名と家名すら捨て、俺を欺こうとデモ?」


「だから人違いだと。オリベル、そっちからも何か口添えよろしく」


 やけに狼狽えるガメスオードを尻目に、俺の出自を知っている魔族のオリベルへと視線を落とす。が、宙に浮かぶ俺の足下に見えたのは、口をポカンと開けてこちらを見つめる骸骨の姿。


「…………違ウノカ!?」


 お前もかよ!? 百合姫の腰巾着とか言われてたよな! 側近が間違えるのは拙いだろ! てか、今までの会話とか、戦闘スタイルで分かれよ!? 


「確カニ、光魔法ヲ使ウナンテ姫様ニシテハ珍シイナ、トハ思ッテイタガ……」


「瞳ノ色は緋色……。ムム、百合姫の瞳はミドリだったカ……?」


 こいつら……。


(この際、急にボケ出した魔族は放置しておくか……? どう転ぶにせよ結界を壊すまでは時間を稼ぐ必要があるし、それに奴(ガメスオード)は異質だ。下手に出ると、手を付けられなくなるかもしれない)


 狼狽える魔族を視界の端に捉えたまま、背後で行われている作業の様子をちらりと窺う。


 セレーラと妖精のペアは今も散発的な黒触手の襲撃を受けているが、そちらは『句砦』の迎撃で問題無し。彼女たちは戦闘の陰に隠れ着々と魔法陣の構築に勤しみ、結界破りの準備を進めている。


 良かった。これで二人までボケてたら、衝動的にベイレーンの街ごとダンジョンを吹き飛ばしてたかもしれない。


「おイ、貴様。百合姫ではないナラ、名前は何と言ウ?」


「…………」


「貴様に蔑ンだ目で見られる謂れはなイ」


 どうだか。憎悪で煮え滾った釜の底に人違いで連れて来られた身としては、とっとと始末して終わらせたいのだ。


 残念なことに、連れ去られたマロンを助けないと帰れないのだが。


「名乗ラナイ方ガ良イイゾ。魔族デナイナラ、名前ダケデモ容易ク呪ワレカネン」


 そう告げ、再びガメスオードと相対するオリベル。呪いとは……らしいというか、物騒だな。ステータスの称号に記された呪魂の悪魔の名は伊達ではないと。


「……まあイイ。貴様が百合姫ではないナラ、もはや戦う理由ハない。――交渉しようジャないか、この場から退けバ、俺はこれ以上貴様たチに危害を加えなイと約束しよウ。何ナラこの街に手を出すのモ止めるゾ?」


 異形の腕を広げ、宙に浮かぶ俺を見上げて嗤うガメスオード。提案自体は真っ当と言うべきか、まともに履行する気が有るのなら魅力的ではある。


 が、残念なことにこの提案では、既に連れ去られたマロンの解放が条件に入っていない。当然却下だ。


「先に連れ去った人たちはどうした?」


「ウン? ……あア、上手く使えばダンジョンは使い勝手の良い地下要塞ナンダガ、どうニモ燃費が悪クテナ。だからちと燃料ノ確保に協力してもらってるワケさ」


 悪魔の笑みを浮かべたガメスオードが指を鳴らすのと同時、奴のすぐ側にゴポリと黒い球状の「何か」が浮かび上がった。


 広間を埋め尽くす黒触手よりも禍々しい漆黒。あらゆる光をも呑み込む、深淵の闇。球体からは絶えず瘴気が溢れ、悍ましいそれを見るだけで正気が削られるような気さえしてくる。


「な、……っぁ!!」


 悪意、憎悪、怨恨といった人(・)の負の側面が実体を得たかの如きその存在に、アーデは心当たりがあった。


(まさか……カースキマイラと同じ!?  いや、下手するとアレ以上の……!)


 見ているだけで込み上げる吐き気を気合で堪え、ガメスオードを睨み付ける。


「それが、お前が攫った人たちだと……!?」


「ご名答ダ、人間の魔法使い。たかだか十数人程度を媒介にシタ小規模な術式ダガ、皆良く働いてイルゾ」


 それは、姿は違えども、ベイレーン城を破壊した元凶、呪いと死者の集合体であるカースキマイラとその本質が非常に酷似していた。


 呪いの球体に個としての意識はない。ただ負の感情を生み出す為だけの、搾取されるだけの動力源(燃料)。


 だが、ローズリンデが千人以上もの生贄を捧げたカースキマイラよりも、目の前に浮かぶ球体の方が汚泥の如き怨嗟をより濃く漂わせている。それは術者としての力量の差か、より純粋な悪意が可視化する程の瘴気を纏っていた。


「恐怖、憎悪、――ソシテ絶望。人族の負ノ感情は良イ。我らの種族にとっテ、これ程満タサレル馳走ハ他に無い。ソレに加え、我が秘術をもってすれば、ダンジョンを稼働サセル為の燃料にもナル。さア、貴様も我が城の糧トなるが良い」


「お前はっ、……?」


 牙を剥き出しにして嗤う悪魔を糾弾する為、口を開こうとして――唐突な脱力感が俺を襲った。


(力が、抜ける?  いや、これ……妖精のやつか!)


 いつの間に状態異常《デバフ》を食らった?  そんな考えが一瞬脳裏を過ぎる。が、その原因が妖精に渡された魔法陣に吸い取られてのものであることに気付き、こっそりと安堵の溜息を吐く。


 どうやら二人は上手くやり遂げてくれたらしい。身体から抜け出る魔力は、魔法陣から伸びる極細の糸を辿って後方へと流れていく感覚もしっかりと把握できている。


(少しだけ怠いが……それだけだ。後は要求量を満たすまで、俺が時間稼ぎをすればいい)


 唯一気掛かりだった魔力の総供給量も、このペースなら丸一日掛けても俺の保有魔力は空にならない。多少派手にやっても戦闘に支障はなさそうだ。


「『詩篇城塞』。『句砦』。使用枚数15、『彗星光条』」


 ガメスオードを見据え、スキルを連続で発動させる。


 周囲に魔導書のページを展開し、セレーラに充てた護りを貼り直し、魔法陣の輝きで白く染まるページを敵に向ける。


「ふム、やはり人間族トハ思えん大魔法ヲ行使するナ。精霊、ソレトも天使の末裔カ?  ……マア仮にソウダトしても、今ノ俺に指一本触れるコトハ出来んガナ」


 護りは盤石。撃てと合図すれば、あらゆるものを消し炭へと変える光の奔流が、目の前に立つ悪魔を呑み込むだろう。しかし、


「――『魔法封印』」


 何もない虚空にガメスオードが腕を翳すと、その足元から黒一色の壁や床、天井に青色の刻印が刻まれていく。


 俺が悪魔の呟きを聞いて素早く所持しているアイテムを取り出していく間にも、青の紋様が大広間に線を刻み、覆い尽くすと、闇を切り裂く鮮烈な蒼光が薄暗い空間を満たした。


 そして紋様の輝きが薄れるのと同時に、悪魔へと照準を定め『彗星光条』を解き放とうとしていたページの輝きが霧散する。


 そしてそれは俺の周囲に漂っていたものや、セレーラ達を護る『句砦』のページも同じ様に魔力が上手く通わなくなり、ただの紙きれとなってひらひらと落ちていく。挙句『飛翔』によって得ていた力場も失い、俺の身体は10m(メートル)程下の黒い地面へと自由落下を始める。


(そりゃあ魔法使いが相手で魔法を封印出来るなら、そうするのは当たり前か。ま、タイミングは些か宜しくないが、仕方ない)


「ハハハハハ!  さア、魔法の使エナイ魔法使いなどタダの木偶ノ坊デシカないぞ。残ルはオリベル、貴様だけダ!」


「(そうでもない。――来いっ、ヒューちゃん!!)」


 力を失い落下を始めた俺を見たガメスオードは、勝利を確信したのか人外の牙を剥き出しにしてオリベルと相対する。


 落下死を確信し、ガメスオードが俺から目を離したその一瞬の隙を突く。道中も活躍した使い魔(アイテム回収用ペット)を喚ぶ為、セレーラ達の立つ地面へと手を翳す。


「『召喚・スネークヒュドラ』」


 魔導書の護りを失って黒触手に呑み込まれかけていたセレーラ達の足元に、妖精の描いたそれとは異なる魔法陣が浮かび上がる。迷宮支配者(ダンジョンマスター)の干渉すら跳ね除け、異界とを繋ぐ門はヒューちゃん――多頭水蛇(ヒュドラ)をこの大広間へと喚び寄せてみせた。


 チー、チー!! 


 九つの頭は鎌首を擡げ、それぞれの口から異なる属性のブレスを吐いて周囲の黒触手を灼いていく。密度のあった包囲が易々と消滅していく光景に、ガメスオードは瞠目し、理解できぬと声を荒げて叫んだ。


「ナッ、あのヒュドラ……いいや違ウ!  何故、ナゼ貴様は魔法を使えてイル!?」


「よっ……と」


 ダンッ!  と、着地と同時に足裏に強い衝撃が走る。常人なら良くて骨折、俺の外見通り少女としての身体なら間違いなく落下死する高さから着地したが、流石はLv.250の(カンスト)身体能力《キャラ》。多少足が痺れる以外には、どこも痛めていない。


「答エロ!  ニンゲン――――ッ!!!」


「やだよ」


 ダンジョンの最奥で吼えるガメスオードを横目に、片手を上げてヒューちゃんへと合図を送る。それと並行して、セレーラと妖精が巻き込まれないよう身に纏っていたローブを脱ぎ、頭から被せてやる。


「アーデさん?」


「しっかり握っといて。手を離すと即死するから」


 不思議そうに見上げる少女へ警告するのと同時、周囲の黒触手を蹴散らしていたヒューちゃんのブレスが途絶え、代わりに紫色の霧がその口から吐き出、大広間の床を覆うようにして広がり始める。


 当然ただの霧ではない。辺りに満ちるのは、強靭な魔獣や英雄ですら死に至らしめる多頭水蛇(ヒュドラ)の蛇毒だ。元の世界の伝承通りなら、毒に耐性が無ければ多分死ぬ、筈。


 ……念の為、自分も口を布で覆っておくか。


(低レベルの毒なら死なないだろうが、死なずに延々と苦しむ賢者をリスペクトする必要もない)


 毒霧は瞬く間に大広間の床から俺の頭付近の高さまでを満たし、煙幕のように二人と一匹の姿を覆い隠す。1m(メートル)先も見通せない濃い霧は、敵の接近を許さぬ不定の城塞と化した。


 断続的な襲撃を繰り返していた黒触手の群れがその霧に触れると、表面は泡立ち、溶けるようにして次々と消滅していく。黒触手の強度ではヒュドラの猛毒に耐えられず、触れた側から体組織が崩壊してしまっているのだ。


 不確定要素を生み出しかねない雑魚モブは素早く倒す、もしくは湧かせない。高いHPを持つボスモンスターとの戦闘では至極基本的な対処と言えるだろう。まあ、目の前のボスがタフかどうか分からないが。


 目論見通り雑魚モブの無限湧きはこれで潰した。後は魔法封印(フィールドギミック)と大元(ボスモンスター)だけ。


「クソが!  ――オリベル!  貴様モ壁に張り付イテイないデ降りて来タラドウダ!!」


 ヒュドラの毒は空気より重いのか一段下の広間に滞留し、ガメスオードが立つ階段より上の支配者の座には届いていない。それでも黒触手の惨状を目の当たりにしたガメスオードは迂闊に手を出せず、苛立たし気な怒号が耳に届く。


「……あと、どれくらいで終わる?  というより、魔法使えないのにそれ使えるのか?」


「ま、まだ掛かります。あと五分ほど。それと、こんな事もあろうかとダンジョンマスターの能力を少し弄っておきましたから、その点は問題ありません」


 姿の見えないオリベルも気にはなるが、今は戦場(フィールド)の主導権を奪うのが先決。緻密に描かれた魔法陣を前にうんうん唸っている妖精の隣で、随分と緩やかになった魔力の流出を眺める、……のは流石に時間の無駄か。


「直接魔力を回す。多少無理矢理ねじ込むから、調整頑張って」


「へ?  なにを言って……」


 訳が分からないとぽかんと口を開ける妖精を他所に、弱々しく明滅する魔法陣へと手を翳す。青石灰(チョーク)で刻まれた線に指を這わせ、内部構造を把握するために魔力を通わせる。


(……ふむ。ここがこうなっていて、あそことここが繋がり、そうするとあそこが反応する。つまりは、――成程)


「まったく分からない」


「魔法使いさ――ん!?」


 仕方ない。魔法なんて勉強した事ないし、今まで魔導書に丸投げしてたし。そもそもまだこの世界の文字読めないし! 


「こういうのは勘でやれば大抵上手くいく」


「これ繊細な魔法理論使ってるんですから止めてください!  下手するともう一度描き直す羽目になるんですが!」


 ローブの内側から必死にこちらを制止しようと試みる妖精。しかし辺りに漂う毒霧のため物理的な妨害には至れず、口だけで何とか説得しようと必死だ。


「南無三(手が滑った)。ていっ」


「ああぁぁあああ!!?」


 当然無視。掌を魔法陣の中央に押し当て、身体を廻り流れる魔力を魔法陣へと流す。時折、魔力の通りの悪い箇所が幾つか点在しているが、無視。咳をする要領で無理矢理注ぎ込む。



 キィィィィ…………



 暫くして、魔法陣が淡い輝きに満ちていく。広間を覆う禍々しい呪詛とは正反対の、神々しい輝きが俺の視界を白く染め上げた。


「嘘ぉ!?  召喚魔法を力ずくで成立させるって……んな無茶苦茶な!!」


「この手に限る」


 妖精の叫びを他所に、魔法陣の内側から溢れる聖光は次第に外側へと輝きの範囲を広げていく。その輝きは広間に犇く黒触手や、それを溶かすヒュドラの毒霧すら押し退けるようにして、俺やセレーラの周りの空気を浄化していく。


(想像以上に効果あるな。取り出しておいた解毒ポーション、必要なかったな……)


「…………はっ!  せ、セレーラさんっ、今のうちに先ほど教えた呪文を!」


 口をぽかんと開けて固まっていた妖精も、その輝きを見て飛んでいた意識を取り戻し、セレーラへと何やら指示を飛ばす。合図を待ち構えていた彼女はこくりと頷き、両の腰に佩いた細剣を抜いて魔法陣へと突き立てる。


「――万物の祖は小さき聖霊と契りを交わし、識を与えられし賢者は遙か太古、母なる五精と誓いを結ぶ。我が身を以てその誓いをここに。『精霊王招来』」


「貴様っ、ソノ呪文はアァァガアァァアア!!?」


 ガメスオードが絶叫を上げた直後、全てが白色の閃光に染まり、ガラスのように澄んだ音とともに広間を侵していた結界は砕け散った。

アーデ「狩ゲーで遅れるのは重罪」


(●ω●)「本当は発売日の前日に書き終わる予定だったのです」


ア「その予定から2週間も遅れてるけど一体?」


(●ω|「三章最後の描写を変更することにしたので」


ア「……はぁ、それなら仕方ないか(徐に包丁を構える)」


(●ω|「…………許されてない」



■


いつの間にか総合評価が1000ptに到達していました。ありがとうございます。


それとネット小説大賞五の一次選考通過してました。これを励みに精進していきたいと思い、ま、す……。



………………え?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。