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怠惰な魔本使いの見聞  作者: 炬燵天秤
第2章 白髪緋眼の魔本使いと呪いの狂宴
24/64

24話目 風光の魔本使いと星の輝き

第2章もクライマックス。あと数話で終わる……か?



そして2話ぶりに主人公視点。アーデにはしっかり頑張って貰いたいところ。



ではどうぞ!

――――――――――



地下から脱出した俺が最初に目にしたのは、嫌悪感を催す不気味な触手と、それに包囲され応戦する騎士達だった。


「なんだあれ……男を拘束して楽しいのか?」


触手の一本が掲げている騎士を見てボソッと呟く。だからと言って自分が縛られたいわけではないが。鎧を砕くほどの怪力で締め付けられれば、この華奢な肢体は容易く圧殺されてしまうだろう。


「ウルスザはあの騎士を救出しなさい。その後はサクと一緒に騎士達を避難させて。……サクはその後に街のギルドか何かにこの事を報せて」


「御意に。マスター」


「はい。アーデ様もお気をつけて」


真っ直ぐ乱戦の最中の戦場へと駆けていくウルスザから飛び降りると、それと同時に、予備の魔導書を展開、視界に映る窮地の騎士達をスキルの標準に充てる。


「対象マルチロック、『風槌』」


まずは騎士達を誤射防止の為に物理的に避難させる。その為に自身の周囲にページを展開、異なる複数のスキルを発動する。


フレンドリーファイアを考慮すると自然と『風槌』を使わざるを得ない。ここから視認可能な5人を標準に合わせ、魔力を解き放つ。


「対象変更、『風霊の荒嵐斧』」


そして邪魔な触手を破壊する為、同時並行で新たなスキルを行使する。魔導書のページから放たれたそれは、先に放たれた『風槌』を一瞬で追い越し触手を易々と粉砕した。


(問題なさそうだな。これで魔法が効かないとかなら、作戦も変えなくてはいけなかったが……杞憂で良かった)


射線の通った『風槌』は騎士達を吹き飛ばし、触手に拘束されていた騎士もウルスザが助け出した。……さて、これで誰かに遠慮する必要はなくなった。


「『飛翔』」


起句を紡ぐと同時に、足に集った魔力が大地に体を留めさせていた重力から解放する。未知の浮遊感に鼓動が高鳴り、表情を緩めそうになるのを何とか堪えて、10メートルほどの高さから戦場を俯瞰する。


まずは俺とウルスザに蹂躙された触手の群れ。大半が原形を留めず肉片と化したが―――


ズブズブズブ………


(うえぇ、再生するのか……)


触手の根元から新たな肉が這い出し、元の形に戻ろうと増殖を始めている。肉片の飛び散るグロテスクな光景が眼下に広がり、思わず顔が引き攣る。


(……まだ完全に再生するには時間が掛かるようだし、後回しにしておこう)


努めて真下に広がる光景を見ないようにしつつ、他の状況を確認する。


無事? に触手の包囲網を突破した騎士達とウルスザはここから少し離れた位置で待機している。出来ればもう少し離れてほしいが……重傷の騎士がいるから下手に動けないか?


「『風霊の癒し』。……さて、その魔導書はこっちのものだから、返してもらうよ? ローズリンデさん」


ページの一枚に回復スキルを宿して飛ばし、騎士の下に送り届ける。これであっちは大丈夫だろう。後は、この騒ぎの元凶にお仕置きするだけか。


「うふふふふふ……あら、貴女は今日連れてきたばかりの子じゃなかったかしらぁ? 牢屋で大人しくしていれば、みんなと幸せに繋がれたのにねぇ」


……何だろう。昼に見た時とは違い、ローズの様子がどこかおかしい。心底楽しそうに笑い続け、口元がだらしなく歪んでしまっている。氷のように冷たかった瞳も、どこかイカれてしまったかのように狂気を宿している。こちらが本性だったりするのだろうか?


「……みんな?」


ふと、ローズの「みんな」という言葉が妙に引っ掛かった。ローズの言葉からして、攫われたという女性たちの事なんだろうが……、そういえば見かけていない。なにせあの大男以外は見張りすらいなかったし、別の隔離部屋にでもいるのかと思ってたんだが……。


「そうよ。さあ、貴女たち。新しい仲間を優しく迎えてやりなさいな」


ローズの合図に呼応して、地面が激しく揺れる。


空中で浮かんでいる俺は城の揺れや騎士達のざわめきからそう判断し、360度全方位に魔導書のページを周囲に展開して、この後に来るであろう脅威に備える。さあ何が来る。ドラゴンか? それともケルベロス? なんでも良いけど、意趣返しの為に一撃で葬ってやろうかな。


「さあお披露目よ、私の愛しいペット。その醜悪な姿と暴虐を以て、その存在を街のみんなに知らしめなさい! カースキマイラ!!」


KyaaaaaAAAAAA!!!


人外の絶叫が街中に響き渡ると同時に、ローズの体が肉塊に呑み込まれるようにして沈み込む。彼女を呑み込んだ後も地面を突き破り、それは姿を現した。


「タコ……いや、色的にはイカなのか? ……どちらにしろ、趣味が悪い」


触手と同じ鈍色の肉塊が、ベイレーン城と同じ高さまでせり上がってくる。タコのように膨らんだ頭部が不気味な咆哮で恐慌を引き起こし、肉塊から新たに生え出した触手が容易く城壁を破壊する。


……どこからどう見ても怪獣だな。うん。


『ふふふふふ。さあカースキマイラ! 手始めにあの餌をお食べなさい。今のあなたには甘露のように甘い筈よぉ』


怪獣の中から、いかなる方法かローズリンデの狂気に満ちた声が聞こえてくる。魔法にはそういう便利なものでもあるのかね? いずれ学んでみたいところだ。


「怪獣退治は勇者の仕事だと思うんだけどねぇ……」


無駄にイケメンな勇者の事を思い浮かべつつ、こちらにも襲い掛かってきた触手の一本をページが『爆雷』で迎撃。


幅1メートル、長さ15メートル近くあった触手の3分の2が爆散し、空を切ったが……駄目か。すぐに新しい触手が生え出してきてしまっている。


(やっぱり再生力を超える破壊をぶつけないと厳しいか。……さて、物理か魔法、どっちの方が効くんだろうな?)


「『詩篇城塞』。使用枚数4、『彗星光条』」


取り敢えず魔法攻撃。前面に展開したページに照射ビーム……もとい「白色に輝く魔力の奔流」の魔法陣を呼び出す。


多少の溜めのいるスキルだが、そうでもしなければ元のゲームでは1f(フレーム)で戦場の端から端まで到達するぶっ壊れ性能で調整不可避だったから仕方がない。


本来なら、仏像の光背みたいにド派手な魔法陣が使用者の背後に展開される。しかし魔導書を経由して使えば、4枚のページそれぞれに小さな魔法陣が展開され、なかなか綺麗な光景になる。……けどちょっと眩しすぎるから光量を落として欲しい。


「ーー薙げ」


カッッッ!!


十二分な魔力供給を受けた4枚のページから、ゲロビーム……もとい「白色に輝く魔力の奔流」が一斉に照射される。


KyaaaaAAAAAA!?


『な、何よそれはっ!?』


放たれた4本のビームは肉塊を容易く貫通し、大きな穴の付近すらその熱量で蒸発させていく。大穴を幾つも穿たれ、苦悶の叫び声とともにのたうち回るカースキマイラは、苦し紛れにこちらを攻撃しようと数本の触手を振るう。


だが『彗星光条』は照射ビーム。一定時間相手を熱量と魔力によって攻撃する以上、射線を動かす事も可能なのだ。夜闇を照らす光条がカースキマイラを灼き切るついでに、迫り来る触手達を軽々と灼き払う。


ドゴォォォオオンッ!!


「あっ! やばっ……」


だがしかし、触手を迎撃した光条の一本が射線上に入っていたベイレーン城を掠め、部分的に崩壊させてしまった。ガラガラガラと崩れていく城を、俺は冷や汗を掻きながら眺めることしか出来ない。


……後で修理費請求されたりしないよね? その時はベイレーン伯爵家にツケといてください。


ooooooooo………


『……貴女。一体何者なのかしら? 単独で最上級魔法を行使して可愛い私のペットをここまで痛めつける人間なんて、あり得ないはずなのだけれど?』


肉塊を5割近く削ったところで、効果を確認する為に一旦照射を止める。焼けた肉の匂いが中空で浮遊する俺の元にまで漂ってくるが……あんまり気分の良い匂いじゃないな。


そしてローズが何か言ってるけど、可愛いかどうかは横に置いておこう。人の好みにケチをつけたって、……良いことは何も起こらないのだから。


「魔導師、アーデフェルト。別に普通の人間だから、そう悩むことでもない」


『普通、ね……。ふふ、ふふふふふあははははは! 今のは流石に肝が冷えたけれど、これ位の損傷ならこの子たちの力だけで十分回復できるもの。それが切り札だったのなら、私達の勝ちね』


……この子たち? 私達?


ローズリンデの話の端々に、不可解な言葉が混じる。「私達」がローズと怪獣のことを言うのならば正しいかもしれないが、ならば「この子たち」とは一体どういう意味だ?


今ローズ側で立っているのはカースキマイラを除けば、結構離れた場所で醜悪な笑みを浮かべて傍観している太った貴族しかいない。腰に細剣を佩いてはいるが、戦闘に参加する様子は微塵も見られない。


(なら、あの化け物はモンスターを合体させて造った合成獣キマイラってことか? ……仮にそうだとしても、大した脅威にはならな……え?)


ローズがカースキマイラと呼んだ怪獣のステータスを覗き見る。彼女のセリフが気になって調べることにしたのだが、ーーそれを理解することを暫く脳が拒絶した。


アンデュ、15歳

Lv.7


カルディー、27歳

Lv.19

職業・財務部職員


プラサ、8歳

Lv.3




「………………は?」


絶句して固まった俺の眼下に、怪物のステータスを示している筈の無数のウィンドウが際限なく広がっていく。表示されるのは、聞き覚えのない名前とその年齢、そして城で働く者の職業のみ。


初めは表示がバグったのかと思ったが、よく考えたら現実でバグなんてあり得ない……のか? まあ今それを考える暇はない。問題なのは、ステータス表示がバグっていない場合。


「嘘、だろ……?」


最悪の推測が頭の中で首を擡げる。握り締めた拳を手汗がじっとりと濡らし、今まで経験した事のない冷たい冷や汗が背中をつぅ…、と流れる。


「………あ」


『彗星光条』に灼き払われた肉塊の、焦げて白い煙を上げる断面。そこから新たな肉の材料として這い出してくるそれは、ーー人の顔をしていた。


タス、ケテ……。タス、ケテ……。タス、ケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテヤメテタスケテタスケテタスケテタスケヤメテテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタヤメテスケテタスケテタスケテタヤメテスケテタスケテタスケテ………


肉塊から顔を出した人の頭の形をした何かが、呪いのような怨嗟の声で頭を揺さぶる。助けを求める懇願の筈なのに、俺を呪い殺そうと降り掛かってくる。


「っぁ……!!?」


込み上げてきた吐き気を堪え切った自身を褒めてやりたい。奥歯を食いしばり、呪詛のように気を狂わせる怪物の嘆願を捻じ伏せる。


『あはははは!! どう? 理解した? この子たちは私の研究の成果。元はお遊びで壊れた玩具が勿体無かったから始めた事なのだけれど……、これのお陰で王子様に目を付けて貰ったのだから、感謝しなくてはならないわねぇ』


怨嗟と慟哭の叫び声を上げる怪物ーー人族のキマイラの中から、場違いに楽しそうで、イカれた声がここまで届く。……ああ。最早生かしておく価値すら、無い。


「辞世の句はそれだけか? ローズリンデ=ベイレーン」


口調をなるべく男と悟らせないよう控えていたが、そんなくだらない自分ルールは、もうどうでも良くなった。今までの口調をかなぐり捨て、体から溢れるがままに魔力を放出する。


『ふふふ……、あら? 貴女はみんなと一緒になりたくないの? 誰も欠けることなく、幸せのままに繋がり合えるのに?』


何が幸せだ。テメェの頭はお花畑なのか。


そう言い掛けた時、表に出ては中へと消えていくウィンドウを見、クズの言葉からとある事に気がついて口を閉ざした。


「……それ、貴女が使い潰した人達の事を全員・・使ってるということだよな?」


『ふふふ? そうよ。最初の人からお昼に集めた城の使用人まで全ての玩具が集まってこの子を形作っているの。ほら、貴女も私達と一緒になりましょう?』


……ああ。良い情報を聞けて良かったよ。だからお前の言う通り、飛び込んでやるさ。


「『詩篇城塞』、『覇王物語』」


宙に浮かぶページの半数が、この世界の最高位の防御すら容易く撃ち破る鋭意な矢となり、半数が主を守る最強の護りとなる。


「征け」


俺の端的な号令に従い、ページの矢は肉塊に殺到する。まるで獣に襲い掛かる蜂のようだが、その蹂躙具合は遥かに桁が違う。肉塊の表面が爆撃を受けたかのように派手な血飛沫を上げた。


『うふふふふふふ。無駄な足掻きをしないで大人しく入りなさいな。ほら、カースキマイラ、あの子を迎え入れてあげなさい』


やがて『覇王物語』によって穿たれた穴は、人ひとりーー俺の小さな体が入り込める程度の大きさにまで広がった。よし、行くか。


『詩篇城塞』で自身の周囲の防備を固め、ギリギリ通れる程度にまで広がった穴の中へと飛び込む。


肉の触手や人の腕の形をした何かが俺を捕まえようとするのを、展開したページがしっかり弾き返すのを確認して、ひとり頷く。


(これなら俺は捜索に力を注ぐことが出来るな。さて、ローズリンデの言が本当なら……)


これを破壊する前に一つだけやりたい事が出来た。それは単なる自己満足であり、良い迷惑かも知れない。対象が人の形を保っていないかもしれない。だけど、


(酸素が無くなる前に見つけ出さないとな。待ってろよ。ーーリリィさん)


俺と瓜二つだという少女を探し出す為、俺は肉の洞窟の最深部へと降りていった。

(●ω●)「大火力魔法職vs怪獣大決戦ってやっぱ映えるよね」


ケイ「しっかり描写出来てるかは微妙だけどな」


(●ω|「………………」


ケ「そんな目で見ても描写力と筆の遅さは改善されんぞ」




猟奇描写の警告をしない筆者の屑。


ネタバレになりかねなかったので……申し訳ございません。

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