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怠惰な魔本使いの見聞  作者: 炬燵天秤
第2章 白髪緋眼の魔本使いと呪いの狂宴
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25話目 重鎮達の憂鬱

アーデの与り知らぬところで進む物語。しかし彼女()はその特異性から必然的に巻き込まれることになるのでしょうね。


……巻き込んだ者達が無事でいられるかは知りませんが。



では、どうぞ。

__________________



ーーベイレーン城に正体不明の魔物が出現。


その報せを受けた、ベイレーン守備隊及び冒険者ギルド・治癒士ギルド・盗賊ギルドによる連合がいち早く駆け付けることによって、ベイレーン城城外に防衛線が敷かれていた。


何が起きても街の方にまで至らないよう、城を扇央として扇状に敷かれた防衛線の中に含まれるヤグート子爵の邸宅に、各組織のトップが集まる作戦司令部が置かれている。


「で、偵察以上の行為が許されないのはどういう事ですか? ザリフ様」


紛糾と沈黙が幾度となく繰り返される会議の最中、冒険者ギルドのトップ、ガンディールが苛立ったように口を開いた。ちなみにこの言葉、会議が始まってから五度も繰り返している。


「どうもこうもない。下手に動けば防衛線に穴が開く。それによって街にまで被害が及んでは元も子もないではないか」


それに答えたのは、高そうな甲冑を身に纏った70ぐらいの老人。冒険者ギルドと治癒士ギルドに支援を行う、実質二つの組織のトップであるザリフ子爵だ。


「であればこそ! 堅固な城を利用して防衛、殲滅を行うべきではないですか! 今は散発的にゾンビが出てきているだけですが、あの魔物が本格的に動き出せばどれほどの被害になるのか分からんのですよ!?」


緊迫した雰囲気の陣内では、眉間に皺を寄せたトップ達による腹の探り合い……ではなく作戦会議が行われていた。実際は先程から進行が滞ってしまっている為に、あまり有益な時間にはなっていない。


「ですがガンディール殿。公爵閣下の安否すら不明の中、下手に動きいたずらに被害を出しては無駄骨になります。それではいくら緊急召集を掛けられるギルドと雖も無茶が過ぎるでしょう」


「ベラル君の言う通りだ。私の部下達を情報の少ない中突撃させることなど到底出来ん。それは君も同じことだろう? ガンディール冒険者ギルド長」


そう消極的な声を上げたのは、神官服に身を包む優男風の若い男性と、守備隊で統一された騎士鎧を着る、子供が見れば泣き出してしまいそうな厳しい顔の大男だった。


若い男性が、病床に臥している治癒士ギルド長の代理を務めるベラルであり、もう一方の強面の男性が街の防衛を行う領軍の一部を担う守備隊の長、ヤグート子爵である。


「それは……そう、ですが……」


ガンディールは苦い顔で言葉を詰まらせる。彼もそれが今の現状に悪影響を与えてしまうことを理解してはいるのだ。


散発的なゾンビの襲撃に対処する度、多くはないが怪我を負う者も出てくる。今は治癒士ギルドの援助で問題なく回っているが、これ以上の被害が出ればそれも厳しくなるかもしれない。


そうでなくても人の保有する魔力には限りがある。手一杯の現状を打開する具体的な策も無しに、無駄な負傷者を出されては本当に必要な時に治療出来なくなってしまう。


そして防衛線を敷く主戦力は守備隊である。冒険者ギルドもランクD以上の戦力を召集し参加させてはいるが、ランクDは守備隊の練度に劣り、ランクC以上は守備隊と互角以上の戦力ではあるが数が少ない。ランクAともなれば、ガンディールとランクB相当のパーティーに一人いるだけだ。


作戦上の要である二つの組織から言われてはガンディールも強く出ることなど出来なかった。悔しそうに顔を歪めて自身の椅子に腰を落とした。


と、そのタイミングで守備隊の軽鎧を着た兵士が会議室の扉を開けて入ってきた。


「伝令! 報告します! 薬剤師ギルドから上級ポーション10本、中級ポーション50本、下級ポーション多数が支援物資として届けられました」


「上級回復薬10本!? ……それはまた、オーリアス殿もそれだけこの戦いが重要だと考えているのか……」


上級ポーション10本といえば、それだけで軽く邸宅が買えてしまうほどの価値がある。そんな高価な代物を無償で提供するとなれば、その選択に相当の利益を見込めるのか、それともあの魔物がそれだけ危険な存在であるのか。


それぞれが顔を見合わせる中、更に続けて軽装の男が入ってくる。会議室にいた数名が僅かに腰を上げたが、その腕に付けた腕章を見て再び腰を下ろした。


男が腕に巻いた腕章は、男が盗賊ギルドの所属である事を示す目印だった。


今回の緊急事態に参加した盗賊ギルドだが、代表を寄こさず裏方の仕事を続けていた。盗賊ギルドが保有する優秀な諜報力で高い精度の情報を集める事が出来るのは、他の組織にとってありがたいことだったが、若干の薄気味悪さは隠せない。


ギルドのトップはサベレージ国王直々に任命されるので、国の不利益になるような事はしないとは思われるが、それぞれの組織は適度に距離を置いて接していた。


「報告。まずは……そうですね。イルデイン=ヨークスコーツ公爵閣下がお戻りになられました。公爵様自身と隊長格の騎士5名が軽傷、一名が気を失っている模様ですね。あとは捕まっていたと思われる女性が一人いますね」


「おお! 閣下は無事だったか! 流石は剣帝様」


「ええ。これで王国最強戦力が戦死したとなれば、我々も早々に避難を始めなければいけませんでしたからね」


その言葉を聞いた各々は、露骨に反応が異なっていた。即ちガンディールとベラルは安堵の表情を、ヤグートとザリフは気まずそうな顔で少しだけ目線を逸らした。


伝令の男はチラリとその表情を盗み見ると、そのまま報告を続けた。


「えーと、報告続けます。城を占拠してる魔物ですが、かなり強力な再生能力を保有していると思われます。斬撃及び魔法による触腕の破壊を観測しましたが、何れも僅かな時間で再生していました。純粋に破壊するだけでは無限に再生すると思われます。……以上」


想像以上に凶悪な能力を保有していた事に場が騒めく、物理も魔法も効き難いとなれば、厳しい戦いになるのは避けられない。


「ふむ、その魔物は今何をしているのかね。力を蓄えている最中となれば早急に叩かなくてはならないだろう」


ガンディールが今にも飛び出しそうになるのをベラルが諌めている。それはスルーした男だったが、初めて無表情を崩し、どう答えを返そうか悩む素振りを見せた。


「うーん、これは信じてもらえるんですかねぇ……」


「どうしたんだね? 何か不都合でも?」


男の素振りを疑問に思ったザリフが問い掛ける。そこでようやく決心が固まった男は再び口を開く。


「そういうわけではないですよ。現在も魔物は街に向けて侵攻中です。……しかし、今はたった一人の騎士が足止めしているんですよ」


「なに? 一人だと……」


俄かには信じられない話に四人は首を傾げる。未だに本体を見ていない彼らだったが、王国騎士団が壊滅し、剣帝と謳われる王国最高の騎士が退かねばならない相手だ。凡そ一人で相手することが出来るとは、到底思えない。


「他国からSランク冒険者でも来ていたのか? 誰が戦っていたのか、お前は分かるか?」


その言に男は少し考えている風に視線を落とし、やがて諦めたかのように頭を上げた。


「黒甲冑を着ていた所為で誰かは分からないですね。けれど種族はケンタウロス族でした。馬上槍を携えた黒騎士の人馬族が魔物の侵攻を食い止めている状況です」


「ケンタウロス族が……? 街に入ったという報告など聞いていないぞ……」


街の出入りを管理しているヤグート子爵が、面喰らったように呟いた。人語を介する個体もいるとはいえ、未だに魔物として扱われている種族。街に入るとなれば必然的に上層部にまで報告が届く手筈になっているのだ。


「そこまでは俺にも分かりませんね。ではそろそろお暇させてもらいます。公爵閣下もそろそろここに到着しますから、出迎えに行ってはどうです?」


「待て、まだ話は……」


制止の声を待たず盗賊ギルドの男は姿を消した。静寂が戻った会議室に残された各組織の重鎮達が周りの出方を窺う中、最初に席を立ったのはやはりガンディールだった。


「こうしてただ座って待っているわけにもいきません。俺は先に閣下を迎えに行ってきます。それでは失礼します!」


最後まで言い切らぬ内に、ガンディールは会議室を飛び出してしまった。引き止めようとした手が空を切る羽目になったベラルは、諦めたように苦笑して腰を上げた。


「ガンディール殿……。ああ、もう。彼の真っ直ぐな性格は本来褒められるべきことなのでしょうが、もう少しだけ周りにも配慮してもらいたいところです」


「仕方あるまい。あやつは昔からそうだった。ベラル君、ついて行ってやってくれないか? ここには我々が待機しておくよ」


「は。それでは失礼します!」


ザリフもその顔に笑みを滲ませて頷く。ベラルは小さく一礼して部屋を出ると、ガンディールに追いつく為に駆け足で走り去って行くのだった。


「……さて。閣下が生きて戻ってきたということは、ゴープと小娘の計画は失敗したと見ていいだろうな」


「それどころか、魔物を街の中に呼び寄せた行為は到底許されるものではない。閣下一人を暗殺する為に、この街を滅ぼしては意味がない。……あの王子でも流石にここまでやれとは言っておらんのではないか?」


貴族である二人に一礼したベラルが会議室を後にしたことで残った二人は、焦燥と諦念の両方を顔に浮かべ、お互いの腹の中を探り合う。


王位継承権を捨て臣下へと身を落としたイルデインだったが、剣帝としての彼の人気と功績、そして国王からの信頼の厚さは候補者にとって無視出来ないものだ。


それ故に彼の支援を受けることが出来れば、他の候補者に大きく差を付けられる。それを阻止する為に、剣帝という切り札(ジョーカー)を消して不条理な逆転劇を潰そうとしたのが、ザリフとヤグートが支援していた第3王子である。


だが、計画はこのままでは失敗に終わることになる。それを理解している二人ではあったが、今の予断を許さない状況下ではこれ以上手を加える事も不可能だ。


「ふぅ……。結局のところ、城に居座っている魔物が倒されんことには何も出来ん。ケンタウロスの黒騎士とやらが魔物を打倒してくれるのを願うしか、……なさそうだな」


「ははは。不死の怪物を打倒する者が現れれば、それこそ英雄になるだろうよ。剣帝を打倒するよりよっぽど加点されるに決まってる。……はぁ」


この騒ぎが収まった後に起こるであろう騒動を幻視した二人は、頭を痛そうに抱える事しか出来ないのだった。



(●ω●)「ふふふ、これでアーデが王座を巡る争いに巻き込まれる事は確定したな」


ケイ「だが第3章・第4章のプロットはもう決まってるんだろう? それまで話の構成を覚えてられるのか?」


(●ω|「………………」

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