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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第二章 リーファリアへの道編

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070 黒炎の巨影と裸の王女

 ――地下三十三階。


 地下三十一階から探索を開始し、前回インキュバスの〈催淫〉を受けて撤退した階層までたどり着いた。だが今回は、銀の指輪によって〈催淫〉を無効化できたため、何の問題もなく進行できている。

 リンファは正拳突き一撃で魔物を粉砕し、エルマは杖に装着した水+9の宝石の効果で、さらに威力を増した〈水弾(アクアショット)〉を放って魔物を撃ち抜く。

 罠の発見と解除はすべてリンファの担当であり、〈気配察知〉によって近づく敵もすぐに察知してくれる。

 この階層程度の魔物なら、リンファとエルマの二人で十分に対応でき、ヒカルが危険にさらされることもない。だが、〈剣術[2]〉のヒカルにとっては、この階層の敵は少々荷が重いようだった。

 もともとリンファとエルマのおかげで成り立っていたチームではあるが、今回の強化で実力差はさらに顕著になってしまった。


 〈黎花(れいか)の翼〉としての目標は、この階層の宝箱から宝石を集め、〈催淫無効の指輪〉を二つ購入することだった。しかし一個百万Gもするそれを買うより、この調子なら自力で取りに行ったほうが早い。

 問題はヒカルだけが戦闘面で遅れを取っていることだ。……そろそろこちらから「スキルを渡す」と伝えるべきだろうか。判断に迷う。



 ――地下四十階。


 その日のうちに、俺たちはボス部屋の前に到達していた。


「今の戦力なら問題なく倒せると思うけど、どうする?」


 俺は〈黎花(れいか)の翼〉の面々に判断を委ねた。

 するとリンファとエルマがそれぞれ答える。


「やりましょう。問題ありません」

「あたしも大丈夫。ボスを倒そう!」


 ただ、ヒカルだけは沈黙していた。


「ヒカルも大丈夫か?」


「わ、私は……ついていくだけだから……」


 自分に発言権はないと思っているのだろう。やはり、このままではよくない。



 ボス部屋の扉を押し開けると、そこは高い天井と黒く煤けた壁と床に囲まれた空間だった。

 中央には巨大な魔法陣が刻まれ、その周囲でインプ四体、リトルデーモン四体、インキュバス四体、サキュバス四体が膝をついている。


「“バルログ”がいないな」


 エルセリオン地下迷宮・地下四十階のボス“バルログ”――

 高さ六メートルを超える巨体に、黒炎の翼を背負う上級悪魔である。


 俺たちが魔法陣に近づいた瞬間、床が赤熱し、轟音とともに地面が裂けた。

 炎の奔流の中から、黒き影が立ち上がる。


 全身を焦げた岩の鎧に覆い、背には赤く燃えたぎる蝙蝠の翼。

 頭には二本の捻れた角。

 右手には炎を纏う大剣、左手には棘だらけの鞭を握っていた。


「でかいな……だが、それだけだ。どうする? 取り巻きに欲しい素材もないし、ボスだけ倒すか?」


「じゃあ、あたしがやるよ」


 エルマが一歩、前へ出た。


「じゃ、さっさと行くよ! 第七階梯氷魔法〈氷矢雨(グレイシャルレイン)〉!」


 無数の氷の矢が空間を埋め尽くし、取り巻きの魔物たちを貫く。

 本来なら一撃の威力は低いが、宝石とスキルで強化されたエルマの魔法は桁違いだった。わずか数秒で、魔法陣の周囲に残ったのはバルログただ一体。


「炎の悪魔だから、氷が効くと思ったけど……溶けるとはね」


 バルログの体表で、氷の矢は刺さるそばから蒸発していく。


「じゃ、次は――〈水爆(アクアバースト)〉! 〈風爆(サイクロンブラスト)〉! 〈石爆(ロックバースト)〉! 〈氷爆(アイスバースト)〉!」


「ああ、エルマ、そこまでだ。もう倒してる」


 エルマの第六階梯魔法連撃によって、バルログはあっさり沈んだ。どの魔法がとどめだったのかすら分からない。

 巨大な死体はやがて光に包まれ、宝箱へと変わる。


「じゃ、今日はここまでだな。地上に戻ろう」


 俺たちはボス部屋の奥にあるワープポータルを使い、地上へと帰還した。



 冒険者ギルドで不要なドロップ品を売却し、屋敷に戻ると、玄関先にミリアが立っていた。


「ヒカルー! 私も〈黎花(れいか)の翼〉に入れてー!」


 なんと、ミリアは騎士団を辞めてきたという。


 その日、嫌な先輩たちとの試合で、いつもは一方的に負けていたミリアが、今度は逆に圧勝したらしい。勢いそのままに次々と先輩たちを倒し、最後には騎士団長までも打ち負かしたというのだ。

 これまで自分を見下していた連中が手のひらを返す様子を見て、急に冷めてしまったらしい。止めようとした団長の言葉も聞かず、宿舎を引き払い、荷物はすべて〈アイテムボックスS〉に収納してきたという。なかなかアグレッシブだ。


「ミリア。〈黎花(れいか)の翼〉に入るということは、俺のクラン《万紫千紅》に所属することになる。それでもいいか?」


「ぜひ! 私を仲間に入れてください!」


 全員が賛成し、翌日正式な登録を行うことになった。



 ミリアに部屋を与え、荷物を整理してもらっている間に、エルマは夕食の準備を始め、リンファは家具の搬入を手伝いに向かった。

 リビングには俺とエリュシア、ヒカルだけが残る。


「あ、そうだヒカル。この前キヨシの身体を調べていて気づいたんだが、あいつには“魔力器官”という、元の世界には存在しない臓器があった。ヒカルにもあるか、調べさせてもらっていいか?」


「え……いいけど……少し恥ずかしいんだけど」


「ああ、すぐ終わる。座ったままでいい」


 俺はヒカルの腹部に手を当て、魔力の流れを探った。――やはり、彼女にも“魔力器官”が存在している。


「やはりあったな。……となると、ヒカルの身体は日本にいた頃のものとは違うのか?」


「そうなのかな……。小さい頃、大きな怪我をして太ももに傷があったはずなのに、今は消えてるの。回復魔法を受けた記憶もないから、最初から傷がなかったみたいで……記憶違いかと思ってたんだけど」


 傷が消えている――つまり、この身体はこの世界で“再構築されたもの”なのだろうか。

 あの召喚魔法陣は、魂だけを呼び出し、この世界で作った肉体と融合させるもの……そう考えれば、天空人との融合にも使えた理由が説明できる。


「まあ、たとえ元の身体じゃなかったとしても、今さらどうこう言うことでもないな」


「そうね。私たちは現にこうして生きてるんだし」


 気になるが、今はそれ以上の詮索をやめた。機会があったら調べてみよう。



 夕食を終え、風呂の順番になる。

 ヒカルはいつも一人で入っていたが、今夜はミリアと一緒に入るようだった。二人は本当に仲が良い。

 その後、リンファ、エルマ、エリュシアが続き、最後に俺が入った。


 風呂を上がり、自室で休んでいると、エルマが顔を出した。今夜は彼女の番だ。


「アレス、リンファに聞いたよ。リンファの魔力保有量、倍にしたんだって? あたしも倍にしてよ!」


「え!? あれ、一晩でやると、かなり大変だぞ? 本当にやる?」


 エルマは自分もやると言ってきかなかったので、リンファと同じように〈絶倫〉を渡して始めたのだが、


「ごめん、アレス……もう無理。これ以上は無理」


 と途中でギブアップした。仕方ないので、


「じゃあ、残りは〈強制終了フォースドターミネーション〉で」


「あ、アレス! 無理って! 無理って言ってるでしょ!」


 翌朝、エルマの魔力量は見事に倍になっていたが、かなり膨れられた。



 朝食を終え、全員で冒険者ギルドへ向かう。

 ミリアの冒険者登録と、〈黎花(れいか)の翼〉への加入手続きのためだ。

 俺の出番はないので、掲示板の依頼を眺めていると、妙な張り紙が目に入った。


「王都を裸で走り回る女の捕縛……?」


「ああ、それ最近話題の事件ですよ」


 近くの職員が教えてくれた。

 夜になると突然、裸の女が街中に現れ、逃げ回るという。俊敏で屋根を跳び移るほどの脚力があり、捕獲は難航しているらしい。


「しかも、その女、見た目が王女殿下にそっくりなんです」


 騎士団も調査したが、同時間に王女は城内にいたことが確認されているため、本人ではないという。

 昨夜、裸の女は城門を越えて王都の外へ姿を消したらしい。


「少し前までは魔物騒ぎだったんですけどね。最近は落ち着いたみたいです」


 以前、王都内に巨大な“目玉”の魔物が出たという話もあったそうだ。

 目撃者はびっくりして腰を抜かしたが、すぐに掻き消えたため、実際に魔物だったのかは不明だという。


「アレス、その依頼、受けるの?」とエリュシア。


「いや、実害が出てないしな。優先はダンジョン攻略だ」


 俺たちの当面の目的は、ダンジョンを踏破しリーファリア王国へ向かうこと。今は寄り道をしている場合ではない。


「アレスさん、登録終わりましたー!」


 ミリアの声に振り向き、俺たちは再びダンジョンへと向かうのだった。

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