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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第二章 リーファリアへの道編

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068 黒き欲望と蒼の復讐

 屋敷を飛び出した俺は、〈気配察知〉が示す方向に視線を向ける。

 月の青白い光が、近くの貴族屋敷の屋根に立つ二つの影を照らしていた。


 ひとりは、スキンヘッドの男。

 白い僧衣に黒帯を締め、引き締まった筋肉が月光を鈍く反射している武僧(モンク)――あれがキヨシだろう。その眼は炎のようにぎらつき、どこか狂気めいた静けさを宿していた。


 もうひとりは、騎士ミリア。

 淡い青髪が夜風に揺れ、手首と足首のあたりが透明化している。〈部分収納(パーシャルストレージ)〉によって、空中で両手を上に、両足をM字に開いた格好で拘束されていた。


 ミリアは唇を噛み、必死に抗おうとしている。しかし手足はまったく動かせない。時折、叫んでいるように見えるが、声がこちらに届かないのは、キヨシが〈空間規制スペースレギュレイション〉で防音しているからだろう。


 ミリアの指にあったはずの〈催淫無効の指輪〉は外され、すでに〈催淫〉スキルを受けてしまっているようだ。

 それでも、まだ手を出される前だったことが唯一の救いだった。


 俺は即座にキヨシの背後へ〈空間転移(テレポート)〉し、手刀で首を狙った――しかし、軽くかわされた。


「ほう。俺以外に〈空間転移(テレポート)〉できる奴がいるとはな。だが、人が楽しもうとしてるところを邪魔するのは感心しねぇな。少しおとなしくしてりゃ、あとでお前にもヤらせてやったのによ。よく見てみろ、こいつの装備。ここんとこずらすだけでヤれるんだぜ? 絶対そういうふうに考えて作った装備だよな?」


 そう言ったかと思うと、キヨシの姿が掻き消えた。


 (〈空間転移(テレポート)〉か!)


 俺も反射的に別の位置へ〈空間転移(テレポート)〉する。直後、さっきまで俺がいた場所を、キヨシの回し蹴りが風を裂いて通り過ぎた。


「くそっ、なにもわからねぇうちに殺してやろうと思ったのによ。まあいい。ここで時間をかけるわけにもいかねぇし、その女はついでだった。お前にくれてやるよ。俺はメインディッシュのほうへ行くぜ」


 そう言い残して、キヨシは再び姿を消した。

 〈気配察知〉で確認すると、〈黎花(れいか)の翼〉がいる屋敷――俺たちの屋敷の方向へ向かっている。だが、ミリアを放置するわけにはいかない。


「ミリア、大丈夫か!?」


 頬を赤らめ、うつろな目で荒い息を繰り返している。以前、リンファやエルマがインキュバスに〈催淫〉を受けたときと同じだが、スキルレベル5と8の差か、ミリアのほうが症状が重い。


「くそっ、他人の〈部分収納(パーシャルストレージ)〉の解除方法がわからない……」


 キヨシの〈部分収納(パーシャルストレージ)〉に取り込まれているミリアの四肢の一部は、キヨシの亜空間に取り込まれているはずだ。それを取り出さなければならない――だが、今持っている魔法にそんなものはない。


「……この透明になった部分から、キヨシの亜空間にアクセスできないか?」


 時間がない。やってみるしかない。


「――独自魔法、第三階梯空間魔法〈収納吐出(ストレージパージ)〉!」


 ミリアの透明だった手首と足首が光を放ち、次の瞬間、失われていた部分が亜空間から戻ってきた。


「おっと!」


 同時に〈部分収納(パーシャルストレージ)〉が解除され、空中で拘束が解けたミリアが落下する。

 俺は彼女を抱きとめ、お姫様抱っこのまま屋敷へ向かって走った。


 屋敷にたどり着くと、キヨシがちょうど中へ入るところだった。


「しつこいな。そこでおとなしくしてろ――〈空架障壁(スペースシールド)〉」


 屋敷の入口に透明な壁が展開された。


「くそ、別の侵入経路は……!」


 視線を走らせると、二階のバルコニーが見えた。

 俺は〈空架障壁(スペースシールド)〉を階段状に展開して駆け上がり、二階の窓から屋敷へ侵入する。そこにはちょうどベッドがあり、ミリアをそっと寝かせた。


「ミリア、少しだけ待っててくれ。キヨシをどうにかしてくる」


 声が届いていないかもしれない。それでもそう告げ、俺は一階へ向かう。


 一階のロビーに行くと、そこにキヨシはいた。


「しつこいな、お前。まあいい。〈気配察知〉で他に四人隠れてるのはわかっている。この気配……ヒカルと、あのいけすかないメイドと……なんで食堂のおばちゃんまでいるんだ? もう一人は知らんが、まあいい。出てこい。殺るかヤるかは見てから決める」


 暗がりから四つの影が現れる。月光に照らされたのは――上半身裸で腰に布を巻いただけの四人の男たちだった。


「はあ!? 男だと!?」


 ヒカル、リンファ、エルマ、エリュシア。四人は〈性別変更(ジェンダーシフト)〉で男性化していた。

 〈催淫〉は異性にしか効果がない。つまり、キヨシの〈催淫〉は不発だ。


「〈性別変更(ジェンダーシフト)〉!」


 ヒカルが叫ぶと、キヨシの身体が女性へと変わった。


「な、なにをする気だ!?」


 狼狽するキヨシに、ヒカルが畳みかける。


「〈感度調整センシティビティコントロール〉1440倍! 〈強制終了フォースドターミネーション〉!」


 瞬間、キヨシの身体が跳ね上がり、絶叫とともに崩れ落ちる。

 レベル7相当の快楽だ。通常のヒューマンなら、この一撃で動けなくなる。


「じゃあ、これつけてもらうよ。それと――〈部分収納(パーシャルストレージ)〉!」


 エルマが〈魔封じの腕輪〉を装着し、〈部分収納(パーシャルストレージ)〉でキヨシを空中に拘束する。奇しくも、先ほどミリアがされたのと同じ格好だった。


 ここまでは作戦通り。あとは――


「リンファ、本当にやるのか?」


「ええ。私の妹は、こいつに襲われて自殺しました。こいつだけは……絶対に許せない」


「……そうか。わかった」


 俺は二つの指輪をリンファに渡している。

 一つは〈スキル・称号奪取(性)〉を含む、以下の〈バッチ処理〉魔法陣が付与されている。


 ①奪うスキルを選択し、〈スキル・称号奪取(性)〉発動。

 ②〈脳状態保存(ブレインバックアップ)〉で相手の脳状態を保存。

 ③〈強制終了フォースドターミネーション〉を二人にかけてスキル奪取。

 ④〈脳状態復元(ブレインリストア)〉で相手の脳状態を復元。

 ⑤〈精力回復(スタミナリカバリー)〉を二人にかけて精力回復。


 もう一つの指輪はこれの〈スキル複製(性)〉版――双方向にスキルを複製できるよう調整してある。


 俺はリンファに、もしスキルを奪うのであれば、まず〈強靭〉をキヨシに複製し、最後に〈身体強化[8]〉を奪うよう指示した。

 スキルレベル10の奪取は通常の人間なら即死もあり得る。少しでも生存の可能性を残すためだ。

 万一のときは〈念話〉で呼んでもらうことになっている。最悪、独自魔法・第七階梯回復魔法〈心肺蘇生(リサシテーション)〉を使うしかない。


 これから、男性化したリンファが女性化したキヨシのスキルをすべて奪う。

 相手が死んでも構わない――その覚悟で。



 俺たちはリンファとキヨシを残し、部屋を出た。


 リビングでは、ヒカル、エルマ、エリュシアが女性に戻る。

 彼女たちは上半身裸だったので、俺は視線をそらした。男性化した際、女性用の服は体格差で破ける危険があるため、あえて布一枚の簡易装備にしていたのだ。

 ようやく全員が着替え終わり、俺も顔を上げる。――だが、何かを忘れている気がした。


「あっ! ミリアどうしよう! キヨシに〈催淫〉をかけられてたんだった!」


 するとエルマが答える。


「アレスが解消してあげて! ついでに、しっかり強化してやって!」


 聞けば、ミリアは俺と初めて会った日、俺に一目ぼれしていたらしい。あの日、それをヒカルに相談していたという。


 ……そういうことなら、全力でやってやろう。

 どうにかしてやりたいと思っていたことだし。


 俺はミリアのもとへ戻り、〈催淫〉の解除と同時にスキルを強化した。



 ミリア・アズール ヒューマン 十九歳

 エルセリオン王国騎士団 騎士


 所持スキル:

  回復魔法[8] ※NEW

  生活魔法[8] ↑UP

  空間魔法[8] ※NEW

  剣術[8] ↑UP

  盾術[8] ↑UP

  挑発[8] ※NEW

  威圧[8] ※NEW

  身体強化[8] ※NEW

  気配察知[8] ※NEW

  気配遮断[8] ※NEW

  鑑定[8] ※NEW

  美容[8] ※NEW

  騎馬[8] ↑UP

  全スキル経験値アップS ※NEW

  アイテムボックスS ※NEW

  無詠唱 ※NEW

  強靭 ※NEW

  念話 ※NEW

  魔力常時回復 ※NEW



 盾を持つ騎士でもある彼女には、タンク運用を意識したスキル構成にした。

 とはいえ、これだけあれば前衛のスペシャリストとしても十分だ。

 特に〈空間転移(テレポート)〉や〈部分収納(パーシャルストレージ)〉を使える空間魔法は、近接戦闘職にとってこの上ない強力な補助になる。


 強化を終えると、ミリアは安らかな寝息を立て始めた。

 キヨシとの遭遇で心身ともに疲れ果てたのだろう。

 俺はそっと布団を掛け、音を立てぬよう部屋を出た。


 そのとき――リンファから『終わりました』と〈念話〉が届いた。

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