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桜花のゆめ  作者: さえ
9/24

9会食

 東国の王邸には大広間があり、優に百人は超える客人を迎えることができる。

 築年数はかなり経っているだろうが、改築を繰り返し豪奢な今風の作りになっている。

 上座からよく見渡せるように長く白いテーブルが並ぶ。テーブルの上には東国の郷土料理が運ばれる予定だ。

 大広間と同じ階には控え室がたくさん用意されている。その一室でラナは、今までにないくらい緊張していた。

 「しないでくださいって方が無理なんでしょうけど、イリュー様もいるんですし、落ち着いてくださいね」

 マールがラナが着替えた後の着物を手際よく片付けている。

 シアから正装は動きにくいだろうから、もう少し身軽でいいと言われ、花国での会食でよく着る着物に着替えた。

 (だいぶ呼吸しやすくなった…何より動きやすい)

 扉がノックされる。

 「失礼します。時間だそうです」

 「イリュー?」

 入室してきたイリューは、ラナと同じ濃紺の着物に着替えていた。

 銀髪が着物に映えて、見惚れるほどかっこよかった。ラナは少しの間言葉が出なかった。

 「今日はラナの付き添いをさせていただくので、着替えました」

 「すごく似合ってる」

 「ラナ様のお着物と合わせていて、とってもいいですね!夫婦?婚約者同士?みたいですよ」

 イリューと婚約者同士なんて、本当にそうだったら照れるけど、今日はそう思わせてもらえたら心強い。

 「では、ラナ、手を」

 イリューはラナの手を自分の右腕にかける。

 「今日はラナの付き添いですので」

 いたずらっぽく笑うイリューを見て、緊張していたはずのラナは楽しくなってきた。

 大広間へ向かう廊下には管弦楽の繊細な音楽が聞こえてくる。目の前にある大広間の開け放たれている扉まであと少し。

 「大丈夫です」

 イリューが腕にあるラナの手に手を重ねてきた。

 「東国の新しい夢見、ラナ・メルザ様です!」

 よく通る声で紹介された途端、大広間にあるたくさんの人の目がラナに集まる。

 ラナはイリューの腕を掴む手に少し力を込め、一歩ずつしっかり歩いていく。

 ……大したこと…

 国費を使って……なの

 …何、あの軽装…

 地味な…

 …夢見なんて…

 管弦楽の演奏の合間合間に途切れるように聞こえてくる言葉が、嫌でもラナの耳に届く。

 …ちょっと、隣は誰なの…護?

 顔、良すぎない…え

 …銀髪って珍しい…

 「わかってはいたけど、なかなかあからさまだなぁ」

 ラナはイリューに顔を向けて無理して笑って見せる。

 「みんな、夢見の力とラナの美しさを妬んでるんですよ、絶対に手に入らないから」

 「イリューは褒められてるよ、かっこいいって」

 「ああいう外見だけ見ていう人の言葉からは何も感じませんね。勝手なこと言うなって感じです」

 イリューが、ラナの方をじっと見る。

 ラナは恥ずかしさをめいいっぱい堪えて見つめ返した。

 「なに??」

 「ラナは、今日の俺どうですか?」

 ラナは、少しの間考えて、イリューの腕をそっと引っ張り、彼の耳の近くで、彼にだけ聞こえるように言った。

 「かっこいい…です」

 イリューがラナが掴んでいる手に触れて言った。

 「嬉しいです」

 異性とこんな近距離で見つめ合うことなど初めてだった。心臓がうるさいくらいに鳴っている。

 ラナとイリューの仲睦まじい様子に、また何か声が聞こえてくるが、二人は気にしなかった。

 「ようこそ!東国へよく来てくださいましたなぁ!歓迎してしております!!」

 しゃがれているのによく通る太い声が大広間中に響き渡った。たくさんの視線が集まるのを感じる。

 「私は統治補佐ロドルと申します。どうぞよろしくお願いします、夢見殿」

 ギョロリとした大きな目に、口元に蓄えた髭、自信に満ち溢れる立ち振る舞いに一瞬ラナは気圧された。

 「ラナ、と申します。どうぞよろしくお願いします」

 ラナは優雅に礼をした。ロドルが感心したように頷く。

 「どうですかな、東国は。食べ物もおいしい、気候も良い、そして何より人が良い。きっと気に入ってくださるでしょう!」

 …さすが…

 ロドル様…意地が悪い

 …誰も…してないのに

 …歓迎など

 ロドルはにこにこしながらラナの返事を待っている。

 「そうですね。これから過ごせることを幸せに思います」

 その時、ラナには違和感があった。

 ロドルの顔を見て、何か、大事なことを思い出しそうだった。

 何だろう。

 「では、東国の料理をたくさんお召し上がりください。夢見殿」

そう言ってロドルは、年齢を感じさせない颯爽とした動きで人々の中に入っていった。

 彼の周りにはたくさんの人が集まり、我先にと、ロドルに話しかけているのが見える。

 「思ってもないことを言うのが上手な方でしたね。私の名前なんかきっと興味ないんでしょうね。呼ぶ気もなかったみたいですし」

 ラナは出来るだけ声を小さくして言った。

 「俺なんか無視ですよ、無視。百歩譲って護だからとはいえ、存在消されてました」

 「たしかに」

 ラナは思わず笑ってしまった。

 本当だったら嫌な気持ちになってもおかしくないのに、イリューといると心強くて楽しい気持ちに変えられた。


 「ラナちゃん、大丈夫?」

 お酒のグラスを持って、シアが来た。

 「お前がくると騒々しくて大丈夫じゃなくなる」

 「ちょっと!イリュー、お前、何腕組んでんの!」

 「ほら、騒々しい」

 「本当に」

 二人が笑い合うのを見て、シアは目を見開く。

 「ちょっと何!やなんだけどその空気!いつのまにそんな仲良くなってんの!」

 まずは腕を組むのをや、め、ろ!と、シアが騒ぎ立てていたが、それを見かねたのか一人の女性がシアを制しに来た。

 「何を騒いでいるんですか、やめてください」

 「わぁ、びっくりした!いつも気配消してくるのやめろよ」

 耳の下で切り揃えられた黒い髪がさらりと揺れた。一重の瞳が呆れたようにシアを見つめている。

 「注目されています。そして仕事です。いいですね?」

 「今日はもう仕事入んないって言ってなかった?やだよ、僕!」

 「あ、ラナ様、お初です、ファタと申します。イリュー様、お疲れ様です。では失礼いたします」

 「おい、無視すんな!そして連れてくなぁぁ!」

 あっという間にシアがファタに引きずられていった。

 「あ、挨拶できなかった…」

 「ファタに会った人はみんなそうなります。お気になさらず」

 何か食べますか?イリューがテーブルを指差す。今日は緊張続きであまり食べていない。ラナは笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 

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