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第七話 うわ、大の大人が寄って集っちゃって~

 そのあと、私は目を覚ましました。

 すぐそばには疲れ切ってスヤスヤと眠っている博士の可愛い寝顔が見えました。

 ユーキ君は私たちが冷えないように、コックピットの中に布団を出現させて、その上に自分の上着をかけてくれていました。

 ……独り占めしちゃお、博士はお布団あるし。


「……ユーキ君?」

「おう、結構早く起きたな? もう帰るところだぜ?」


 全面モニターの下を見てみると、マンバグズたちがドフールを見上げているの気づきました。

 ……ガラス張りだと思ってしまい、思わずスカートを押さえてしまいましたが、すぐにハッとして、あちらからはドフールしか見えていないと気づきました。

 地下帝国にいる女王をはじめとしたマンバグズたちはお腹も機嫌も満たされた様子で、地上にあがって行くドフールを見送ってくれました。


「おれたちなんかした?」

「まだ何もできてなかったよな?」

「力の差を理解らされただけかよ!」

「痛めつけられてメシ食っただけか!」

「あれだ、キレイな光見ただろ?」


 まだみんなの思っていることや話していることが頭の中に聞こえてきます……。

 私はそれでも、ユーキ君をボーっと見つめていました。気が付くと、ユーキ君の手を握っていました。


「怖かった? ドフールの中で一人にしてごめんな」

「う、ううん。私がいても何もできなかったよ。けど、ユーキ君と博士はすごいよね、怪獣くんたちもいたけど、それでも、あんなにたくさんの敵がいたのに……」

「いや、あれは無謀だろ。博士には助かったから何も言わないけど。やっぱり、俺以外にドフールを任せるわけには行かないし。運がよくて、みんながいたから俺は死ななかっただけだと思うしよ」

「私は、やっぱり、ユーキ君が頑張ったからだと思うよ?」

「おう、ありがとう、モエコ」


 そんな会話をしながらも、ドフールは地上に帰っていました。

 その時、凄まじい悪寒がしました。怖い、何人もの敵に睨まれています……!


「ユーキ君、なんか、敵がいっぱい! ……あ、あれって、正規軍のマーク?」

「了解! ドフール・バグズスケルトン、発動! ゴー!」


 ユーキ君が怒鳴るように言うと、砲撃など意に介さないほど丈夫なドフールが、さらに硬くなったような気がしました。まるで、さなぎのような外骨格に包まれたような感覚。

 千里眼で見てみると、ドフールはまるで瞑想でもするかのように地面に座り、フォースシールドでできたサナギのようなもので包ませて、身を守っていました。


「……ムニャムニャ。飛行と浮遊にも使われている思考エネルギーによる念動力の機能を応用して、バリアとかシールドとか外壁とか展開出来ちゃうかも……ムニャムニャ……」


 博士が寝言で解説、というより、考察していました。事実、その通りの機能をドフールは目覚めさせたのだと思います……。

 するとその瞬間、本当に数えきれない量の戦車や戦闘機などの爆撃が、ドフールに襲い掛かりました。凄まじい量。本当に私たちを殺しにかかっています。


「ひぅっ⁉ こ、この振動、ミニ核ミサイルじゃない! 何のつもりよ!」


 博士は飛び起きると怪獣たちを自分の身に纏って、私たちを守ろうとしてくれました。というより、私たちに抱き着いてきました。今起きたんですか……。

ミニ核ミサイルをはじめとする凄まじい砲撃の中に凄まじい光線も紛れていましたが、ドフールはびくともしません。ミニ核ミサイルの紋章、やっぱり、正規軍……?


「なんだよ、俺たち一応世界救ってた気分だったんだけど……」

「ど、どうしよう……」

「大丈夫よ、地下のアイツらは、ボクの計算とネズ公によると核兵器効かないらしいし、ドフールは丈夫だし。あいつらの弾薬も無限じゃない……はず……」

「……あっ、ユーキ君、どうしよう、あの人たち、人質取ろうとしてる!」

「はぁ⁉ なんで⁉」

「ま、まって、ちょっと調べてみるね……」


 私は、攻撃してくる軍のことをテレパシーで調べてみました。彼らも本当は嫌そうですが、やるしかないようでした。上層部からの命令だから。

 私も身に覚えがありますので、軍人さんたちの気持ちはわかります。しかし、それ以上の恐怖が、私を涙目にさせていました。彼らは、ドフールとそのパイロットを狙っていたのです。ドフールを狙うためなら、何でもしようとするようです……。


「ああっ、どうしよう。ユーキ君のこと、その、狙ってるみたい。ドフールのことも。あ、あと、その……もし、渡さなかったら……人質も取るって……」

「……もしかして、マンバグズたちか⁉」

「え、う、うん! だけど、その、多分効かないだろうから……」

「いや、こんなことするような奴らだ。殺傷したり殺したりする兵器とか平気で作ったりするの朝飯前かもしれない」

「え? そ、そんな……そんなこと言いだしてもキリがないよ……あっ……!」


 すると、ユーキ君のイヤな予感が的中しました。私たちを攻撃している軍隊から、拡声器でメッセージが伝えられたのです。


『おい、大人しく投降しろ、テロリストども! さもなくば、お前たちのお友達をぶっ殺してやるぞ! その大穴に核爆弾ぶちまけてやるからな、この人殺しどもめが!』

「な、何の話ですか……? 誰かの何かを間違いなんじゃ……」


 私は動揺しながらも、彼らの心をテレパシーで感じ取っていました。彼らは本気でした。本当に私たちを冷徹な人殺し集団だと思っているようです……。


「ったく、しょうがない。おい、ザコザコ怪獣軍団!」

「あん?」

「ビギャ?」

「なんすか?」

「受粉!」

「おい、さりげなく植物界枠の下ネタ言うんじゃねぇ。お前ら、モエコと博士と一緒にマンバグズたちのところに行って、みんなを守れ、俺は敵を引き付けるぜ」

「は、はぁ⁉ 何言ってんのよ、ウルトラザコ! あんな奴ら、アンタの機能でやっつけちゃえばいいじゃない! そんなにアイツらのことまで心配なら、ウジ虫たちを殺さないように調整したビームみたいなの放てばいいじゃない!」

「いや、博士。それは無理かも。俺、ああいう人間嫌いだから」

「はぁ?」

「……え? ゆ、ユーキ君?」

「もしかしたら、何かの間違いで殺しちゃうかもしれないからさ。それはイヤだろ。嫌いな奴ら相手とはいえさ」

「だ、だけど、なんかほかに方法が……ぼ、ボクが計算してやるから……」

「ダメだ、ゴー!」


 すると、私たちはいつの間にか、ドフールから飛び出して、背後にあるマンバグズの地下帝国につながる穴に落とされていました。


「ゆ、ユーキく~ん⁉」


 すると、博士の髪留めに変身していたウォープラントが私たちをしっかりとツタで捕まえてくれた上に、マンバグス地下帝国の元に優しく降ろしてくれました。

 そこにいたマンバグズたちは、帰ったと思ったかつての敵対者たちに驚いていました。


「うわ⁉」

「なんだ、お前ら?」

「もう何もしてないぞ!」

「てか、何もできなかったぞ!」

「あ、あの、ウルトラザコ、くッ……! ネズ公、この術式から、コイツを計算して!」

「ビギャ、了解、博士。穴をふさぐ蓋の設計計算完了、表示する!」


 ワットラット君が宿っている博士のブレスレットから、地下帝国を地上から塞いで守る蓋の設計図を映し出しました。そして、それを博士が微調整して完璧な設計図にして再び表示しました。


「ん、よし! ヨワヨワザコ虫たち、手伝って! このままだと帝国が崩れちゃうわよ!」

「な、なんですって⁉」と、バグズクイーンが気配と騒ぎを聞きつけてやって来てくれました。「その様子、どうやら本当の本気のようですわね。我が子たち、さっきのワラワの最終形態の残骸を持ってきて使いなさい。ネズ公様の設計図に従ってここを封じるの!」

「お前らはネズ公って呼ぶな、ビギャ~!」


 すると、マンバグズたちは解体していたらしい巨大バグズクイーンの抜け殻や地価の土を材料にして、やっぱりハチやアリのそれと同じように自分の唾液などの体液も利用して、博士や怪獣たちと協力して完璧な蓋を作って、地上から地下帝国を閉ざしてしまいました。


「ライブリキッドの水や温度操作、オメガザウルスの熱操作で地下世界に溶け込ませて生命反応も感知されないようにし、ウォープラントの根でさらに自然に溶け込ませたわ。これで、地上の奴らからはこの帝国は感知されないはず!」

「ふぅ、助かりましたわ……。あんなロボット軍団にたくさん攻め込まれたら、いくらワラワたちが不死身でも溜まらないもの……あんな超常の力を持った兵器……」

「はぁ? 何言ってんの、ウジ虫女王様。ドフールはあの一機しかないわよ?」

「……は? あれがこの惑星の標準装備なんじゃありませんの⁉」

「はぁ、そうよ。オーパーツ過ぎて量産できないの」

「え、じゃあ、余裕に倒せるじゃない、ワラワたちの帝国軍ならば! あのロボットさえいなかったら、余裕で内側から征服できたのに……」


 私はつい、呟くように言ってしまっていました。


「うん、だからだよ。マンバグズさんたちに地球人をやっつけてほしくなかったの、ユーキ君は。だから、自分でもイヤなのに、私たちを地球人から守るために、庇ってくれたんだよ……」

「そんな、一応、和解したとはいえ、侵略者と侵略対象という関係なのに……なんで、ワラワたちを庇うようなことなんて……」

「アイツはそういう奴なんだよ」と、オメガザウルス君。「何でかわからないが、罪を償わせようとしてくる。そして、いつの間にか、世界を侵略して自分のモノにしようとするより、分け合ったりしたいと思わせてくるんだ」

「熱線銃が喋りましたわ⁉ え、いや、だけど、やっぱり、よくわからない……どうして?」

「それは……わ、わかんないよ、やっぱり……だけど、私たちが悪いことしても許してくれるし、悪いことしないようにしてくれてるのは、嬉しい……。正しくない、偽善とか身勝手とか言われちゃうかもしれないけど……私は、やっぱり、嬉しい……」


 私は気が付くと、また大人げなくうずくまって、涙を流していました。

 博士の小さな手が、私をさすってくれているのを感じます。みんなも見守ってくれています。私も出来ることを、いえ、それ以上のことを出来るようにならないと。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……!」

「んあ、モエコ犬⁉ どうしたのよ、頭、悪いの⁉ 違う、痛いの⁉」

「違います、博士。テレパシーでユーキ君を捕まえようとしているみんなを止めるんです!」

「はぁ⁉ 理論上できるかもしれないけど、そんな簡単にできるわけないでしょ! ネズ公、アイツらが使ってる機械、ハッキングしてやっつけちゃって!」

「ビギャ、そうか、その手があったか!」

「お前は手どころか体がないっすよね?」

「うるさい、水! あと、さりげなくお前呼ばわりするな! ビギャあ……」

「どうしたの、ネズ公?」

「今、人工衛星をハッキングしたんだが……地上の様子がこれだ!」


 ワットラット君が映してくれたホログラムには、ドフールの様子が映っていました。い数えきれないほどの巨大人型ロボット兵器に追われています……! 

 全て、正規軍のパイロットが操縦していて、電力やガソリンで動いている一般的な巨大ロボット兵器です。だから、ユーキ君は手が出せないのだと思います……。


「……⁉ ユーキ君⁉」

「あれは、全部兵器用の巨大人型ロボットだわ! 怪獣とかはともかく、一機で戦艦はもちろん、小国くらいなら簡単に征服できちゃう。しかも、基本的に対怪獣に設計されているドフールじゃ、大きくなって飛行が出来るようになった狙撃兵も同然のアイツらなんて、不利かも……。ネズ公、あいつら早くハッキングして!」

「くそ、ダメだ! アイツら、電力も使わずに純粋に核エネルギーで動いてやがる!」

「……な、え? ……⁉ まさか!」


 ネズ公、あ、間違えた、違う、ワットラット君は博士の様子を察して、ホログラムの黒板を映し出しました。そこに、博士は計算式を書いて、答えを導き出します……。


「は、博士、どうしたのですか……?」

「そんな……ボクが、何をしても辿り着かなかったのに……。アイツら、全部、量産型ドフール……。どっかのアホたちが、ない頭を振り絞って量産化に成功したんだ……まさか、あんなにも危険な核を使うなんて、思いついても、やらなかったのに……ぐずっ」

「博士……そんな、泣かないでください……」

「む、お姉さん方、天井を! 崩れそうですぞ!」


 ウォープラント君に言われて見てみると、地上に通じる封じられた天井からポロポロと砂や小石が落ちたかと思いきや、今度はドーン、ドーンと巨大な岩まで降ってきました。

 私は感じました。地下深くにあるはずのこの帝国に、侵入者がやってくるのを感じたのです。

千里眼で見てみると、ドリルで巨大な戦艦らしき兵器がやってくるのを見てしまいました!


「じ、女王様、こちらにも、地下を通って何かがやってきます!」

「むっ⁉ ワラワたちの帝国に、侵入者が! 幼い子たちを避難させよ!」


 周りのマンバグズたちもすぐに動き始めました。

 その時です! 帝国の地面を突き破って、ドリル戦艦が侵入してきました。そして、そこから大量の量産型ドフールが降りてきたのです……!


『動くな! 今すぐ殺してやるぞ、虫けらども!』


 そう無数の量産型ドフール部隊の誰かが怒鳴りました。心と口、どちらでも。凄まじい憎悪を胸にして、その鋼鉄の足をこちらに運んできます……!


「おい、チビ博士泣いてんじゃねぇ! おれをあいつらに放て! 全部蒸発させてやる!」

「ぐすっ、そ、それはダメ! あと、泣いてないし!」

「オメガザウルス殿の破壊光線でダメとなると、ワガハイのツタでもどうにもなりますまい……。彼奴等の熱で花粉も種も蒸発するでしょうからな……」

「ええ、あの感じ、世界中で大暴れした枯れ枯れおじさんの花粉の対策もしてるはず、それになりより、アイツらは核で動いてるのよ! そうでもしないとあんな大きなロボット運べないし! 破壊光線なんか撃ったら核分裂でここら一帯がガラスになっちゃう!」

「うぐ……おれがそう言うのも微調整できれば……!」

「……お、そうだ、忘れてた! ふん、ヨワヨワザコウルス、ボクのふとももで悔しがってなさい! おい、流され水お兄ちゃん、あいつらを氷の中に閉じ込めちゃって!」

「あ、は、はい!」


 しかし、彼らは厚い氷の壁に閉ざされてしまいました。ライブリキッド君の氷結です。


「え、えっと、どうっすかね?」

「うん、大人のくせにザコザコで女々しい水にしてはよくやったわ! ネズ公!」

「ビギャ、了解……解析完了、この位置なら地下水もないし、トンネルも掘れるぞ!」

「よくやったわ! さて、アンタの出番よ、オメガザウルス! アンタの破壊光線で、トンネルを素早く作って脱出経路を確保するのよ! 枯れ枯れおじさんはボクらをウニャウニャツタでしっかり守りなさい!」

「任せてくれたまえ」

「了解! 久々にぶちかましてやるぜ!」

「そんじゃ、行くわよ、発射!」


 博士が、オメガザウルス君が宿っている熱線銃、すなわちオメガブラスターを最適な地面に向けると、凄まじい威力でトンネルを掘り進めていきました。


「ザコザコ水、みんなが通れるように冷やして!」

「え、は、あ、はい!」


 こうして、あっという間にマンバグズたちの脱出経路が出来ました。

 その間、博士は地面に何かの設計図を書いていました。


「……よし、ボクもできちゃった! 枯れ枯れおじさん! この通りの生体アーマーを生成するのよ! かわいいボクらがどんな環境にも耐えられるようにね!」

「うむ、任せるがよい……」


 すると、ウォープラントはマンバグズたちや私たちのために、植物でできた生体アーマーを作って、木の実のようにツタや枝から実らせて持ってきてくれました。

 ですが、明らかに前衛的で扇情的なデザインをしています……。


「はい、どうぞ。博士の計算を基にアレンジを加えた、渾身の出来でございます」

「ちょ、なによ、これ! ビキニアーマーとかいつの趣味よ! ダッサ!」

「アンタはいつもと変わらないし、どうせ俺ら纏えばいいだろ」

「まあ、そうね! ほら、モエコ、これに着替えて!」

「……ユーキ君……。え、は、はい!」


 私は頭の中も視界も量産型ドフールから逃げながら、私たちがいる帝国から遠ざけてくれているユーキ君のことで頭がいっぱいでした。なので、自分でも気づかないまま、みんなに言われるがままに行動してしまっていました。

 その時、ライブリキッド君の氷の壁を打ち破ろうとしている量産型ドフール隊とドリル戦艦にも、指示が出されているようでした。


『オリジナルドフールが逃げるぞ!』

『怪獣どもとテロリストは後だ、そっちを追え!』


 すると、量産型ドフール隊はドリル戦艦に帰還してあっという間にまた地面を掘り進めてドフールを追ってしまいました。


「や~い、ザ~コ、ザ~コ! キモキモおじさんたちが逃げるぞ~! ふん、どうってことないわね! あんなの量産型ドフールなんて長ったらしいし、ドフールの風上にも置けないわ! あんなのザコールでいいわよ、ザコール!」

「た、大変! ユーキ君……⁉ ザコール軍団が、ユーキ君を追ってます……!」

「……。ああっ、はぁ⁉ ど、どうしよう、やっぱり、ここでやっつけちゃえば……」

「博士、泣かないでください。い、今、彼を追いますから!」


 彼のことだけを考えて、千里眼とテレパシーでユーキ君の心の気配を追います。

 夜空の下、さきほど、マンバグズたちが襲うはずだった街。みんな非難しているらしく、人々の気配は感じません。

 その視界も悪い環境で、ユーキ君の操るドフールは、追って来るザコールこと量産型ドフールの高度な連携攻撃を華麗によけていました。

 そこに、ドリル戦艦が地面と街を突き破ってやってきました。

 そこから、さらに大量のザコール軍団が投入されて、容赦なく襲い掛かってきました。

 何とかして辞めさせないと……! 

 私は無意識に怪獣たちを通訳できているのなら、同じ地球人同士なら通じ合えるはずだと、テレパシーを送ろうと試みました。

 しかし、全然だめです。

 彼らのことを考えるだけでも怖いうえに、勇気を出して語り掛けようとしても、彼らの凄まじい拒絶感が壁のようにのしかかってくるのです……。


「ユ、ユーキ君……!」

『お、すごいじゃないか、モエコ!』

「……え?」


 通信越しじゃない、それよりも直接的に、彼の私の力に対して感動している気持ちと声が伝わってきました。言葉が五感ではなく、感覚的に伝わってきます……!


「あ、ああっ、ユーキ君、もういいよ。ここにはザコール軍団はいないから……」

『だけど、ここで何とかしないと。このオリジナルのドフールを捕まえて、なんかしそうだしな。それに、このまま操縦し続けて、俺のこと捕まえるって任務終えたら、パイロットのみんな死んじゃうかもしれないだろ?』

「そ、それは、そうかもしれないけど……」

「オペレーターさん? 一人でしゃべって、ついにイカれたんすか⁉」

「違うわよ、ザコザコ水! モエコ犬! ユーキお兄ちゃんにテレパスできたのね⁉」


 博士と怪獣たちがやって来てくれました。

 大切な子供たちを逃がした女王様はなぜか撤退したのに誇らしげでした。


「大切な我が子たちはみ~んな避難させましたわ! 移住先でも再び巣食って陰から反映させてみせる! ふん!」

「うわ、早。アンタたちは女王を中心にしたテレパシーのネットワークでつながった、一つの群れで一つの生物って言った感じなのね。それで通信機器も使わずに連携を取っていたと……。ふうん、機械に依存している地球人では致命的ね……」

「な、なんですの、地球人の博士……急にお褒めの言葉なんて……」

「褒めてないわよ。さすが虫が進化した知的生物。こそこそ動いて回ることと、逃げることには長けちゃって。地球は征服できなかったくせに~!」

「はぁ⁉ こんな星、征服しなくても地下で勝手に巣を開拓して住んでやるわよ!」

「いや、地下に巣食ってないでマジで、帰れよ!」と、オメガザウルス。

「銃に閉じこもって、ここにずっといる気のあなたに言われる筋合いはありませんわ!」

「好きでここにいるんじゃねぇ! おれはいるだけでもエネルギー源としてこの星の役に立つけど、お前らは数だけいて何が出来んだよ!」

「ジジジッ……⁉ あ、あの巨体に這いまわったりブンブン飛んで、えっと魅せますわ!」


 そう言うと、本当にバグズクイーン様は跳んで行こうとしましたが、ウォープラント君のツタに止められました。


「待ちなされ、陛下。潰されても再生されたその可愛らしいその身。わざわざ再び危険にさらす必要などございません」

「植物さん……⁉ ワラワのこと、心配してくださいまして……⁉」

「当たり前でございましょう。女王陛下」

「ま、まぁ……」


 ウォープラント君とバグズクイーン様はロマンスの雰囲気を放っていたので、ライブリキッド君がキラキラした氷の結晶をちらつかせて輝かせ、ムードを作っていました。


「君に~会えてよか~った、この異星の中~、四面楚歌の中、侵略者同士の仲~!」

「ビギャ~⁉ や、やめろ、黙れ黙れ黙れ、汚水みてぇなポエム!」

「ポエムじゃないっす、歌っすよ! ラブソングっす!」

「てめぇら、何遊んでんだ、燃やしてやろうか、殺すぞ!」

「そうよ! 今すぐボクに着せられなさい! アイツを助けに行くわよ!」

「ユーキ君、こっちはみんな避難できたよ! だからその、えっと……あっ!」

『お、なんか思いついたの?』

「う、うん……だけど、その、また、ユーキ君に無理させちゃうかも……」

『無理なら出来るようにするまでだぜ。どんな作戦?』

「ちょ、ちょっと待ってね……。博士、量産型ドフールのコックピットの位置を教えてもらえませんか⁉」

「ん! ……。はい、計算したわよ! どうする気?」

「わぁ、ありがとうございます……! ワットラット君、それをドフールに送ってくれない、お願いします!」

「ビギャい!」


 ワットラット君は、ホログラムに記された、博士の計算で導きだしたザコール達のコックピットの位置を送ってくれました。


『おう、パイロットをぶち抜けば核爆発を起こさずに倒せると。わかった、覚悟決めるぜ』

「ま、まって、ユーキ君! あの、マンバグズたちだけをやっつけたみたいなその正確さを、ザコール達にも使えないかな……? パイロットさんたちを殺しちゃうの、イヤ、だよね……? だ、だから、その、無理させちゃってごめん……出来ない?」

『了解。みんながいなかったら思いつきもしなかっただろうな。俺も苛立ってアイツらのことやっちまうところだったぜ。見守っててくれ!』

「う、うん!」


 すると、ユーキ君のドフールはザコール軍団と向き合いました。そして、やっぱり私が教えた白兵戦の構えを取ります。

 ザコール軍団は堂々とした様子のドフールに容赦なく襲い掛かってきました。

 そんな彼らに、ドフールはコックピットがあるお腹の部分に掴みかかりました。すると、ドフールのその巨大な手が、ザコールのコックピットを透過したのです。そして、そのドフールハンドがコックピットから抜き出されると、ザコールは電源が切れたかのように、いえ、心臓が止まったかのように動かなくなってしまいました……。

 そして、開かれたドフールの手に乗っているのはまさかのものでした。


「死ね~! さっき何をした! このド畜生が~!」


 ドフールハンドのひらの上にいたのは、先ほどコックピットを透過させられたザコールのパイロットでした。

 ピッチリとしたパイロットスーツ姿の彼女は、携帯している光線銃でドフールのメインカメラであるヘッドに連射していますが、びくともしません。

 その様子を、ワットラット君はホログラムで映してくれていました。


「な、なんじゃこりゃ……⁉ ドフールを分子レベルまで操作して、相手のザコールの分子の隙間を通らせることでコックピットを透過、パイロットだけを抜き出す……。その時、パイロットは分子に分解しないように、やっぱり分子レベルで調整している……! 大きいくせに、分子レベルにまで小さくて細かい技をやってのけたのね! この必殺技、名付けるなら、ドフール・インビジブルハンド!」

『おう、やっぱ博士の方がセンスいい気がするぜ』

「当たり前でしょ、ザ~コ!」


 その会話は、ザコール軍団に筒抜けでした。


「喋ってんじゃねぇ! アタイのことはいい! コイツを殺せ、殺せ~!」


 すると、仲間のパイロットが手のひらにいるドフールに、容赦なくザコール軍団は装備している巨大な電磁砲や熱線などの破壊光線を放とうとしてきました。


「ユーキ君、全方位から攻撃、来るよ! その人はコックピットに入れてあげられない?」

『了解! 全員ドフールの中に押し込んでやる!』

「お、おい、何をする……⁉ きゃあ~⁉」


 ドフールはまるで食べるかのように圧縮空間が広がるコックピットのハッチを開いて、敵パイロットを入れてしまいました。

 果たして、パイロットさんはコックピット空間に展開されたクモの巣のようなものに拘束されてしまいました。


『そこで大人しくしてろ、今仲間に会わせてやるからな!』

『ぬあ~! この公衆便所の悪臭以下のクソ野郎が! 離せ、離せ~!』


 通信越しに彼女たちの怒声が聞こえてきます。その声はドンドン増えてきて、心配になってくるほどでした。それと一緒に、機能が停止したザコールが次々と地上に乱雑に倒れて落下していきます。


「ヤバ、この軍団相手に次々とパイロットだけを抜き出して捕虜にしちゃってる……! けど、気を付けなさい! あんまり上から落とすと壊れて爆発しちゃうわよ!」

「ユーキ君、上から三機、自爆して特攻してくるよ!」

『了解、その前に止める! ドフール・パルスフィールド・アンド・インビジブルハンド!』

『そっちの機能は織り込み済みだ!」

『こっちは核で動いてんだよ!』

『派手に舞い散ってやるわ、死ね~!』


 その笑いと嗚咽が入り混じった声で突撃してきましたが、そのザコール三機は止まってしまいました。

 そこを、ドフールがパイロットたちを簡単に抜き出してしまいます。


「……なっ⁉ あの機能は今まで電磁パルスを展開させて機械を止めているかと思ったけれど……そんな科学的な理由なんて存在しない、純粋な思考の力で動きを止めていた、超常の力だったんだわ。物理法則が通用しない、だから核でも電力でも、どんなエネルギーも遮っちゃう、超常の機能……!」

「……博士、なんかそれっぽいこと言ってるけど、今さらか?」

「うっさい、ザコザウルス! わけわかんない魔法みたいな力なんだから仕方ないでしょ」


 その時、私は自分でもわけのわからない力で、新たな敵を察知してしまっていました。

 次々と襲い掛かるザコールのパイロットを抜き出して、自分の機内に放り込んでいくドフールに地面から巨大な何かが飛び出して襲い掛かろうとしています……!

『そろそろコックピットもいっぱいになってきたな……』

「ユーキ君、真下からドリル戦艦が来るよ!」

『了解!』


 ドフールは跳び題してきたドリル戦艦を避けて、その巨大な船体に両手で掴んで落ちないようにしました。

 ドリル戦艦から、何か熱いものを感じます、全てを吹き飛ばして今うかのような……!


「……⁉ 船内から高エネルギー反応! 自爆しようとしてるよ! この大陸が吹き飛んじゃうくらいの威力! に、逃げて!」

『はぁ⁉ 何でそこまでして命を捨てようとするんだよ! 何とかできないか?』

「ぬあああああああっ、はい! 計算した! ここ、ここ!」と、博士。

「今、そっちに送ったぞ! 早くなんとかしろ、ビギャ~!」

『ありがとう、みんな!』


 ユーキ君はそう言うと、地球一強靭で強固な船体をドフールの拳で突き破って、全メインモニターに表示されている、博士が計算して特定し、ワットラット君が送ってくれた燃料源である悪友号炉までたどり着きました。

 その間、船内にいる乗組員たちを次々と掴み上げてドフールに放り込んで、無傷にしていました。


「ユーキ君、あと十秒で爆発しちゃう! 逃げて……な、なにしてるの⁉」


 千里眼で見たユーキ君は、乗組員を全員ドフールに詰め込んで、自分は船内の爆発寸前の核融合炉の前にいたのです……!


「まだ間にあう! テレパシーで俺とモエコの心繋がってるよな? 俺の視界を博士に送ってくれ!」

「う、うん! 博士、すいません!」

「はぁ? な、なに?」


 ギュっ。小さな博士を抱きしめて、博士を全身に感じます。そうすることで、より正確に博士に伝えたいことをテレパシーで送れるようにした……つもりです。


「ちょ、なに⁉ みんなの前だと恥ずかしんだけど……お? おっ、おっ、おっ……! うわぁ、中にウルトラザコが入って来てるんだけど……うわぁ、すっごいって。アイツの視界がって、何してんのよ、コイツ! 待ってなさい、今、分析してやるから! ……はい!」

「……! ありがとうございます! 今、テレパシーで送りますね!」

「ビギャ、オレサマは⁉ オレサマの通信機能は……⁉」


 その後ろで、バグズクイーン様がホログラムのワットラット君を抱きしめようとしましたが、実体がないので全然うまくいきません……。


「あれ、どうなってるのかしら、コレ……」

「ビギャいや、あとコレ呼ばわりすんな!」

「今、アイツは通信機器持ってないし、核の前なんだから持ってても意味ないだろ!」

「おおっ、流石オメガザウルスどの。熱エネルギー、核そのものですからな~」

「おれのことをなんだと……」


 その頃、ユーキ君は核融合炉の爆発を防ぐために、博士が解析して、私がテレパシーで送った除去方法を頑張っていました。

 凄まじい熱さを、私もテレパシー越しに感じます。

 早くしないと爆発しちゃうし、それ以上にユーキ君が耐えきれそうにありません……!


「このパイロットスーツ、核の熱さにも耐えられたんだな。知らなかったぜ、ありがとう、博士、結構余裕かもしれない。世界中の核のゴミで困っているところこれで掃除できそう」


 本当はいろいろと複雑な機器や道具が必要なことは、素人の私でもわかります。いくら博士が突き止めてくれた解除方法があるとはいえ、その身に着けているのは博士製のパイロットスーツだけ。ほぼ素手の同然です。それなのに、ユーキ君は器用に次々と複雑な作業をして行きます……!

「ゆ、ユーキ君……⁉ だ、だとしても、い、急いで!」

「よし、どうだ!」


 そして、本当に核爆発が防がれました。ドリル戦艦は自動操縦でデタラメに暴れていましたが、機能を完全停止。私たちも大陸も、爆発と汚染から救われたのです。

 ユーキ君はほぼ素手で、爆発寸前の核を無力化してみせたのです……!


「ゆ、ユーキ君、すごい、すごいよ……! お疲れ様、ありがとう!」

「おう、今、そっちにこのドリル戦車と一緒にドフールで向かうから……ん?」

「どうしたの? ユーキ君?」

「あ、まずいぜ。秘密基地にもザコール軍団が向かってる!」

「……ええっ⁉」

「な、なんて⁉」


 テレパシー越しに、ユーキ君の視界を見てみると、彼はドリル戦艦の指令室にいました。そこにあるモニターには、ザコール軍団に強襲に遭っている、私たちの帰る場所、秘密基地が映されていました。

 それだけではありません、完全武装した制圧部隊も、秘密基地に次々と乗り込んで、司令官を初め、生身の職員さんたちを殺そうとしていたのです……!

 この軍隊は、本当に殺す気です。制圧する気です。地球防衛団を。

それは、ワットラット君のホログラムにも映っていました。


「お、お、おじさん……⁉」

「早く知らせないと……!」

『俺も行くぜ』

「ユーキ君⁉」


 すると、いつの間にか、ユーキ君を乗せたドフールが、マンバグズ地下帝国に通じる穴の上を飛んでいました。

 そして、そのコックピットの中から何十人ものザコールパイロットやドリル戦艦の乗組員たちを雨のように落として行きます。


「ぎゃああああああああっ⁉」

『あ、ウォープラント、頼んだぜ』

「任せたまえ、女性陣の扱いは得意ですからな~」


 すると、ウォープラント君は一人残らず地下帝国に落ちてきた人々を捕まえて、ツタで拘束してしまいました。あと、ネバネバした溶解液で。


「な、ナンジャコリャ~⁉」

「衣服だけ溶かすワガハイの溶解液でございます」

「な、な、な、なんじゃそりゃ⁉ なんでそんな都合のいいモノも人材もあるんだよ! お前らにばっかり、うわあああああああん⁉」

「ふふん、正義の味方の邪魔ばっかりするからよ、バ~カ、ザコ、ザ~コ!」

「……⁉ あ、アンタは……⁉ 誰? なんで子どもがここに?」

「ふん、その子どもにも負けちゃうザコザコお姉さんたちに説明してやるわ。アンタたちが喧嘩を売ったのは、この地球を守っている地球防衛団よ! アンタたちは世界中の政府が設立した軍隊にケンカを売った反逆者、そこにいる今はいい子のワンちゃんたちと同じ、怪獣以上に悪の裏切り者軍団ってこと。だから、それなりの罰は覚悟しておきなさいよね、ザ~コ!」

「……は? なんのことだ? は、反逆者でテロリストなのは、お、お前らだろ⁉」

「うっわ、なにいってんの、キモ。自分の罪を人に擦り付けるとか、大人なのに恥ずかしくないの~?」

「……え、い、いや、ひ、ひどい、ひどい言いがかりだぞ、本当に……!」

「あの、えっと、パイロットさんたち、ごめんなさい」私はつい聞いてしまいました。「地球人同士なのに、乱暴なことして……。あの、一体、なぜドフールを襲ったのですか?」

『モエコ、ごめん、そっちは任せたぜ。俺、向かってるから……』

「よし、じゃあ、おれもやるぜ!」

「え、オメガザウルス君⁉」


 すると、千里眼により、秘密基地から巨大な何かが飛び出してくるのが見えました。オメガザウルス君です! 

彼を見つけると、ザコール軍団がオメガザウルス君に向かってビーム砲を発射してきました……!

 しかし、オメガザウルス君も抵抗しています。


「おれの分身が持ちこたえてやる、来るんなら早くしろ、ドフールのユーキ!」

『おう、待ってろ!』


 ドフールが秘密基地に飛んで行くのを感じました。本当に行かせていいのか不安でした。このままじゃ、悪いことが起きそうな気がしたのです……。


「ゆ、ユーキ君、待って!」

『どうしたんだ?』

「ぐえ……」

「ざ、ザコザコザウルス⁉」


 博士を見ると、彼女は座り込んで、オメガザウルス君の宿っている熱線銃を心配そうに握っていました。ま、まさか……⁉


「い、いや、おれ自身は生きてるから……」

「よ、よかった……ぐすっ……ううっ……あ、ま、まさか⁉」

「た、ただ、おれの分身の方が、あのザコールの集団にやられた! あいつら、こっちにいた奴らよりずっと強いぞ……! ドフールが行ったところで……」


 オメガザウルス君を抱きかかえながら、博士はまた何かを計算してくれました。


「あ、あいつら……全部無人機よ! 誰かの脳波コントロールで動かしているんだわ! 本体の操縦者を倒さないと、バンバカ次々と出て来るわよ!」

『そうか、じゃあ、破壊しちゃっていいな? 止めるな、行ってくるぜ!』

「ユーキ君⁉」


 私のテレパシー越しの心配の声を振り切って、ユーキ君のドフールは秘密基地に向かってしまいました。

 彼から感じました、私が心配していることをわかっていることと、司令官さんや他の職員さんたちを心配している苦悩を……。

 ユーキ君は十分に頑張っているのに、板挟みにしてしまいました……。


「ユーキ君……。……⁉」


 急に悪寒が去った気がしました。秘密基地は、もう安全な気がします……。

 千里眼で恐る恐る見てみると、穴だらけのオメガザウルス君が見えてゾッとしました。

 その周りには、倒された強化ザコール軍団……。オメガザウルス君の破壊光線で倒された跡があるのが大半でしたが、何かがおかしいです。

 まるで、人間の拳や足に破壊されたかのような跡がたくさんある残骸が散見されたのです……。


「……え?」


 私は秘密基地の中を見てみました。そして、恐怖で思わず息を吞んでしまいました。

 秘密基地の中は、ボロボロにされた制圧部隊が数えきれないほど倒れていたのです……。そして、その先にいたには……。


「今は気絶だけで済ませている。これ以上こちらに危害を加えたら全員殺す」

『わ、わかった、わかりましたから……』


 連絡用のデバイスを奪って敵パイロットの少女に脅しをかけていたのは……両手にハンマーを持った司令官でした。

 援軍に来たザコールの新たな部隊が、秘密基地から帰って行くのを感じます。

その赤いバイザーを輝かせて、こちらを振り向きました……。


「うわああっ⁉」

『どうした、モエコ?』

「し、司令官が……し、し、司令官が……」

『俺に任せろ。話してくるよ。なんかわけがあるんだろう。あまり接点がない俺との方が話ができるかも。見守っててくれ』

「え、ええっ……。い、うん。わ、わかったよ。……待ってるね」

『おう』


 ユーキ君の操るドフールは、無傷の司令官と気絶して重傷を負っている制圧部隊がいて、ザコールの残骸とオメガザウルス君の分身の死体が転がっている秘密基地に向かって行きました。


「お、おじさんは⁉」

「博士。おじさ……あ、いえ、司令官は無事です。ですけど……その……あの、一緒に見守っててもらえませんか?」

「……?」





 ボロボロになって地獄絵図のようになった秘密基地。

 司令官は秘密基地の中から、冬眠から目覚めたクマさんのようにのそりのそりと出てきました。赤いバイザーを光らせて、口はいつものようにへの字に閉じていました。

 そこに、ユーキ君の操るドフールが優しくフワっと着地してきます。そして、コックピットから地面にサッと降りてきました。


「司令官、大丈夫ですか?」

「ああ。お前たちは?」

「博士もモエコも無事です。あと、また新しい友達が増えました。国規模で」

「……そうか」

「司令官、聞きたいことがあるんですけど……地球防衛団って本当は違法な組織なんじゃないですか?」

「ああ、そうだ」

 と、司令官はいいました……。


「私たちは、違法武装組織、いわゆる、テロリストだ。世界政府の要請に従わず、勝手に行動している。教授が、警告し、侵略者が実在するという証拠を残しても、世界政府の上層部は誰も抵抗しようとしなかった。それどころか、侵略者に地球を明け渡し、そこに住む人々を見捨てて、一部の権力者に都合のいい人的資産として選ばれた、一部の人間だけ地球の外にある別の惑星に脱出しようとしたのだ。そして、奴らは本当にどこかに行きやがった。教授の発明した宇宙船で、教授が発見した、人間が住める星にな」


「……マジかよ。じゃあ、ここにやってきたこのザコール軍団は……」


「ああ。移住先の惑星から命令を受けた者たちだろう。見捨てられたも同然なのに、生真面目な奴らだ。その忠誠心だけは尊敬に値する。だが、私は地球を見捨てられなかった。弟が愛した地球を、そこに住む人々を。このまま侵略されれば、私たち兄弟のような超人類しか生き残れない。……私は、弟が救おうとしてきた者たちを、見捨てることなど出来なかった」


「……ドフールを発明して、侵略者を警告した教授って……」


「そうだ。私の弟だ。戦場を初め、ただ暴力で破壊していた私と違い、彼は世界のために様々なものを生み出していた。そうすれば、愛されると思っていたのかもしれない。だが、彼が得たのは、愛情ではなく、畏敬の念であった。自分たちより圧倒的な知力を持つ者など、友として認められるわけがない。この地球上に、愛情を感じさせてくれる者がいなくとも、この宇宙のどこかにはいるかもしれないと、考え始めたのだろう……」


「もしかして。魔女って……⁉」


「そうだ。幼い頃、弟が発明品で宇宙にメッセージを送り、ファーストコンタクトをした者だ。おそらく魔女は、弟から地球のことを聞いて、目を付けたのだと思われる。弟は、その責任を取ろうとして宇宙に向かった。そして自分が帰ってこなかったときのために、ドフールの設計図や数々の発明品をこの地球に残した」


「そして司令官は、弟さんが愛そうとしたこの世界を救おうと、今までの戦績とかも使いながら、この私設軍隊である、地球防衛団を秘密裏に組織した。そうか、正式な軍隊じゃないから、『地球防衛隊』じゃなくて、『地球防衛団』なのか……」


「ああ、そうだ。私は畏敬の念ではなく、恐怖されていた。私の暴虐の限りは、世界各国のいたるところで知れ渡っていた。だから、赴くだけで世界中の政府は黙る。お前たちの前からいなくなっていたのは、説得や交渉をしていたのではない。ただ、赴いて黙らせていた。脅迫していたのだ。モエコと博士にも、お前にも、様々なことを強要した。世界を守るためという理由だけで、すまなかった」


「けど、世界のためだったんだろ? 脅すのはやっぱりよくないけど、それしか思いつかなかった。それしかできなかった。それを全うした。色んな人が否定するかもしれないけど、俺は、司令官のこと許して肯定しようと思うぜ?」


「……そうか」


「おう。……ねぇ、あと、気になったんだけど、超人類って……」


「私や弟、モエコ隊員のような特殊能力を持つ人間全般のことだ。弟がそう言っていた。そして、ドフールはそもそも悪の超人類に対抗できるように発明されたものだった。自分がいつか、暴走した時のために。……アイツが恐れていたのは、自分自身で、自分自身が一番嫌いだったのかもしれない。自分を愛せないから、誰かに代わりに愛されようとしたのかもしれない。そもそも、私がもっとしっかり見ていてやれば、こんな事態にも、お前たちをテロリストにしてしまうこともなかったかもしれない」


「けど、なっちまったもんは仕方ないし。あと、司令官も友達、欲しかったんだろ?」


「今にして思えば、そうかもしれない。お前に真実と思いを話せてよかったと思っている」


「おう。……じゃあ、これからもよろしくお願いします。一緒に世界を守りましょう?」


「……。ああ」


 二人は握手を交わしていました。司令官は、本当に無二の親友を得たのでした。





 そこに、凄まじい地響きが迫って来ていました。


「お、なんだ?」

「地面からだな」


 ドガーン! とやってきたのは、オメガザウルス君がエネルギー源に、ウォープラント君が壊れた部分を補助、ライブリキッド君が川のように変身して移動を補助、ワットラット君が全てのシステムを操って操縦、ウォープラント君の切り離したツタに拘束されている乗組員たちとザコールパイロットたち、そして、オペレーターの私、設計と艦長である博士が乗り込んでいる、正規軍から鹵獲したドリル戦艦でした。


「……~っ⁉ お・じ・さ~ん! たぁ~!」


 博士は甲板から叫んで、司令官の元に飛び降りました。そんな彼女を、サッと司令官はその剛腕で受け止めました。ユーキ君もドフールを動かして受け止めようとしたようでしたが、わざと司令官に譲ったようです。

 博士は司令官に抱きかかえられながら、彼の胸をポコポコ力ない手で叩きました。

そして、その腕から飛び降りると、ユーキ君のこともポコポコ叩きました。涙目で。


「ぐす、ううっ、あ、アンタたち、オスザコ二人そろって、勝手に話してんじゃないわよ、バ~カ、ザ~コ! ど~せ男同士のなんたら云いなんでしょ! 仲間外れするんじゃないわよ!」

「ごめん、博士。そんなつもりじゃなかったんだけど、博士やモエコには、こういう重い話には関わらせたくなかったんだ。ですよね、司令官」

「そうだ。だが、このことを秘密にしていて本当に申し訳ない。……だが、これからも共に戦ってくれると嬉しいし、とても頼もしいと思っている。政府との交渉は、引き続き私が行う。もう今回のようなことは起こさないと誓おう……」

「ち、ちがう、ちがう、おじさん! どうして、もっと早く言ってくれなかったのよ! もっと早く言ってくれたら、ボク、もっと頑張ったり、おじさんに甘えたりなんて、しなかったのに、大人になろうとしたのに……ボク、ボク……おじさんが悪者たちから助けてくれて、教授のことが、おじさんの弟さんのことを尊敬してること話したら、みんなはバカにしたのに、おじさんは、耳を傾けてくれて、う、嬉しかった……だから、だから……」

「エメラルド……」


 博士と司令官、私が会う前から、二人は親密な中でした。

 この仲だったら、一番仲良しともいえるのに、お互いのことが理解できてなかったなんて、私にはその気持ちなんて、推し量りようがありません。ですが、いてもたってもいられませんでした。


「し、司令官!」気が付くと、私も降りてきていました。「司令官……その、えっと、今まで、司令官の気持ちとか、考えとか、その、気づかなくて、ごめんなさい。せっかく、テレパシーがあったのに、司令官と同じような人なのに、力を認めてくれて、隊員にしてくれたのに……ご、ごめんなさい、気づけなくて……」

「……いいんだ。悪いのは私だ」

「いや、ここにいる全員、地球を守る素晴らしいヒーローの一団だと思うぜ、俺は」

「ゆ、ユーキ君⁉」

「司令官が地球防衛団結成して、博士が教授のドフールとか作ってくれて、そんでもって、モエコが俺のことを見つけてくれた。みんなが、間違っちゃったとか、悪いと思ったことも、地球やみんなのことを考えて行動したから、今までみんなのことを守れたんだと思うんだ。みんなと出会って、一緒に戦えてよかったと思うぜ。みんなが自分のこと許せなくても、俺が許すよ」

「ユーキ君……ありがとう。あなたがそう言ってくれるなら、なんだか、許せるようなきがしてくるきがするなぁ。自分たちを、私たちを……」

「おう。これからもよろしくな」

「う、うん」


 ドガシャン! 

 突然、秘密基地の着陸台に大きな穴が開きました。そしてそこから、地下帝国から脱出してきたマンバグズたちが出てきました。


「あら、我が子たち! よくみんな無事だったですわね!」

「女王様!」

「なぜここに⁉」

「あ、あの、ここ既になんか完成されているのでこのまま新たな帝国として取っちゃいませんか?」

「そうね~……いい考えですわ!」

「おい、ふざけんな、ここはおれたちの家だぞ!」

「おい、ザコザウルス! 勘違いしないで、アンタたち怪獣は捕虜なんだから!」

「ぼ、ぼくは、みんながいる方に行きます! ここで皆さんと一緒に働くの好きなので!」

「ビギャ、水野郎、急にどうしたんだ?」

「良いではないですか。皆さんで住んでこの星をこれからも守ってゆけば。お嬢様方のような美しい方々とも暮らしていけるなんて本望ですぞ~!」

「キモっ! ふん、アンタたち、すっかりボクのヘコヘコワンちゃんズになっちゃったわね~。これからもこき使って行くから、覚悟しておきなさい!」

「そうですわよ~! ワラワたちの帝国を破壊したことの罪を償うことですわ~!」

「アンタもよ、ウジ虫女王様! アンタを代表にして、全員こき使ってやるから!」

「……あ、こ、この度は申し訳ござ……って、だからまだ何もできていませんでしたわ!」

「……ちょちょ、待て、は、はぁ⁉ アタイたちを人質にする気が⁉」


 どこかの惑星が本部である正規軍の、ザコール軍団のパイロットたちとドリル戦艦乗員は震撼しました。


「なるほど、精鋭のお前たちを人質にとれば、地球外の臆病者どももこちらにはもう手を出さないだろう。さっそく、交渉に行ってくる。秘密基地の修理を頼む」


 そう言うと、司令官は凄まじい身体能力でサッと消えてしまいました。凄まじい高速移動です……怪力と耐久力、人間の大きさになったドフールみたい……。


「うお、マジかよ⁉ ああやってコイツらも倒してたのか⁉ なるほどな~」

「もう、おじさんも大人のくせにすっかりぼくらを頼るようになっちゃったね~。ふふん、じゃあ、さっそくぅ~!」


 すると、博士は怪獣たちを身に纏いました。ウォープラントは髪留めに、ライブリキッド君はそのスラっとした体の表面について潤わせ、ワットラット君はブレスレットに宿り、最後にオメガザウルス君の宿る熱線銃オメガブラスターを可愛く構えました。そして、その横に、スッとバグズクイーンが並んで、カッコ悪いポーズを取りました。


「さぁ、ボクの命令に従いなさい! ザ~コ!」

「え~……⁉」と、捕虜になった皆さん。


 そのあと、本当に博士は怪獣君たちや捕虜たちをすっかり手下にして、順調に秘密基地の修理と改修、人質になる正規軍の制圧部隊の手当てや治療にとりかかるのでした……。





「ユーキ君、今日も、お疲れ様」

「おう。……モエコ、それにしても、すごい格好だな……」

「ん……? あ、うわああああっ⁉」


 私は、恥ずかしさのあまり、ヘナヘナ座り込んでしまいました。

 まだ、ウォープラント君が作ってくれた、露出度の多いビキニアーマー姿のままだったのです……!

 すると、ユーキ君が顔を真っ赤にしている私に、そっとパイロットスーツの上着をかけてくれました。

 暖かい……。ユーキ君の匂いがする……。ユーキ君の体温、彼が生きていると、感じます……。


「ありがとう……」

「おう。……うおっ……」

「あっ、ユーキ君! 疲れたんだね、や、休もう?」


 すると、ドフールが膝をついて、手を貸してくれました……ような気がしました。それで私たちを支えてくれました。


「ユーキ君、ほ、本当に、大丈夫?」

「おう。疲れただけだぜ。眠れば大丈夫だよ。……。……。ありがとうな、本当に。いつも俺たちのこと考えてくれて。モエコのこと、大好きだぜ」

「ゆ、ユーキ君⁉ そ、それは、えっと……」

「ありがとう、モエコ。モエコに会えたおかげで、地球のみんなも守れたし、なりたかったような男になれた気がするぜ。……じゃあ、おやすみ。また明日……」

「ユーキ君?」


 ユーキ君は、動かなくなってしまいました。しばらくその閉じた目の顔を見ていましたが、途端にゾッとしたような感覚がしました。ドフールが、彼の命を吸ってしまったのではと。思わず、息を吞みました。

 ですが、安心しました。ユーキ君は、本当に眠っているだけでした。安心しました。

みんなも、元気。大好きなユーキ君も元気。よかった。本当に。

これからも大変なことがあるかもしれないけど、これからも、なんとかなりそうな気がしました。


「ユーキ君。おやすみ。ゆっくり休んでね」


 私は、そのユーキ君の唇に、キスをしてしまっていました。ですが、彼はまだ眠ったままです。ゆっくり休んでいてほしいと思いました。

 いつの間にか、夜を過ぎて、朝日が昇って来ていました。また朝を迎えた世界と私たちを、ドフールは守護神のように、いえ、守護神として見守っていました。


 ちょっと待て、黒幕である魔女のオレの出番は⁉ え、終わり⁉ おい、お~い⁉


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