ドナドナドーナードーナー♪
ドナドナドナドナ
ロゼリを乗せて
ドナドナドナドナ
馬車は揺れる
「ロゼリ」と目の前に座るノアに呼ばれて現実へ帰ってくる。
「いったいどうしてこんなことに…てか、呆然とし過ぎてお母さんたちにちゃんとお別れ言えなかった!よし、戻ろう。」
馬車の扉に手をかけた私の手をすごい力で掴み阻止するノア。馬車は動いていて降りれないって分かってるはずなのになんて力だ。いちゃい。
「もう後戻りはできない。それに、会いたいのなら新しい住居があるジュエル国へ行けばいい。」
ジュエル国、昔社会で習ったがその名の通り宝石が多く取れる国で宝石以外でも水は豊富で穀物も良く取れる土地らしい。スイーツ国といい設定が曖昧でふわふわしている。それはさておき、ジュエル国はそれ故色々な国から狙われており、ジュエル国の王族は昔から国交のある国でも王族やそれに近しい人間としか未だに会わない警戒ぶりだと聞く。
国交や貿易は警戒しているが、旅行には寛容で各国で発行されている手形さえあればジュエル国へ行き来するのは簡単だったはずだ。
「…ジュエル国ってどのくらいの遠さなの?」
「まあ、早馬で2日、馬車で5日くらいのところだな。」
おんぎゃ、いって帰るだけで学校を10日以上サボることになってしまう!!
「遠いね…。」
「まあ、夏休みにでもいけばいいじゃないか。」
この学園にも前世の高校らしく夏休みなどの長期休みがある。もっとも夏休みはそんなに暑くならない国の避暑期間なのでおよそ2週間余りしかないのだが一応ある。
逆に冬休みはとても長い。雪が降り積もるのでひと月半程学校は休業だ。
「そうねぇ…ジュエル国で夏休みか…ジュエル国…あ、ねぇノア。」
「どうした。」
「そういえば聞きたいことが何個かあるの。…ノアはさ…やっぱり平民の特待生なんかじゃないんでしょ?ノアはさ…その国の、ジュエル国の王子なんでしょ?」
私は確信していた。入学式に話していた内容、リリアンのとの会話、そして今日の事…全てを総合するとその解が導かれた。リリアン曰く彼は“スイスク”の攻略キャラらしいが私はそのことを知らなかったのだし、それを加味すると我ながら天才過ぎる鋭い推理だと思う。
だというのにノアは少し呆れたようにこれ見よがしに大きくため息を付く。解せぬ。
「…もし、そうだと言ったらどうするんだ?」
そういわれると…。
「いや、どうもしないけどさ…。」
そう、どうもしないのだ。ただ事実を確認したかっただけで秘密をどうこうしようという気はない。
「ただ、ノアがどうしてここまでしてくれるのかがわからないなって。」
「ハハッ…そうだな…そうだろうよ…。」
乾いた声で少し笑い、それだけいうと彼は黙ってしまったのでこの話をつづける気はないのだと分かり、再び夏休みの話に戻る。
「夏休みか…あと、ふた月半くらい先だよね?長いなぁ…。」
「…そうだな。」
「ノアも一緒にジュエル国へ行ってくれるんでしょ?」
「ッハ、当り前だ。お前ひとりでなんか危なっかしくて行かせられるか。俺にとっては母国だからな、仕方がないから案内してやるよ。」
何となくだが、いつもの皮肉った言い方なのに嬉しそうに見えた。
よく考えてみると今日のノアはすこぶる機嫌がいい。最近学校ではイライラしていることが多く、よく髪を指で遊ばれたり頬を引っ張られたりツンツンされた。今日、母と父、私とノアで居た時も黙っていたがなんだが鼻歌を歌いだしそうなくらい楽しそうな雰囲気だった。
自国の別荘を貸し、仕事を紹介してお金を貸しただけだろうに何がそんなに嬉しくて楽しかったのかは分からないが、ノアが嬉しいのならそれでいいかと思う。
「リリアンは勿論来てくれるよね?ナターシャも来てくれるかな?あと…」
「…ッ!?2人じゃないのか!?」
「え、2人だけじゃなきゃダメ?王子とキールさんも誘おうと思ったんだけど…けどそれじゃあノア男子一人になっちゃうよ?」
「…ハア。もういい。」
なんだがカチンときたが突っかかるのもあれなので暇なので仕方なくゴトゴトと揺れる馬車の外を見る。どうやら学園の近くのようだ。
確かこの辺りに新しくできた大きなお屋敷があったことを思い出す。
多分そこがノアの住居なのだろう。そして今日からは私の住処。
「さて、がんばりますか!」
ロゼリはそうつぶやき「えいえいおー」と自分自身を激励した。