ある男の話【1】
SIDE Nにしたらナターシャと被ることに今更気づきました。
____ああ、これはいつもの夢だ。昔の記憶の夢。
「ねえ、泣いてるの?」
幼い俺はうるさい黙れと言わんばかりに声は出さず、ただ覗き込んでくる顔に背を向ける。
今じゃその顔は覚えていない。覚えているのはその子が女の子なのにズボンを履いていたこととフワフワの茶髪をポニーテールにしていたこと。
「どうしたの?」
姉上と兄様にいじめられたんだよ。まあ、見ず知らずのお前なんかには教えてやらない。
勿論声は出していないのに目の前の女の子は笑顔で話しかけてくる。
「お腹すいてる?クッキーあるよ。あ、これチョコチップだ…チョコ平気?なら食べる?」
施しのつもりか?などと考えていると、ぐいぐい頬にクッキーを押し付けてくる。
女だというのにズボンをはいた可笑しな女の子。俺の会いたい人。
会ってお礼を言いたい恩人。兄姉にいじめられているのに親はそれを無視して侍女や執事たちも慰めてはくれなかった。遠征先でもいじめられて耐えかねた幼い俺は勢い余って家出をしてしまい夕暮れ時、途方に暮れていた時に出会った女の子、汚れている俺に見ても何も言わずに話しかけ、返事がないのに話しかけてきて一人でしゃべって笑っていた変な女の子。
「クッキーを押し付けてくんな。汚れるし、…お前のアホが移りそうだ。」
「何をー!!うきー!!」
女の子がサルみたいな怒声を上げるので爆笑してしまった。
あー可笑しい。こんなに笑ったのは久しぶりだな…。
そこで目が覚めた。あの女の子は今どこで何をしているのだろうか。
まだズボンを履いているのだろうか。
顔も名前も分からないが、遠征先であったこのスイーツ王国にいることは確かなのだ。
俺は、彼女にお礼を言うためこのスイーツに来た。
茶髪でフワフワの髪なんてそれこそ腐るほどいる昨今で見つけるのは至難だろうが、俺は何としてでも見つけて見せる。
そう決意を新たに入学式をした次の日、入学式の日に落としてしまった大切なロケットペンダントを捜していると俺はヘンテコな令嬢を見た。
大雨でずぶ濡れになる中、傘を振り回しながら踊る令嬢。
___茶髪に、フワフワの髪。
満足そうな笑みをたたえて踊る彼女の瞳は水色で、さながらいたずら好きな水の精のように愛らしく可憐だった。気が付いた時には彼女の視界近くまで出ていた。気づいたらしい彼女に俺は慌てて取り繕った軽蔑の目で見る。近くで見る彼女の顔はやはり愛嬌があり、ずぶ濡れの身体は庇護欲をそそられた。
これ以上関わってはいけないと脳が警告するので俺は立ち去ろうとしたのだが止められた。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「…ッ!!それ以上寄るなよ!?」
___コイツ、自分の恰好自覚してないのか!?
身体中ビショビショ、寒さのせいか頬も鼻も赤くそれがやけに色っぽい。
___襲うぞコラ。と言うように眉間に皺を寄せる。
「…濡れるし、アホが移りそうだ。」
ワザと悪態をつくと彼女は一瞬しょげるが、すぐに立ち直り「あ、あの…今回の事、他言無用と言いますか特に家とかには内密にしてほしいといいますか…。」と身体揺らし上目遣いで言ってくる。
とんでもない破壊力だ。
「なるほどな…内密にしてほしいと、…タダで?」
「へ、変態ッ!」
雨の中舞っているから変だとは思っていたが本当に思考まで変な奴だった。面白い女。
俺は興味をそそられた。
「は?何を本気にしているんだ。俺はただお前からかっただけだが?なんだお前、イヤらしいことでもされると思ったのか?この変態。」
「なー!!」と顔を真っ赤にして叫ぶので笑いがこみ上げる。
さっき顔を赤くしていたと思ったら彼女は今、悪い顔をしている。何故だ。
「そういえば貴方は昨日もこんなに朝早かったんですか?今日こそは私が一番だと思ったのに…。」
「…まあ、そうだな昨日と同じが今日は昨日より早く来た。」
それがどうしたというのだろうか。
「ふぅん…じゃあ、貴方ですね?」
「…何がだ?」
嫌な予感がして、心臓がドクリ一度大きく鳴る。
「私、偶然聞いちゃったんですよね昨日…」
まさか…。
「…何をだ?」
「貴方が秘密裏に留学してきた他国の王子様だということを!!」
彼女はここぞとばかりに悪女のような高笑いをする。
昨日の3人で話していた場面を、彼女に聞かれていたということだろう、これはまずい…。何とか切り抜けなければ。
「__は?なんだそれ?俺はただの特待生だぞ?秘密裏に留学?ファンタジー小説の読み過ぎか?アホか?両方か?あ、アホか。」
「____え。」
普通はこんなのじゃ騙されもしないが、アホなのか彼女は動揺していた。そこで俺は別の話題にずらす。
「おいアホ、名前は。」
「え?あ、ロゼリ。」
__ロゼリ。ありがちな名前だな。などと自分の名前は棚に上げて思った。
「じゃ、またな。ロゼリ。」
俺は緩む口元を隠すように速足で振り向かずに校舎の方へ歩いていった。
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「おい、ジョシュア。」
そう呼ぶと寛ぎながら本を読んでいたこの国の王子がうさんくさい笑みを浮かべながらこちらを向く。
「どうしたんだいノア。ペンダントは見つかったか?」
「それどころじゃない。いや、それも大問題なんだけどな、昨日、入学式前に話していた内容の一部始終を一人の女生徒に聞かれていたぞ。」
そういうと王子の顔から笑みが消える。
「それで?その女生徒はどうしました?まさか、野放しに?」
「ああ、中々アホな奴で特待生だと伝えたら簡単に信じてくれた。だからなんの心配しなくていい。」
「ふーん…他の人に露見することがないならいいけど…一応監視を強めておこう。」
監視とはすなわち生徒の事である。
校内には王子の息のかかった貴族の息子や令嬢がわんさといた。
なので、校内に流れるどんな些細な情報もジョシュアには筒抜けなのだ。
「それで?そんな要件なら無精なノアがわざわざ僕の部屋に来るはずないと思うんだよね。」
流石は俺の親友であり、のちのちこの国を背負うジョシュア王子だ。鋭い。
「実はな、そのアホで騙されやすそうな甘ちゃん女生徒の時間割を手に入れて欲しい。全く同じ時間割にしてほしいんだ。勿論、受けなければいけない授業は受ける。」
王子は面白そうに目を細めながら「ふーん?」と言う。
「その子はもしかして、君がわざわざこの国まで来させた理由の彼女ということかな?」
「いや、違うと思うぞ。もっとこう…お節介な姉貴って感じだった気がする。如何せん俺は彼女を覚えていないし、それに彼女に会いたい理由はこの感情とは違って敬愛だ。そして俺はただ会って礼を言いたいだけ。今日出会ったばかりのアホ女…ロゼリという令嬢なのだが、奴は女として興味がある。」
「へぇ、一目惚れってやつだ。ロマンチックだね。」
他人事のように言うジョシュアだが、その言葉はそっくりそのままジョシュアにも言えるはずだ。ジョシュアは一目見た時から婚約者リリアン嬢のことが気に入っており、今ではリリアンに近づく男にすら牽制をするくらいリリアン嬢の事を溺愛している。俺は実際にリリアン嬢とあったことはないが、ジョシュアの口から何度も惚気を聞いているので何となくだがリリアン嬢という人物像は分かる。
「これならこの国へ来た大義名分、花嫁を探すためってのも本当に済ませちゃうかもね。」
一応この国への極秘留学にあたって両親にはスイーツ国とのつながりを深めるために文化や歴史を学び、スイーツ国で花嫁を探すということになっている。
「でもさノア、相手は誰だっていいけど結婚しようとしてもペンダントがなきゃ結婚どころか国にも帰れないんじゃない?」
「ああ、そうだな。」
そう、俺が落としたあのペンダントはただのペンダントではない。
中に王家代々伝わる対の指輪が入っているロケットペンダントなのだ。
それが無ければ国へ帰ろうにも帰れない。
「久々にやらかしたねノア。」
ニヤニヤと嬉しそうに笑うジョシュアに少しイラっとする。
「うるせぇ。とにかく色々頼んだぞ。」
「了解。ペンダントの件も任せて、監視たちにも内容は言わずに探させるから。」
俺は短く「よろしく。」とジョシュアに告げて薄く笑みを浮かべながら部屋から出て行った。
___この先の学園生活、中々面白そうじゃないか。
この読者にはバレバレな二人がいつ…なんでもないです。はい。
見守っててください。




