10.ドラゴン娘と炒飯を頬張る
インスタントのわかめスープに、烏龍茶とコップも用意して準備は完了。
「それじゃあ頂きます」
「イタダキマス」
まだ熱々の炒飯をレンゲで掬い取って一口で頬張り、ハフハフと熱を逃がしながら香ばしい米を噛み締める。
うん、上出来だな。
御飯はちゃんと解れてパラパラに仕上がってるし、かといってパサついてもいない。
葱と醤油の焦げた香りも香ばしい。
角切りの煮豚も食べ応えがある。
スープとの相性も抜群だ。
頬張った炒飯を、ちょっと行儀悪いけどスープで流し込むようにするとこれがまた…。
「ん?」
ふと、妙に静かだな、と正面に目を向けてみると…。
ハフハフガツガツモグモグ
一心不乱に食っとる!
ていうかペース早!
俺より多かったのにもう半分無いのかよ、俺まだ三分の一ぐらいしか食ってないぞ。
ズズッ
「ふぅ…あ」
そこでようやく落ち着いたのか、スープを一口啜って一度手を止める。
同時に自分の勢いと俺の視線に気付き顔を赤らめた。
「す、すまぬ。みっともない所を…」
「いや、それは良いけど、そんな気に入ったのか?」
「う、うむ。勿論美味いのは美味いのじゃが、それ以上に今迄それほど美味い物じゃとは思わなかった白麦が、これほどの美味になるとは思わず、つい…」
ああ成程、今迄微妙な味の雑穀粥でしか食べた事の無い白麦が思った以上に美味かったんで、つい夢中になったと。
「まぁ気に入って貰えたんなら何よりだよ」
「うむ、本当に美味いぞ!」
「…しかし炒飯とは言え、ディーネは御飯の味とか匂いとか平気なんだな」
「ん?何がじゃ?」
「いやな、外国の人間だと結構いるんだよ、炊いた米の味や匂いがダメだって人。炊き立てだと特に。だからそれもあって味や匂いが気にならない様に炒飯にしたんだけど」
「そうなのか?確かに癖のある匂いじゃったが、我はそんなに嫌ではなかったのう」
そういえばさっき炊飯器の御飯を見た時も、物珍しげではあったけど特に嫌そうな様子は無かったな。
「ふうん…。昨日から食べた物はどれも口に合ったみたいだし、日本人に味覚が近いのかな?」
「ふむ、と言うより、種族的な物かもしれんな」
「種族的、ってドラゴンの?」
「うむ」
パクッモグモグ…
言いつつ一口。
真面目に考察してるような顔してるとこあれだけど、口の端に米粒ついてるぞ。
「我等竜は数千年は生きる長命な種族なのじゃが、精神の作りは人間を始め他の種族とさして変わらぬのじゃ」
「長命なのに精神が変わらない?百年程度しか生きない人間と同じ程度の精神力しかないんじゃあ、色々と問題がありそうな気がするが…」
「その通りじゃ。余りにも長く生きる竜は、その膨大な経験の所為で周囲のあらゆる事に“慣れて”しまって、感情が動きづらくなり無感動になっていってしまうのじゃ。長老連中ともなれば、一日殆ど動かず木石と変わらぬような状態になってしまっておる」
…それは心を守る為もあるのかもしれないな。
膨大な経験の中には、当然悲しい事や辛い事だって山の様にあるだろう。
心も体と同じ様に疲弊するし傷も付く。
永い年月で摩耗した心を守る為に、敢えて心を抑え込む。
そういう事もあるのかもしれない。
「しかしこのスープ、ちゃーはんと合わせると最高じゃの(モグモグ)」
ええい、人が偶に真面目な事考えてるのに!
「(ゴクン)ふぅ。で、長老連中は尊敬の対象ではあるが、さりとて出来るだけ長く心ある生を送りたいと思うのは当たり前じゃろう?」
「そりゃそうだろうけど、それと味覚に何の関係が?」
「要は刺激に慣れてしまう事が問題なのじゃ。ならば外からの刺激を出来るだけ敏感に感じ取るようにすれば良い。それが良い物でも悪い物でもな」
つまりそれは…。
「…刺激を受け入れやすい?出来るだけ心を揺り動かして、感情が固まらない様に」
「そういう事じゃ。じゃから見た事の無い食材や料理も直ぐに食べる。余程好みに合わんものでもない限り、余り不味いと思う事も無い」
確かに一瞬躊躇ったとは言え、向こうではありえないであろう半熟卵も直ぐ食べてたな。
麺を啜るのも割とあっさり受け入れてたし。
「誤解の無いように言っておくが、コーヘーに食べさせてもらった料理は本当に美味いと思っておるからな?」
「それはまぁ、あの食べっぷりを見れば分かる」
「うぐ、仕方あるまい。本当に美味いんじゃ。間違いなくコーヘーの料理は我が今まで食べてきた物の中で一番美味い」
「…」
さ、流石に照れる!
俺は照れを誤魔化す様に、冷めかけた炒飯を搔っ込むのだった―――




