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第六話 騒音妖怪
若い頃の私は、夫の寝顔を見るのが好きだった。
静かな寝息。 安心しきった顔。 時々ぴくりと動く指先。
スヤスヤ眠る姿を見ていると、妙に母性をくすぐられたものだ。
「かわいいなぁ」
そう思いながら隣で眠っていた。
……あの頃は。
現在、深夜一時。
リビングから地鳴りのような音が響いていた。
ゴゴゴゴゴ……。
私は静かに目を閉じる。
来た、騒音妖怪である。
夫はソファーに横たわったまま、口も目も半開きにして眠っていた。
いや、これは本当に眠っているのか…。
もはや工事現場ではないのか。
「グゴォォォォ……ッ!!」
突然イビキが爆発する。
壁が微妙に震えた気がした。
これは人類の呼吸と言って良いのだろうか。
しかも厄介なことに、たまにビクッ!!と身体が跳ねる。
「うわっ!」
毎回びっくりする。
だが本人は起きない。
イビキは継続する。
ゴゴゴ……ッ。
グゴォォォ……。
一定のリズムで住宅街へ騒音を放出していた。
以前、子どもが小学生だった頃、
「お父さん、猛獣みたい」
と真顔で言ったことがある。
私は否定できなかった…。
深夜二時。
さすがに限界を迎えた私は、夫の肩を揺する。
「ちょっと! イビキうるさい!」
すると妖怪は薄目を開け、
「……おう」
それだけ言って再び眠った。
三秒後。
グゴォォォォォッ!!!!
状況悪化…。
結婚三十年。
夫の寝顔に殺意を覚える。




