紙片
ポケットの中に、紙の感触があった。指先は迷わずそれを引き抜いた。古びた紙に赤いインクで印刷された文字。
――Laughrain Circus
「らふれいん……さーかす?」
裏返すと席番号のようなものがある。文字だという認識はできるが、理解ができない。視線を落としたまま、しばらく動けなかった。読めているはずなのに、意味だけがすり抜けていく。まるで最初から、理解できないようにされているみたいに。
買った覚えも、貰った覚えもないチケット。不思議だとは思う。それでも、捨てようとは思わなかった。頭のどこかで、おかしいとはわかっている。それなのに、これを手放すという発想が浮かばない。
少しだけ視線を逸らすと、目の前にテントが見えた。古びた布でできた大きなサーカス小屋。色褪せていて、本来の鮮やかさを思い出せない。入口の脇に小さく看板が立てられている。
――本日の演目:
そこから先の文字は読めなかった。
テントの中から笑い声が聞こえる。その音に、わずかに混ざるものがあった。泣き声のような、叫びのような、うまく形にできない音が、かすかに重なっている。
ふと見ると、入口の幕がわずかに揺れている。入ることを拒んでいるようにも、招いているようにも見える。少し迷ったが、気づいたら手が伸びていた。
歓迎されている。そんな錯覚とともに、幕を押し開けた。




