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初デートは、1対4!?

「初めまして・・・・。あかりの兄のたけるです。

 許嫁いいなづけの妹がいつも()()()()()()()()()()()()()、ありがとう。」


いいなずけ~っ!!?

そう言われてその場の全員が固まった。

・・・・あ、そういえば、私とお兄ちゃんって両親が結婚させようって決めた仲だから、一応、私はお兄ちゃんの許嫁になるのか・・・・。

か、考えたことなかった。

2人どころか私まで固まっていると、そこへはじめがやってきた。

「あ~、皆早いねっ!まだ時間じゃないでしょ?

 待たせちゃった?」

と、明るく元気に言う。

今日の初は、黒を基調としたゴスロリ風の衣装だった。

普通だったら、「うわ~、ゴスロリ着てる~・・・・・っ」って引かれるところだけど、はじめが着ると「可愛い・・・・」という感想しか出てこないのが、辛い。

わたし・・・・・・いま、女の子なのに完全に負けてるかも・・・・・。

みると、はじめは、大きな手提げも持っていた。

はじめ。それは?」と私が尋ねると「うん。皆の分のお弁当、作ってきたのっ!!」と嬉しそうに言う。

・・・・・・・負けてるやん。

私、完璧に女の子として負けてるやん。

しかもそれを象徴するかのように男子3人は、全員、未だにはじめを見て固まっていた。

眼を見たらわかる。絶対に「可愛いっ!!」って思っている眼だ。

私の時は、先ず睨みあいを始めてたくせに・・・・・。ううっ。男に女の子として負けるってどういうことなのよ。

私が、がっくりしているとはじめは、キョトンとした顔で「なに?どうしたの?」と、不思議そうに尋ねるのだった。


「ええ~っ!!今時、許嫁~っ!?」

はじめは、お兄ちゃんをジロジロ見ながら不審そうにいう。

反対にお兄ちゃんはびっくりした顔ではじめを見ていたが、そのうち我にかえって

「こ、これが・・・・男かっ!?」

と、声を上げた。

その声を聞いたはじめは衝撃的な顔をしたかと思うと、腰砕けになって私にすがってきた。

「・・・・・マジ?・・・何この恥骨に悪すぎる声は・・・・・。」

ああ~、はじめもそうなっちゃうかぁ~。わかるわかる。

私は一応、フィルターをお姉様に付けてもらっているから、ある程度まで耐性あるけど、はじめてこの声を聴いた女の子は、そうなっちゃうよね。

てか、はじめ。多分、内面的にも女の子に磨きがかかってるわね。男の身でありながらこの声に恥骨をやられるとは・・・・・。

「恋は女を成長させるものじゃ。はじめの内面が女に近づいているのは至極当然のことじゃよ」

ふ~ん。お姉様がそうおっしゃるなら、そうなのね。

はじめは女の子として成長している・・と。

・・・・・それが、なんで私に好意を抱いてるんだろう?

あ、そっか。

女装レズって奴か。意味わからない言葉だけど、要するに疑似百合ってことね。

でも、私レズは嫌だなぁ。他人がどうしようと勝手だけど、私、男の人がいいし・・・。

あ、でも。()()()()からいいのか。

「何の話をしておるのじゃっ!!お前はっ!!」

えっ・・・・・?

何の話って・・・

・・・・・・・ああああああああっ!!今のなしっ!!今のなしですっ!!お姉様っ!!

「うるさいわ。それよりもお前らいつまでここにおるつもりじゃ?」

そういわれて、私たちが美術館の前で固まって話し合っている悪い子たちだと気が付く。



「あ、あの。・・・・・つもる話もあるだろうけど、まずは、並ばない?ここ、往来の邪魔になっちゃうし・・・・・。」

私が恥ずかしそうにいうと、男子4人は、ハッとした表情をして、自分たちが通行の邪魔になっていることに気が付く。

「こほん・・・・・じゃ、じゃぁ。並ぼうか?」

不知火先輩の提案で、隆盛りゅうせいはじめ・私一人・お兄ちゃんと不知火先輩。という順番で並ぶことになった。

・・・・・・・・・・・・ナニコレ?

どういうこと?私、人生で初の男の人とのデートが4人同時でしかも、女の子一人で並ばないといけないの?

私、可哀そうすぎない?前世で何か悪い事した?

「前世というか、先祖が悪い事をしたのじゃ・・・・。」

そうでした。

まぁ、おかげで私は女の子になっちゃったんだけど。これって先祖の罰を被ったというよりも、もうお姉様による恩寵おんちょうよね。

「うっせーわ。・・・・と、おおっ!!これが大理石像かっ!!」

お姉様は愚痴りながら美術館の中に入りながらも、私の目を通してみるギリシャの大理石像に目を輝かせた。

「ほ、ほ~。た、大したものじゃのぅ・・・・・・・。」

お姉様が驚嘆して賛辞を贈る。

普段、美術に興味がなさそうな隆盛とはじめもその美しさとスケールに驚かされていた。

「こ、こりゃ、すげぇな。美術や歴史の教科書でみてたけど・・・実物のすごさは半分も伝わっていないんじゃないのか?」

「本当・・・・すごくキレイ・・・・。」

二人は多分、本物の美術に今初めて出会ったのだろう・・・・。子供のように感動していた。

そんな二人に不知火先輩が言う。

「写実的でありながら、プロポーションは非現実的な部分も取り入れて、それが更なる美しさを醸しでしているんだよ。一説によるとね。ギリシャのメドゥーサ伝説にある「目を見た者は石に変えられてしまう」という伝説は、異国の者がギリシャ神殿にある大理石像を見て人間が石に変えられたと誤解したことに始まると言われていてね。それほどギリシャの芸術のレベルは、世界と比べて高かったんだ。」

その説明を聞いて納得する二人をくすりと笑いながら、お兄ちゃんは美術館が有料で提供している音声案内を人数分、買ってあげるよと言った。

「学生の内は、何事も勉強だから・・・・・」って、自分も生活が苦しいのに、私たちのために買ってくれた。

もう、見栄っ張りなんだから・・・・・。新人声優さんのお給料だけじゃ食べていけないって有名なのに、無理して人数分、買わなくてもいいのよ。

私が心配そうに見つめていると「俺は大人だから、こういう時はカッコつけさせてくれよ・・・。」

といった。

でも、はじめは「人数分は大変だから。私は隆盛と一緒に聞くからいいよ。うん、全然いいのっ!!」と断ってきた。

ううっ・・・・いい子じゃないか・・・・・。

お嫁さんにもらうなら、こういう健気な子がいいよ・・・・・・。

って、私はもう貰われていく方だけどね。


美術館の中は大盛況だった。道行く人があまり立ち止まらないように注意されるほどの人で一杯だった。

この大理石像の特別展示は毎回、大盛況。だって、こんな美術品、素人が見たって感動されるんだもん。

私と不知火先輩は、もう食い入るように大理石像を見て、古代の芸術家の魂を感じ取ろうと必死だった。

その姿はデートと言うよりも勉強会の学生のようだった。男の子だった時。こういうカップルの存在が不思議だった。お互いが、もう話し合うこともなく、芸術品を凝視しているだけの時間。

(なにが楽しいんだろう?)って、ずっと思っていた。

でも、今ならわかる。

私たちは、言葉もなく、視線も交わさないけど、お互いが同じものを見て、同じように芸術を肌で感じる時間を確かに共有しているんだ。

だから、不思議な事に大盛況の展示会の雑音が私の耳には入ってこない。ただ、ただ。空虚な空間に私と不知火先輩だけが立っているだけ。二人は寄り添って立っているわけでもないのに、とても共感しあっているのがわかる。

(ああっ!!なんてステキな芸術。私もこんなものを産み出して、あの人に見せてあげたい。そして褒められたい・・・・・。)

そんな気持ちで繋がっている・・・・。そんな不思議な時間が流れていた。

その様子を見たお兄ちゃんが「やられたな・・・・。今日は俺たち3枚目らしいぜ」って隆盛ん話しかけているのが聞こえた。

隆盛は小さく頷くと「俺達、先に行って外で待っているから。アーティストさん二人は、遠慮せずに芸術を堪能してくれ。」といって、3人で先先さきさき進んでいくのだった。

・・・・もったいない。折角素晴らしい芸術があるのに・・・・・。私がそう思って不知火先輩を見ると、不知火先輩は完成された大理石像のように美しい姿のまま大理石像を凝視していた。

その美しさに通行人が足を止めて先輩を見るほどだった。不知火先輩は完成されていたんだ。

私は、不知火先輩の立ち姿の美しさにドキドキしながらも・・・・・不知火先輩の芸術家としてのレベルの高さに、改めて尊敬の念を抱いて見つめていた。

ああ・・・・やっぱり敵わないなぁ・・・・。芸術家として、私ってまだまだ不知火先輩には追いつけない。


そうして、私たちは美術館を出るまでにたっぷり2時間かかってしまった。

お兄ちゃんは缶コーヒー片手に呆れたような目で私たち二人を見ていたし、隆盛とはじめは、芸術品を見過ぎて頭が疲れちゃったのか、椅子に座って呆然としていた・・・・・。

私と不知火先輩はというと、大理石像の興奮冷めやらぬ状態でお互いに「すっごくきれいだったね」って興奮した状態で話し込んでいた。

しかも、美術館の出口付近にある催し物のパンフレット置き場で、隣の市でも江戸時代の浮世絵展が開かれているのを知った。私と不知火先輩がはしゃいでいると、お兄ちゃんが「車で送ってやるから見に行くか?」と言ってくれたので、私たち二人は大喜びで同意した。

「君たちはどうする?・・・・いや、聞くまでもないか。芸術酔いしたか?」

お兄ちゃんが楽しそうに話しかけると隆盛は、苦笑しながら言う。

「いや。全くその通りっす。でも、ま。今日は警戒する必要がないなってわかったので、俺はここでいいす。」

はじめも首を小さく縦に振る。

だから、二人とは、ここでお別れになる。

ふっふっふ。隆盛君。君は一つ誤解しておるぞ。

私は、芸術品を見ながら、それを愛する不知火先輩の姿を見てもっともっと不知火先輩のことが好きになっちゃうんだからっ!!



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