ドブネズミみたいに美しく〇〇〇〇!!
センパイの胸元が開かれ、薄い胸にうっすらと乗る大胸筋が見える。
鎖骨から首筋にかけての筋繊維の美しさに私もお姉様も生唾を飲み込む。
「え、偉い事じゃ・・・・なんというエロスじゃ・・・・・」
お姉様は呆然とする。
わかる。わかりますっ!!
だって・・・・・だって、
だって、こんなの、動くエロ本じゃないですかっ!!!
キレイな肌は女性のように艶やかなのに、男性らしい筋肉を備えている。
細い首、細い腕、細い腰に女性的な顔が付いているというのに、その一部分で先輩はちゃんと男性的だった。
女性らしい美しさと脆さに包まれた耽美な美しさが、部屋中に香ってくるような色気に包まれていた。
こんな耽美な美少年に、二人っきりの美術室なのに目の前で脱がれて、動じない女の子なんかいないっ!!
私は、もう心臓が破裂しそうだった。
これ以上見たら、窒息するか、心筋梗塞で死んでしまうっ!!
私が思わず目を瞑って顔を下に向けると、不知火先輩は「ふふっ。明、可愛いね。」といって笑った。
そして、先輩は絵筆を立ててキャンバスに向かうと、もう芸術家の目になっていた。
でも、・・・・それでも自分の気持ちを私に語ってくれた・・・・。
「僕はね。自分がキレイキレイと言われて育ってきたんだ。
周りの子たちはね、男も女も皆、僕のことを綺麗って言ってきたんだ。
よく人は言うよ?「不知火君って、絶対に自分が綺麗だって思ってるよね?」って・・・・
僕は言いたいよ。
僕のことを綺麗だって思っているのは君たちの方で、そう僕に言ってきたのは君たちの方だって・・・。
僕はそれを聞いて自分が綺麗だって自覚しているに過ぎない。
でも、この世の中は他にも美しいものに囲まれているじゃないか。
ドブネズミには、写真には写らない美しさがあるって歌ったのはブルーハーツだったね。
僕はそれを描きたい。写真には写らない全てを描いて美しいものを表現したいと思ってきた。
・・・・・でも、君はそれだけとは違うんだ。
ずっと、この美術室で僕と一緒に絵をかいて、そんな僕のことを尊敬してくれていただろう。
気持ちがよかったんだよ・・・・・。僕の容姿よりも僕の絵を評価してくれている君が・・・。
そんな君が女の子になってから、僕は君の容姿にも惹かれだしたんだ。
もっと、君が見たい。
もっと君の全てを見て、君の全てを描き出したい・・・・
そして、それ以上にさ。明、君に僕を見てほしいんだ・・・・・・・だから、ごめんね。
ちょっとエッチな手段だけど・・・・僕も負けたくないから・・・・・さ」
不知火先輩は、長々と本音を語ってくれた。
わかる。
これは不知火先輩が自分の全てをさらけ出して、その全てを私にぶつけようとしているんだって・・・・。
先輩は何処までも芸術家なんだね。
先輩がその女性的な手で描く絵は、繊細なようで激しい感情をぶつけあうような表現に包まれている。綺麗な部分も汚い部分も全部、これでもか、これでもかってぶつけ合わせて、調和の取れた絵を描く。
それが先輩の芸術。
それは恋愛でも同じなんだね。
先輩の綺麗な部分も鬱屈した部分も全部全部、私にぶつけてくれる。
それが、先輩の女性の愛し方なんだ・・・・・。
私は、不知火先輩の絵に再び注目する。
そこには、私がいた。自分を描くために見つめる不知火先輩の瞳から逃れるようにしながら、それなのに、先輩を窓ガラスを鏡代わりに使って先輩の目を見つめている私がいた・・・・・。
ああ・・・・
先輩は、私の全てを描こうとしてくれている・・・・・。
これが、先輩から見た私なんだ・・・・・。
でもね、先輩・・・・・・・。
「先輩、私、こんなエッチな展開ばかり臨んでいるわけじゃありませんから。
ちゃんとした恋愛だってしたいんですよ?」
私が腕組してそう宣言すると、不知火先輩は
「そうだね。普通にデートして、美術館や綺麗な風景を見に行ってさ。そういうのいいね。」
というと、ニッコリ笑って
「でも、”こんなエッチな展開ばかり臨んでいるわけじゃありませんから”って、ことは、こういうの嫌いってわけじゃないってことだよね?」
って、私の顔を覗き込む。
んにゃああああー-----っ!!!
ば、バレちゃった!!エッチな子だって思われちゃったかなっ!?
「墓穴を掘ったのぅ・・・・・
まぁ、安心せい。不知火は女子のそういう部分にさらされてきた男じゃ。お前の女心を攻めたりはせんわっ。
ほれ・・・・。不知火はもう絵に取り掛かったぞ。お前もいつまでも呆けておらんで、芸術に集中せい。」
見ると、不知火先輩はもう絵に集中してた・・・。
はい・・・・私も絵に集中します。
それが、私が今やるべきことですもんねっ!!
それからは部活が終わるまで、二人は何も言わずに絵に集中した。
校舎の外の部活動の音だけが美術室に響いていた。
そして、部活が終わり、職員室に鍵を返し終わった時、私の前に隆盛と初が待ち構えていた。
「一緒に帰ろうぜ。」
なんて隆盛が言うもんだから、不知火先輩は苦言を呈する。
「君は空手部のエースだろう?いま、ここにいてもいいのか?」
隆盛はムッとして「俺は家が本番でこっちは、どっちかというと指導員役です。ずっと一緒にいたら、プレッシャーで部員が逆につぶれてしまいますよ。」と、言い返す。
ちょっと・・・・・喧嘩しないでよ・・・・。
怖いんだからね・・・・・。
私が怯えていると、初が、私の手を引いて「行こ。明ちゃん。私、喧嘩する人嫌い。」といって連れ出そうとする。
遅れた隆盛と不知火先輩が、慌てて追いついてくる。
「あっ!!おいっ!!手を握りやがって!!触るのは禁止だろっ!!」
隆盛が目ざとく私の手を引く初の右手を見つけて注意するも、初は動じず
「女の子同士だからいいんです~。」
と、言い返す。
隆盛は震える拳で怒りをこらえながらも、それ以上何も言い返せないらしい。
・・・・ど、どういう理屈?
私が混乱していると、不知火先輩がイラついた顔で紙を私に差し向ける。
「今日、渡したくても渡せなかったけど、いま、踏ん切りがついた!!
今度の日曜日、僕と美術館へデートしてくれないか?」
・・・・
・・・・・・えええええええっ!!
うそ、やだ。もしかして、初めて男の人にデートに誘われちゃった!?
今まで、女の子をデートに誘ったことはあっても、誘われるのって初めてっ!!
なんていうか、こんなの嬉しいものなのね!!
デートに誘われるのって!!
胸の鼓動で震える指先でチケットを私が受け取った瞬間、隆盛がそれを奪い取った。
「あっ!!なにするのよっ!!」
思わず声を上げちゃった。
そしたら、隆盛が「俺も行く。」って言いだして、チケット見ながらスマホで検索する。
「ふーん。美術館が大理石像を展示してんのか・・・」
「よしっ!俺も行くぞっ!!」というので、初も対抗して、「私も行くもんっ!!負けないもんっ!!」っていいだした。
え?
なにこれ・・・・・。
私、男の人3人とデートに行くの・・・・?
戸惑う私にお姉様がそっと耳打ちする。
「それは、どうかのう。本命がお前とは限るまいに・・・・・。」
?
それって、どういう意味?
お姉様は何も答えてはくれなかった・・・・・。