5
ある日を境に? それなら、対自分に向けての審美眼がくるったわけではなさそうだ。何か原因があるのではないだろうか。でも、チェスター様のことを深く知っている家令がわからないのなら、わからないわね。
「ただ、チェスター様はそれ以前から女性を苦手とされており……、ここまで酷くなったのはその日からですが」
なるほど。……と、そんな話をしている間に、チェスター様は復活した。
「はぁ、はぁ。もう少しで三途の川を渡るところだった」
そういいながら、起き上がる。私はそのとき、何か違和感を感じたのだけれど、すぐに忘れてしまった。
「チェスター様、まだご無理はされない方が」
慌てて家令が、チェスター様に近寄ったけれど。チェスター様は、首をふった。そして、私と若干目線をそらしながら、チェスター様は言った。
「美しい君。リミカ・ブラウン嬢。婚約を、解消しよう。君が、可哀想だ」
「いいえ。チェスター様。私はぜひ、チェスター様と婚約を続けたいと思います」
女嫌い……ではなく、人見知りで、自分のことを醜いと思っている公爵閣下。私は、あなたのことをもっと知りたいと思う。
「……っ。わかっているのか? 婚約を続けるということは、いずれ結婚するんだぞ」
「はい。それとも、チェスター様は、私のことがお嫌ですか?」
ここで、お父様に仕込まれた得意の嘘泣きをする。震えながら、ぽろぽろ、と涙をこぼす様は、儚げに見える……はず。まぁ、公爵閣下には通用しないとおも──。
しかし、チェスター様はそんな私を見てわかりやすく狼狽えた。
「いっ、嫌じゃない。嫌じゃない、どころか、君のように、心も見た目も美しい女性と婚約できることは、とても私にとって……」
母から受け継いだこの見た目はともかく。心は全く美しくない私だけれど。
「では、これから婚約者として末長くよろしくお願い致しますね! チェスター様」
私がチェスター様の手をとり、満面の笑みを浮かべると。
「あ、ああ。……なんて可愛い……うっ」
チェスター様は再び倒れてしまったのだった。




