32 昇進試験5
ズバァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!
突き出した両手から、全てをなぎ払うような咆哮が迸る。
雷をまとった極太の閃光が、俺の両手からあふれ、レッド・ジャイアントの鼻っ柱に炸裂。
顔面に熱湯をぶっかけられたみたいにのけぞる、超デカブツ野郎。
いや、ヤツは炎属性のモンスターだから、冷水といったほうがいいだろうか。
……ごほおぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ……!?
よし、少しは効いたようだな……!
俺は『暴龍咆哮拳』の反動で吹っ飛びながら、手応えのようなものを感じていた。
この瞬間のために、空中で撃つのを何度も練習したんだ。
しかし、どうやっても反動だけは抑えることができなかった。
しょうがないので、リコリヌと一緒に空中で受け身を取ることを練習した。
俺はリコリヌに跨がったまま、胴体に両手両足を絡め、背中にしっかりとしがみつく。
俺が緊急着陸姿勢を取ったことを察したリコリヌは、空中でクルクル回転して、四つ足でシュタッと着地した。
それは体操でいえば、文句なしの10.00の回転ジャンプだったんだが……。
壁に映っているマスゴミーと観客たちは、拍手ひとつしない。
俺が映っているのであろう塔の外壁を、みなあんぐりと口を開けたまま見上げているようだった。
その中のひとりが、『な……なに……』と漏らした。
『なに、今の……?』
『い、犬に乗って、ジャイアントの身体を駆け上がって……』
『頬に、突っ込んだ……?』
『それに、跳ね返ったところを、手から光線みたいなのを出して……』
『ジャイアントを、のけぞらせるなんて……!?』
ひしめきあう観衆のなかで、ひときわ大きな笑いがあがった。
『……あっはっはっはっはっはっ! あーっはっはっはっはっはっはっはっ!』
暗雲をかきわける太陽のような、黄色い爆笑。
そんな声で笑えるヤツを、俺はひとりしか知らない。
『あっはっはっはっはっはっはっはっはっ! セージ君はやっぱりのっけから飛ばしてくれるねぇ! あはぁーーーっとぉ!? 見て見て! レッド・ジャイアントのあの顔! 初めて親から殴られた子供みたいな顔してるぞぉーーーーーっ! あっはっはっはっはっはっ!』
彼女は客席からぴょんぴょん飛び跳ね、太陽光線のような髪の毛を振りまきながら指さしている。
周囲にいた生徒たちは、ホームレスが王女様だったと知ったように仰天。
一斉にふれ伏していた。
『ご、ゴーシップ様っ!? どうしてあなた様が、このような場所にっ!?』
『賢者候補生様はみな、あちらの「水の塔」でご覧になられているというのに……!』
今回の特設ステージは、『天地の塔』と『水の塔』の間に作られていて、従者候補生以下はステージ前の立ち見席で観覧している。
しかしVIPである賢者候補生は、学園の食堂棟である『水の棟』の上階から観覧。
野球場のボックス席のように、戦う俺と、その模様に群がる野次馬たちを優雅に見下ろしつつ、食事やカフェを楽しんでいるというわけだ。
ゴーシップは手をパタパタ振りながら、下々の者たちに向かって気さくに笑う。
『あっはっはっはっはっ! セージ君を間近で見たくって! でもみんな、気にしなくていーから! そのままそのまま! おーいっ! マスゴミー君っ! サボってないで、実況実況っ!』
彼女はとうとう、ステージに向かってヤジまで飛ばしはじめた。
彫像のように固まっていたマスゴミーは、ライバルにハッパをかけられた途端、
『ば……バッカ! 五流新聞部の部長に言われなくても、わかってますカァらーーーーっ! ……ば……バッカなセージがレッド・ジャイアントにファーストアタックを決めた? いや決めなかった!? たとえ決めたとしても偶然ですカァーーーーーーッ! そうに違いありません! 奇跡は一度しか起こらないから奇跡というんですカァらーーーーっ!!』
いつもの喧噪を取り戻したヤジを背に、俺はレッド・ジャイアントから少し離れた床の上で、ヤツの出方を待っていた。
あの超デカブツは図書館の本によると、最初は足を使った攻撃しかしてこないらしい。
足元にじゃれつく人間どもを、払ったり、踏み潰したり。
その間は、足のリーチ圏外まで離れると安全になる。
それでも懲りずにじゃれついていると、ヤツは本気になって、離れた相手にも炎で攻撃をしてくるようになるそうだ。
炎はこの謁見場のどこにいても届くらしいので、その時点から安全地帯は一切なくなる。
だから離れてヤツの出方を伺えば、今までの攻撃が効いていたのかどうか、ひとつの物差しになるんだ。
……ごおおおおおおおおおおお……!
問題のレッド・ジャイアントは、灼熱が空気を焦がす音とともに、俺を見下ろしていた。
もう俺の仲間たちには目もくれていない。
玉座の肘掛けに置いたままの手、その左手のひとさし指を、ピッ! と弾いた。
その途端、
……キインッ!
指先からレーザーサイトのような細い光が放たれ、ヤツの足元から線を引くように俺の身体に向かってきた。
リコリヌは咄嗟にサイドステップして、その軌跡から逃れる。
ほとんど間を置かず、
……ごばばばばばばばばばばばばばばばばばっ……!!
床から炎の柱が噴き上がり、レーザーの後をなぞるように走り去っていった。
……なるほど、ヤツの左手のひとさし指の爪は、炎の魔法を生み出すことができるのか。
どうりで、活き剥ぎの対象部位になっているわけだ。
そして最初のレーザーには攻撃能力はなく、そのあとに来る炎の柱の攻撃が本命ってわけか……!
壁に映し出されていた画面がパッと切り替わり、満面の笑顔で埋め尽くされた。
『あっはっはっはっはっはっ! ファーストアタックで、いきなりレッド・ジャイアントを本気にさせちゃうだなんて! 半年前に“聖人”バーナード君が挑戦したときでも、こんなに早くなかったのに! やっぱりとんでもないっ! とんでもないよ、セージ君っ! あっはっはっはっはっはっはっ!』
しかし炎攻撃が来たところで、俺はレッド・ジャイアントが本気になっているとは到底思えなかった。
だってあの超デカブツは、なおも玉座に座っている。
「今日ジャレついてきた人間は、ヒマつぶしくらいにはなりそうだな」
ヤツの表情はそう言わんばかりに、まだまだ余裕たっぷりなんだ……!
『そ……それもただの奇跡ですカァらーーーーっ! バーナード君があんなバッカなちびっ子に劣るなんて、ありえませんカァらーーーーっ! レッド・ジャイアントはきっと、奇跡的に調子が悪かっただけですカァらーーーーーーーーーーーッ! しかしもう遊びはやめて、そのアリンコとノミッコを、ペチャンコにしてやるんですカァらーーーーーーーーーーーッ! ああっ、ということはっ!? アリンコとノミッコは人生最大のラッキーに助けられたあとに、床のシミになっちゃうんですカァーーーーーーーーーッ!?!?』
実況はとうとう、レッド・ジャイアントの気持ちまで代弁しはじめた。
まあ俺にとっては雑音だからどうでもいいけど。
でもゴーシップのヤジはなかなか有益だったな。
かつてバーナードとかいう賢者候補生が挑んだ時は、このモードにすぐには入れなかったってことは……わりといいペースかもしれない。
……よしっ、このペースで、ガンガンいくぜっ!!




