30 昇進試験3
俺たちは円陣を組む。
それは、デカイやらチビっこいやらの集まりだったので、歪な形をしていた。
リーダーであるシトロンベルが、俺にオデコをこつんと当てながら、みなに言う。
「……みんな、とっても難しい昇進試験なのに……パーティを組んでくれてありがとう。でも、あんまり無理しないでね。危ないと思ったら、すぐに逃げてね」
額ごしに緊張が伝わってくるかのようだ。
俺は軽口をたたく。
「わかってるって、膝を枕に死ぬには、あのデカブツのはちょっと大きすぎるからな」
すると、ぷくっ、と頬が膨らむ音がきこえた。
「もう! 私は特に、セージちゃんのことを言ってるんだよ!?」
「なんで特に俺なんだよ」
「この中ではいちばん、セージが無茶しそうでごわすからな! がはっはっはっはっ!」
ズングリムックが豪快に笑うと、つられてみんなどっと笑った。
ピリピリした表情も、だいぶ和らいだようだ。
俺は拳を高く掲げて宣誓する。
「よぉーし、やるからには絶対成功させるぞ! みんな、俺についてこい!」
挙げた拳は、あばれるちゃんの頭にも届かないほど低いものだったが、声だけは天に突き抜けんばかりであった。
「うん! がんばろうね、セージちゃん!」
「おおっ! ドジったら承知しないぞ、バカセージっ!」
「以前とは違う私を、見ているがいい、セージっ!」
「セージっ! 帰ったら、トンカツでごわすっ!!」
俺は仲間たちとともに、ボス部屋へと繋がる回廊に、キッと睨みをきかせる。
「じゃあ……! いっくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
……戦いでもなんでも、物事ってのは最初が肝心。
敵の、そして味方に対しても、初っぱなから度肝を抜いてやるのがミソなんだ。
そうすれば、驚きで敵の出鼻を挫けるし、仲間も鼓舞することができる。
だからこそ俺は、リコリヌと秘密の特訓をしたんだ。
俺と相棒が贈る、最初のサプライズは、コイツだっ……!
……ひらりっ!
俺は隣で待ち構えていた、大型犬のリコリヌに飛び乗ると、
「ゴーッ! リコリヌっ!!」
……ゴオッ!!
ミサイルのように、カッ飛んだ……!!
風を唸らせつつ、ロケットスタートを切ると、
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
腰も抜かさんばかりの声が追いかけてくる。
いや、実際に腰を抜かしていたかもしれない。
「り、リコリヌちゃんに、乗った……!?」
「わああっ!? あれじゃ、バカバカ走る馬みたいじゃないかっ!?」
「賢者候補生様の中には、より機動力を得るために、馬に乗ってクエストに挑まれる方もおられるが……! まさか、犬とは……!」
「がっはっはっはっはっ! この塔で犬に乗ってクエストに挑んだのは、きっとセージが初めてでごわすっ!」
俺は一瞬にしてボスフロアへと繋がる廊下を走り抜け、さらなる広大な回廊へと一気通貫。
巨人の国の、巨人城の謁見場のような壮大な通路。
奥にある玉座には、まだ誰もいない。
ふと、室内の外壁に一面、映像のようなものが映し出される。
それは、この塔の外に開設されている、中継用の特設ステージの模様であった。
『バッ……!? バババババババババッ!? バッカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?』
塔に入ってようやく解放されたと思った騒音が、水晶壁を震わせるほどの音量で室内に響く。
どこに目をそむけても、暑苦しいどアップが俺の目に飛び込んでくる。
実況のマスゴミーは、凶作をもたらす太陽のような、放射状に伸びる真っ赤なツンツンヘアー。
擬人化された真夏の太陽のような、派手なグラサンをかけている。
色黒でテカテカの肌で、半月に切られたスイカみたいな大口を開けていた。
ヤツは映った瞬間は仰天していたが、すぐに我を取り戻すと、
『バッ……バッカですカァーーーっ! バッカが乗る犬のケツぅぅぅぅぅっーーー! 犬に乗るだなんて、発想がまさにホームレス!! さすが無宿生!! きっとすぐに落馬……いや、落犬して地面に這いつくばるに違いないですカァーーーーーっ! バッカなセージ、開始そうそうリタイア! しかもバッカな自爆で! バーッカッカッカッカッカッカッ!!』
例の人を食ったような口調で煽り立て、高笑いをはじめる。
……外でどんな風に中継されてるなんて、こっちはまるで興味はないんだが……。
でも、ヤツらの意図はわかった。
わざわざ壁に映してまで見せつけることで、俺たちの集中力を奪おうとしてるんだ。
まったく……。
かつてないほどの難易度の『昇進試験』を押しつけるだけじゃ飽き足らず……その最中にまで邪魔をしてくるとは……!
本当に、何もかも腐りきったヤツらだな……!
だが、見てろよ……!
その人をバカにしきった実況が、いつまで続けられると思うな……!
ステージの上で、吠え面をかかせてやるっ……!
俺は今回の敵である『レッド・ジャイアント』とまだ会ってもいないのに、新たな敵に闘志を燃やしていた。
その情念が移ってしまったのかのように、
……ゴォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーッ!!
ビルのように高い玉座が、突如として火柱に包まれた……!
そして……逆巻く炎の滝から、ゆっくりと……。
……ごほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!
息吹きのような炎を、噴出させながら……。
……ごほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ……!!
紅蓮の巨人が、その巨影をあらわした……!
「す……すげえっ……!?」
俺もリコリヌも進むのを忘れ、許しがたいほど広大無辺な存在を見上げていた。
マジで、デカいっ……!?
ヤツの足の親指と、俺の頭が同じくらい。
大型犬のリコリヌですら、ヤツの前では赤ちゃんネズミに見える。
金剛力士像のような鍛え上げられた身体は、燃える鉄のように赤く熾っている。
しかしながらヤツは玉座に身を預けたまま、ネズミを見る百獣の王のように、不敵な笑いを浮かべていた。
「今日のお客さんは、いちだんと小さいな……!」と言わんばかりに。
少し遅れて、シトロンベルたちも部屋になだれ込んでくる。
そして俺と同じように気圧され、足を止めていた。




