表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の胆石  作者: 佐藤謙羊
第2章
77/119

16 リコリヌ無双

 俺は頭に黒猫のリコリヌを乗せて、森を出た。

 天地の塔に向かってテクテク歩いていると、道行く女生徒たちが俺を見て、なにやらヒソヒソ言い合っている。



「あっ、見て見て! あの子、猫を頭に乗せてる!」



「よく懐いてるね、かわいい!」



調教師(テイマー)の新入生かな?」



「いや、よく見たらあの子……セージくんじゃない?」



「あっ、ほんとだ!」



「セージくんって、あんなに小さいのに、ドルスコイ様をやっつけちゃったんだよね」



「もうあんなヤツに、『様』なんて付けなくていいでしょ。ドルスコイでじゅうぶんよ」



「そーそー! 私なんて、クソ虫って呼んでるもん!」



「そんなことよりさぁ、セージくんてかわいくない?」



「実は私もそう思ってた! 猫を乗せてると、おとぎ話に出てくる男の子みたいだよね!」



「うう……見てると、身体がうずうずする……なんだか抱っこしたくなっちゃうのよねー!」



 俺はつい、聞き耳を立ててしまっていた。


 ……俺ってかわいいのか?


 そりゃ、40歳のオッサンだった頃に比べたら、間違いなくかわいいだろう。。

 でも我ながら、斜に構えた生意気な子供みたいだと思っていたんだが……。


 シトロンベルもミルキーウェイも、やたらとベタベタしてくるから、この世界の女性をくすぐる何かがあるのかもしれない。

 もしかしたらコレも、『賢者の石』の力なのか?



「みんなでこっそり近づいて、抱っこしちゃおっか?」



「やめときなよー。セージくんって普段はかわいいけど、怒ると超こわいって話だよ!」



「うん、クラスの男子も言ってた! アバレルさんにイタズラしたときに、セージくんに睨まれたそうなんだけど、まだ子供なのに鬼みたい怖かったって!」



 ……俺ってこわいのか?


 そりゃ、怒って睨みつけたことなら何度かあるが……。

 睨まれたヤツが、こうやって噂にするくらいビビってただなんて、思いもよらなかった。


 たまに授業に出ても、なんだか腫れ物扱いで、クラスで浮きまくってる気もするし……。

 それでいて俺のことを、落ちこぼれだってバカにしたがるんだ。


 たぶん賢者(フィロソファー)候補生の命令で、無理してやってるんだろうけど……。

 引きつった顔と声で、目もあわせずにからかわれても……なんだか逆に気の毒になってくるんだよな。


 俺はいまさらながらに、この学園で独特な立場を確立しつつあることを再認識する。


 そうこうしているうちに塔に到着。

 まわりには顔見知りはいなかったので、単独(ソロ)での探索をすることにした。


 すると俺の考えを見透かしたかのように、「フニャー」と不満そうな鳴き声が降ってくる。



「ああ、悪い悪い、ひとりじゃなかった。お前という相棒がいたんだったな」



 帽子のように頭の上で寝そべっているリコリヌを撫でつつ、俺は地下への階段へと足を向ける。


 昇降機も使えないし、ずっと上ばっかり目指してたから、たまには地下に行ってみるのも悪くないと思ったんだ。


 地下鉄に繋がる階段のような、整備された幅広の段差を降りると、土の匂いが迎えてくれる。

 青白い光に照らされ、茶色い土壁に影を落としつつ、多くの生徒が発掘作業にいそしんでいた。


 地下1階はモンスターもほとんど出ないので、安全に発掘できる数少ない場所だ。

 戦闘が得意ではない生徒たちがポイント稼ぎに利用しているので、1階はいつも混んでいる。


 と、いっても……1階で採れる鉱物は低ポイントのものばかり。

 生徒たちの間ではそれを皮肉って、『内職』と呼んでいるらしい。


 内職中の彼らの間をくぐり抜け、以前『ジャイアント・スパイダー』と戦った広場を抜け、地下2階へと進む俺。


 すると人の姿はだいぶ少なくなり、かわりにモンスターがぽつぽつと出始める。



「ギャーッ!!」



 ヒステリックな鳴き声とともに、物陰から飛び出してきたのは……。


 土色の肌に、つるんとした頭にはロウソクを灯しているような小さな炎。

 尖った耳に尖った牙、身体は俺より少し大きいくらいなのに、かなりの老け顔。


 天空階のザコの代名詞が『ゴブリン』なら……コイツが地下階のザコの代名詞、『インプ』だ……!

 といっても、今襲いかかってきたのは『インプ』より多少強力な『ファイヤー・インプ』。


 発火(ファイヤリング)の魔法を使い、微弱ではあるものの炎攻撃を仕掛けてくる。

 そのため攻撃力は『ゴブリン』以上だが、頭の火を消されると即死するという弱点がある。


 俺は待ってましたとばかりに、特訓の成果を試させてもらうことにした。

 さっきまで寝そべっていたリコリヌも、俺の頭の上で四つ足で立ち、「フシャー!」とやる気十分。



「ゴーッ! リコリヌ!」



 俺のおでこを後ろ足で蹴って、撃ち出されたようにインプに飛びかかっていくリコリヌ。

 それは子猫ながらにかなりのスピードで、黒い弾丸のようだった。


 瞬きよりも速く着弾するなり、その勢いのまま、



「シャアアアアアアーーーーーーーッ!!」



 インプの顔面を、前足の爪でバリバリと引っ掻く。



「ギャアアアアアアアーーーーーーッ!?」



 一瞬の出来事に何が起こったのかわからず、インプは奇襲を仕掛けてきたはずなのに、不意打ちを食らったようにのけぞっていた。


 その頃には俺が懐に潜り込んでおり、引っ掻き傷で血だらけのアゴにアッパーをお見舞いしてやると、あっさり沈んだ。


 しかしひと息つくヒマもない。

 追加のインプがどやどやと現れたので、



「よし、行けっ、リコリヌ! 頭の火を狙うんだ!」



「フニャーオ!」



 良い流れに乗って、我が相棒をけしかける。


 今回は狙う箇所を指定してみたのだが、リコリヌは我が意を得たような大活躍。


 インプの身体をするすると登って、鋭いネコパンチで頭の火を叩き消す。

 白目を剥いたインプが崩れ落ちる前に、頭を蹴って別のインプに飛び移る。


 敵の頭の上に立ち、わざと敵の攻撃を誘い、同士討ちさせるという頭脳プレーも見せた。


 最後に残った1匹は、ソイツの頭の上に座り込み、



 ……しゃぁぁぁぁ……。



 お小水でトドメを刺すという、屈辱的フィニッシュまで披露してくれた。


 実戦は初めてのはずなのに、たった1匹でインプの群れを全滅させるとは……!



「おお~!」



 思った以上の特訓の成果に、俺は思わず手を叩いて喜んだ。


 戦いを終えてブーメランのように戻ってきたリコリヌ。

 軽やかに俺の肩に飛び乗ると、匂いつけするみたいに頬にスリスリしてくる。



「よーし、よくやった! 偉いぞ、リコリヌ!」



 毛並みをわしゃわしゃして褒めてやると、今日のヒーローは嬉しそうに喉を鳴らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★新作小説
空気の読めない古代魔法~スマホにハンドガンに宅配ピザ!?
何の適正もなかった落ちこぼれ少年に与えられた、古代魔法…!
それは脅威のオーバー・テクノロジーであった!


★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ