第9話 赤城隼人の謝罪
「昨日は大変だったな~」
と、茜はため息混じりにそう呟いた。
昨日、隼人に鍋をごちそうして貰った後、すぐにでも逃げたかった茜だが、半ば強引に車に連れ込まれ、家まで送られた。
いかにも、金持ちが使うようなリムジンで帰った為に近所から何か言われるんじゃないかと危惧して、一応は家より少し離れた場所に停めてもらった。
「というか、何でそもそも私の家を知ってるんだよ....」
誰に疑問を漏らす訳でもなく、茜は早朝で若干霧が立ち込めている道を散歩する。
今後の隼人対策の為にも、考えをまとめる必要があるし、昨日、家に帰ってきた母が泣きそうな顔をして、凄く疲れたようにしていた事も気になるのだ。
と、色んなことを考えている茜の前に一人の影が見えた。
「おはよ」
整いすぎて、一種の畏怖さえ覚える美貌に、人を従わせるオーラ、爽やかながらも、重低音の声。
「赤城さん」
赤城 隼人だった。
こんな早朝にいったいどうしたのだろうかと、今度は一体何をするつもりなんだと、警戒を強めた茜だが...
「昨日は、悪かった」
いきなり、頭を下げて謝ってきた隼人に、茜は驚きを隠せなかった。昨日みたいな、狩人のような雰囲気はない。
「え、ちょっ....どうしたんですか?」
茜はいきなり謝りだしてきた隼人に驚きを隠せず、アタフタしながら、頭をあげてくれと頼む。
もし、これが隼人を慕う仲間たちに見られたらヤバイのは目に見えている。
「昨日の扱いは流石に無かったと思ってな……茜、流石に嫌だっただろ?」
昨日の扱い、というのは、茜を無理矢理に膝の上におき、雛鳥のように食べさせ、人形遊びのように扱っていたことである。
確かに、茜はそれは嫌だった。痛くなかったにしろ、関節技を決め込まれたり、まるで赤ん坊のように抱かれたのは結構な屈辱でもあった。
「え、あの……何で、分かったんですか?」
茜は疑問をもらす。
昨日まで完璧に何もわかってないように、暴走状態だった隼人がいきなりこんな風に謝れば流石に驚く。
茜の中での隼人は、頭の可笑しい人という感じなのだが、それは似て非なる。隼人は無知なだけであり、周りが肯定しか出さないばかりに可笑しな方向へ行ったにすぎない。
「昨日、お前の友達に怒られてな…」
「友達?」
誰のことだろうかと茜は思った。
そもそも、自分に友達なんていたのか?と、最低なことまで考える程に見覚えがなかったのだが…
「真っ黒な……かずまって名前だった」
「かずま君が?」
動揺する茜を尻目に、隼人は昨日のことを思い出す。
恐がりながらも、自分に怒りをぶつけ、茜の為に声を張り上げた少年。
「その子に言われて、謝ろうって思ってな……
色々なことを含めて、すまなかった」
再度、彼は頭をさげる。
それを見た茜は、自分の中での隼人という存在を改めて認識する。
「(案外、ちゃんと聞いているんだ)」
何も聞いていない男だとおもっていた。
周りを見ていないか、自分を肯定する人間のいうことしか聞かない人間だと思っていたが、そうではなかった。
ちゃんと周りを見て聞いているんだ、ちゃんと自分を否定する人間のいうこととキチンと耳にいれている。
茜は素直にそれを称賛した。
「顔を上げてください。
そりゃ……確かに屈辱だったけど…でも、分かってくれて嬉しいです」
茜は初めて隼人に笑顔をもらした。
愛想笑いでもなく、苦笑でもなく、心からの笑顔だった。
「可愛いな本当に!!」
茜の笑顔に思いが最高潮に達した隼人は思いっきり茜を抱き締めた。
「グェ!...ちょっ……ホンマに苦し...!」
赤城 隼人と 如月 茜
僅かながらも、距離を縮めた瞬間だった。
ちょっと編集させてもらいました(^o^;)




