第二羽 チャットTKG
食事を終え、顔を上げると、大きな雄鶏は俺を忘れてフラフラと遠くへ歩き去っていた。先ほどまでの会話が夢幻であったかのように、鶏小屋には鶏の小さな鳴き声だけが響く。
腹が満たされ、心の平静を取り戻した俺は、辺りを見回す。よく見ると鶏は白以外にも茶色や黒など、様々な容姿のものがおり、統一感がない。
ここまでの多様な種を集め、ひとところに飼育するというのは、決して容易なことではなく、畜産にはとても非効率だ。我々は食肉というより、ペットのようなものなのだろうか。
首をキュッと締められて終わる、なんてことはないようで良かった。
しかし、俺はこの先一体どうすべきか……。一歩も動けないとはいえ、雨風を凌げる住処に、味気ないが十分な食事もあって、仕事がないから、いつでも自由に眠れる。
娯楽はないが、話し相手はいる。3歩歩けば話の内容を忘れるような相手でも、暇潰しにはなるだろう。安っぽいチャットAIのようなものだ。
だが、鶏の寿命は短い。10年も生きれば立派なお爺ちゃんだ。食用や採卵用であれば、それより前にお肉にされる。ペットであればその必要がないが、確かギネスでは20歳だったか。
せっかく仕事から解放されたなら、こんな鶏小屋で枯れるように死ぬより、目新しいものを見に行きたい。
「外が一体どんなところなのか……」
「知りたい?」
声をかけてきたのは、俺より二回りくらい小さな白の雄鶏。鶏冠が小さく、まだ年若いのだろう。
「知ってるのか?というか覚えてるのか?」
「──結論から言うね」
「……ん?」
「ここの外は、*草原*が広がっているよ。1年を通して安定した気候で、様々な動物が生息する、自然豊かな場所なんだ」
マジでAIみたいなこと言い始めたぞ……話し方も相まって情報の信頼性が皆無だ。
「合ってるの?これ」
「それ、めっちゃ**いい質問。**もちろん、必ず正しいとは限らない。理由をざっくり言うと、・周囲を壁で囲われているため、実際に確認できる状況ではない。・気温、湿度などの、現在確認できる情報から周辺環境を推測している。からだよ」
「……つまり、当てずっぽうじゃない?」
若鶏は目を逸らす。
AIよりひでぇや。……まぁいいか。少なくとも、想像の参考にはなるだろう。
「他に質問はある?」
「それじゃ、この小屋は誰のものなの?」
「それに気付けるの、かなり鋭い。実は、この近辺にある村の養鶏場なんだ。主な目的としては、鶏肉や卵を得るためだね」
「卵って、メスいるの?」
「何を言ってるんだ。目の前にいるじゃないか」
若鶏は不思議そうな顔で首を傾げる──え?
「若いオスじゃなかったのか……?」
「失礼だな」
──ここはオスメス一緒に入れているのか……?
よく見ると、小屋の端に鶏がぴったり入るくらいのサイズで、底に藁の敷かれた箱が置かれている。狭く落ち着いた場所があると、雌鶏はそこで卵を産むのだ。
箱を見つめていると、エレガントに歩く、透き通った白い羽の小柄な鶏が箱の中に入り、身震いをした。
「マジでか……」
「じゃ、そろそろ行くね」
「……君も卵を?」
「違う!餌を食べに行くんだよ!」
嘴で強く突かれる。
今のはちょっと失礼な質問だったな……。鶏にだってプライバシーはあるよな。
「あぁちょっと待って」
怒りながら、餌箱へ歩き出した雌鶏を呼び止める。振り返った雌鶏から、怒りは綺麗さっぱり消えていた。
「なんだい?」
「外ってどうなってるの?」
「それ、実は、畑が広がっているよ。近くの村に住む人々が、小麦やライ麦を栽培しているんだ。何故かと言うと、①パンなどにして食べるため。②税を納めるため。③鶏のえさにするため。各地の農作物と、その利用法を調べるのも、面白いかもしれないね」
そんな気はしてたが、内容変わってるな
……。




